第168話 実戦
例の指揮官の男が吐いた通り、僕たちが占領部隊を潰してから四日ほど経ったところで、穴埋め部隊らしき集団がロルム付近に現れた。
近くに行くと自分たちの存在がバレる恐れがあるため、遠距離から葵さんに確認をしてもらったのだが、バルトロと清水さんの姿が見えたらしい。
失敗の許されない実戦の時が、とうとう訪れたのだ。
「幸いな事に、僕たちは既に試験運用を終えています。打ち合わせ通りに、前回と同じように事を運びましょう。悲観的に準備を終えた以上、あとは楽観的に作戦を実行するのみです」
「はい、努君。いつも通りに」
町長の屋敷にて、僕はこの言葉を最後に、葵さんと黒曜の通信球での連絡を終えると、今度は隣に連れていた町長の方に向き直った。
「今の話は聞いていましたね? あなたがやる事も、前回と変わりありません。帝国軍に違和感を与えないように、彼らを招き入れればいいだけです。失踪した部隊について、向こうも色々と聞いてくるかもしれませんが、知らないふりをすれば問題ありません。こんな地方の街が、一部隊を丸ごと潰したなんて、向こうも信じがたいでしょうから」
「‥‥‥分かった。だが、結局貴様の目的は何なんだ?」
最近まで、僕のことを帝国軍の回し者だと思い込んでいた町長は、帝国軍を虐殺した僕に向かってそう聞いた。
しかし、これに答える義務は僕にはない。
「最初に話をした時と、僕の返答は変わりませんよ。あなたのご想像にお任せします。無闇矢鱈に、情報を開示する趣味はないので。‥‥‥今回の仕事が終われば、僕はあなたを身内共々解放してもよいと思っています。ですから、くれぐれも失敗のないようにお願いしますね?」
そうして、僕は話を終えると、町長を城門の前に送り出した。
この後の流れは、概ね試験運用と同じだ。
帝国軍の連中を、ゾンビだらけのロルム内部に誘い込み。
適切なタイミングで、ターゲットの人間に奇襲を仕掛ける。
今回の場合、第一目標は清水さんだ。
「あ~、ロルムの代表に通告する。我々と諸君らの戦力差は明確であり、これ以上の戦いに意味はない。降伏の意思があるのならば城門を開けろ」
城壁の内側で待機していると、そんなやる気の感じられない、バルトロの声が聞こえてきた。
どうやら、彼らは失踪した部隊の行方を探るよりも、ひとまずロルムの占領を優先する事にしたようだ。
この様子なら、帝国軍の誘い込みまでは上手くいくだろう。
そう判断した僕は、潜伏場所に移動すると、息をひそめて待ち伏せを始めた。
そして、隊列を率いていたバルトロと清水さんが、大通りから街の中央広場に入ろうとしたところで、試験運用の時と同じように奇襲を開始する。
この際、僕はバルトロと清水さんに、[鑑定]と[看破]を同時に使用した。
すると、次のような情報が表示される。
名前:バルトロ・クルーガー
種族:吸血鬼
性別:男
年齢:四十一
職業:帝国騎士団長、ダンジョンマスター
魔力属性:無、闇
スキル:箝口令LVMAX、スラッシュLVMAX、ストライクLV4、剣撃LVMAX
箝口令LVMAX:許可した対象以外に対し、自身の情報が開示されるのを禁じます(常時発動)
名前:清水結希乃
種族:人間
性別:女
年齢:十八
職業:勇者、眷属
魔力属性:光
スキル:勇者LVMAX、秘匿者LVMAX、氷結晶LVMAX、ストライクLV2、槍術LV3
秘匿者LVMAX:無断で自身の情報が探られた場合、自身の情報を全て秘匿する(常時発動)
氷結晶LVMAX:自身を中心とした一定の範囲内に、場所を指定して氷の結晶を生成する(任意発動)
どうやら、今回の僕の[鑑定]は、二人の抱えていたそれぞれの秘密を、容赦なく看破したようだった。




