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閑話 主無き夜の女王と王

 主様が眠りにつき、すっかり暗闇に包まれた夜のロルムにて。

 ボクとレークスはそれぞれ部下の魔物を使い、競って街の住民を虐殺していた。


 どうしてこんな事になったのかと言えば、主様がロルム制圧作戦に関する話し合いで、ボクとレークスに対してある規定を定めたからだ。

 端的に言うとその内容は、[人間の死体の所有権は、その人間を殺した魔物に帰属する]というもの。

 死体を利用する魔物同士であるボクとレークスが、虐殺そっちのけで死体集めに走らないための、主様の細かい配慮だと思われる。


 そんな訳で、ボクとレークスは柄にもなく、かなり急いで虐殺を進めていた。

 お互い部下の確保のために、ボクの場合は食事のために、一体でも多く人間の死体が欲しかったのだ。

 

 ‥‥‥しかし、現実は非情だった。

 分かり切ってはいたものの、そもそも魔物としては蜘蛛の女王(ボク)よりも不死の王(レークス)の方が格上だし。

 ボクが蜘蛛ちゃんの成体を三十匹程度しか連れて来られなかったのに対して、レークスは殺した人間を次々にゾンビに変え、爆発的に部下の数を増やしている。

 

 もはや、ボク対レークスの死体争奪戦の勝敗は明白だ

 

 結果としては、ボクが殺せた住民の数はおおよそ二割。

 必然的にレークスは八割といったところか。

 格上相手に善戦したとも考えられるけど、大敗北には違いない。

 

 とぼとぼと人気の無くなった街の中央広場を歩いていると、後ろからついて来ていた蜘蛛ちゃんの内の一匹に、肩を優しく叩かれ慰められる。

 

「く、蜘蛛ちゃん‥‥‥ショックなのには変わりありませんが、ボクがネガティブになっていても仕方ありませんね! いざとなれば、あの仰々しい言葉遣いの骸骨野郎の分から、こっそりと死体をいくつか頂戴すれば――」

「我らが主の規定を犯すつもりか?」


 不意に忌々しい声を聞いて、ギギギと錆びた機械のような動作で振り返ってみれば、そこには件の骸骨野郎がいた。

 こんちくしょうめ、いつから居たんだこいつ。


「ま、まさか‥‥‥冗談ですよ、冗談!」


 と、そんな風に口から出まかせを言ってみたものの、レークスの疑念に満ちた視線はボクから一向に外れない。

 

 おのれ、冗談だって言ってるじゃないか。

 それにまだ未遂だぞ、未遂。

 この程度なら、きっと主様も許してくれるはずだ! ‥‥‥多分。


 ともかく、ボクとしては次に何をするか考えなければならない。

 大人しく死体を食べていてもいいが、このまま何もせず引き下がるのは何だか癪だ。


 そうだ、主様が襲撃を禁止したあの屋敷から、使用人を数人攫ってくるというのはどうだろうか。

 禁止されてはいるものの、主様にとって重要なのは町長だけだろうし、使用人が数人消えててもきっと問題な――


「お主、またも不埒な事を考えているな?」

「‥‥‥」

「心苦しいが、念のため我の闇魔法で拘束させてもらおうか」

「え」

「何、翌日になれば我らが主の愛人が、揺るぎない真実を調べてくれるだろう。それまでの辛抱だ」

「ちょ、ちょっと! 冤罪ですよ、冤罪ですって! 蜘蛛ちゃんたちも見てないで助けて下さいよ!」


 そう言って、じたばたと暴れながら周囲の蜘蛛ちゃんに助けを求めたものの、みんな「自業自得だ」とでも言わんばかりに足を振って去っていく。

 親にして主を見捨てるとは、一体どういう了見なんだ。


 かくして、ボクは格上のレークスに敵うはずもなく、闇魔法で生み出された影に脚と腕を拘束され、しばらく道端に放置された。


 その後、聞いた通り日が昇ってからレークスと共にやって来た葵様に、ボクはゴミを見るような目で観察され、本当に散々な目に遭うのだが‥‥‥あれはもう、絶対に、二度と思い出したくない。

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