第167話 近々
あの後、僕は気絶させた例の指揮官の男に尋問を行い、ある事を聞き出した。
その内容とは、今後の帝国軍の動向だ。
今後の計画を立てるためには、まず必要になる情報である。
そうして、彼から聞き出した情報によれば、恐らく帝国軍はこの街に穴埋め部隊を送ってくるだろうとの事らしい。
穴埋め部隊というのは、その名の通り何かトラブルがあった際に、その穴埋めを行う特殊部隊だ。
トラブルがあった場所というのは、大抵の場合何らかの困難が待ち受けているため、この部隊に所属する人間は精鋭揃いとなっている。
そして何より、この部隊の所属組織は帝国騎士団であり、基本的に指揮官はあのバルトロ・クルーガーだ。
本番の時は、もう間近にまで迫っていた。
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「何? ロルム方面に送った占領部隊の消息が途絶えただと?」
「はい。本来ならば街の占領後連絡のために早馬を飛ばしてもらう手はずでしたが、未だにその連絡がありません。看過できない遅れが発生しているため、穴埋め部隊に出動してもらう事になりました」
「久しぶりの仕事ってわけか。おい清水、お前も聞いたな? 俺は部隊の連中を集めとくから、お前は馬と装備の準備をしておけ」
帝国軍の本陣にて、バルトロからそう命令された私は、慣れた調子でその指示を遂行します。
というのも、バルトロと仲間になってから私の肩書きはいつ間にか帝国騎士団長の副官という事になっており、このような仕事を任せられるのは初めてではないからです。
最初は、ぽっと出の人間にこんな役職を与えても大丈夫なのかと訝しんでいたのですが、バルトロがある種の狂人である事は周知の事実だったようで、誰もこの副官の立場を羨む人はいませんでした。
それどころか、私が王国からの亡命者だという事も相まって、私の事を哀れんでくる人までいる始末です。
もっとも、バルトロと一緒に行動する私の姿を見て、その本性に気づく人も少しずつ増えてきたようですが。
しばらくして、諸々の準備を終わらせた私の下に、部下を引き連れたバルトロがやってきました。
「久々に戦えそうなのはいいが、今度はどんな奴が出てくるのかね。王国の連中は軟弱すぎて、戦いもつまらん」
「別に、私は相手の強さなんてどうでもいいと思うんだけど。殺し合って、命が失われるその瞬間を見届けられさえすれば」
「そりゃまぁ、お前はそうだろうが」
私の言葉に、バルトロは愚痴っぽくそう返します。
このように、多少の考えの違いはあるものの、私たちの関係は驚くほど良好でした。
お互い、突然の出会いではありましたが、本音で気兼ねなく話せる相手というのは何よりも代えがたいもので。
きっと、余程のことがない限りは、もうバルトロから離れる事はないのだろうと、今となってはそう思います。
この関係が、運命なんて綺麗なものではなく、謎の声に仕組まれたものだったとしても。
「そんじゃ、準備もできたようだし出発するか。お前はより美しい死を求めに、俺はより激しい闘争を求めにな」
バルトロがそう言ったのをきっかけに、私たちは会話を切り上げて、目的地であるロルムへ馬で向かい始めます。
そうして、たどり着いたロルムの街は、一部隊がなんの痕跡も残さず呑み込まれたにしてはやたら静かで。
城壁の上から私たちを見下ろす敵の兵士たちは、美しい死に様を見せてくれそうにないなと、私はなんとなく思いました。




