第164話 布石
最初のダンジョンに到着した僕は、いつものようにその身に溜め込んだ魂を吐き出すと、ソウルポイントの残量を確認した。
結果として、現在残っているソウルポイントは297160ポイント。
増加したソウルポイントの量は240060ポイントといったところか。
一つの街の人間をほぼ殺し尽くした事を考えれば、やや少なめではあるものの妥当な値だ。
肝心の問題は、これの使い道である。
街の賑わいを装うための住人の偽装に関しては、損壊の少ないゾンビ達を用いる予定だし。
罠に関しても、ついさっき手作業で十分な数を設置したのだ。
持ち運び可能な罠もあるにはあるが、わざわざソウルポイントを使う必要性は感じない。
とはいえ、念には念を入れるに越したことはないので、今回は追加の伏兵でも用意しておく事にする。
幸い、街の中で待ち伏せする分には今の戦力で満足なため、新たに用意する魔物は野外戦闘が得意な魔物が適当だろう。
せっかくだし、新参のレークスに戦力で負けてしょげているレギナの戦力強化を兼ねるのもいい。
という事で、僕がそんな諸々の事情を考慮して召喚したのは、ソイルワームという芋虫型の魔物だ。
無論、芋虫型とは言っても魔物ではあるので、その頭には肉食動物らしく無数の牙を伴った円状の口が大きく開かれている。
体躯も巨大で、太さは直径で五十センチ、全長はおよそ八メートルといったところだろうか。
ただの兵士の相手をさせる分には、十分すぎる大きさだ。
ソイルワームには、土の中を自由自在に動き回る事ができるという特技があるため、今回はそれを生かしてこいつらをロルム周辺の草原の下に潜伏させる予定だ。
基本的に、待ち伏せは街の中で行うつもりではあるが、街の外に逃げ出した兵士がいたのなら、こいつらの餌食にするという算段である。
召喚したソイルワームは合計百匹。
一匹の召喚コストは2000ポイントだったので、合計200000ポイントの消費で、残りのソウルポイントは計40060ポイントだ。
我ながら派手な買い物をしたと思うが、後悔はない。
そうして、用事を終えた僕はダンジョンを出ると、召喚したソイルワームを引き連れてすぐにロルムへと舞い戻る。
それから、早速レギナを城門付近に呼びつけて、事情を説明してから草原に蠢く百匹のソイルワームを見せると、彼女は何とも言えない微妙な表情を浮かべた。
「主様のお気遣いは嬉しいんですけど‥‥‥ボクはあくまでも蜘蛛の女王であって、芋虫の女王ではないって、主様分かってますよね?」
「ええ、もちろん。ですが、僕が名付けたレギナという名前の意味、覚えていますよね? 僕がこのソイルワームを君に託すのは、女王としての君に期待しているからです。一応、虫仲間ではあるんですから、別に不可能ではないでしょう?」
「‥‥‥まぁ、主様がそこまで言うなら、ちょっと頑張ってみますけど」
満更でもない顔をして、レギナは僕にそう言うと、すぐにソイルワームとの交渉を始めた。
見たところ、虫仲間だからか一応意思の疎通は出来るようだ。
無論、僕には何を喋っているのかさっぱり分からないが。
程なくして、レギナは僕の下に帰ってくると、気の抜けた顔で口を開いた。
「あいつら、肉が貰えて主様の許可があるんだったらなんでもいいそうです。ボクの指揮下に入るのも、別に何ら問題ないと。肉の量の交渉で少し揉めましたけど、いざこざはそれだけですね」
そう言った後、レギナは蜘蛛たちにするように指示を出して、ソイルワームたちを地中に潜らせた。
多少草が禿げた跡はあるが、後に残ったのはパっと見何の変哲もない草原だ。
どうやら、本当に指揮権に関しては問題ないらしい。
それを見届けた僕は、レギナに労いの言葉をかけて、ロルムの街に帰還した。
さてと、第三段階も街の掃除が終わればそろそろ終了だ。
後は皆で一回集まってから、細かい待ち伏せと奇襲の手順を確認して、第四段階が始まるのをゆっくり待つとしよう。
あの苦々しい撤退戦で得た情報を生かして、バルトロと清水さんは必ずここで殺し切るのだ。




