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第161話 持ち駒

 ここで改めて確認すると、この第二段階における主な目的というのは、ロルムの完全な制圧だ。

 そして今、その目的はほぼ達成されたと言っていい。


 何故なら、兵士をはじめとする抵抗勢力は、今や僕と葵さんによって完全に鎮圧され。

 反乱の恐れがある街の住民たちも、レークスとレギナたちによって順調に虐殺されているからだ。

 

 ‥‥‥しかし、僕にはこの段階で片づけなければならない仕事が、実はまだ一つ残っている。

 嘘の降伏宣言をして、帝国軍をこの街に招き入れるために、ロルムの偉い人を確保しておかなければならないのだ。

 面倒だが、いくら【俺】でもこの若さで町長等の偉い人として振る舞うと怪しまれてしまうため、この仕事は欠かせない。


 という事で、僕と葵さんは冒険者ギルドの処理を済ませた後、暗闇の中街の中心部にある町長の屋敷に来ていた。

 

「とっ、止まれ! 貴様、この屋敷に何の用だ!」

「ああ、ちょっと話をしに来ただけですよ。‥‥‥生憎、あなたに用はありません」


 そう言いながら、僕は律儀に屋敷の警備をしていた衛兵の一人に一瞬で近づくと、その喉をリビングナイフで掻っ切る。

 すると、周りにいた他の衛兵たちはすぐさま逃げ出してしまったので、僕は堂々と屋敷の扉を蹴破り、葵さんと共にその中へと侵入した。


 玄関ホールに入ると、運悪くそこに居合わせた女中らしき人物が血まみれの僕を見て悲鳴をあげ、そこから逃げ出そうとする。

 が、聞きたい事があった僕はその女中を即座に追いかけて捕まえ、足の腱を切って逃げられないようにしてから、座り込む彼女に質問をした。


「この屋敷の主、ロルムの町長はどこにいますか? 用事があるので、手短に教えてもらえると助かるのですが」

「‥‥‥どうせ私は殺されるのでしょう? それなのに、あんたの助けになるのなんてまっぴらごめんだわ」


 ふむ。

 悲鳴をあげていた割に、彼女は思いの外気が強いらしい。

 しかし、その最後の抵抗は全て無意味だ。


「葵さん、彼女の思考は読み取れましたね?」

「はい、問題なく。どうやら、町長はこの屋敷の地下室に潜んでいるようです。隠し部屋らしいですが、私の目ならすぐに出入口を見つけられると思います」


 葵さんがすらすらとそう言うのを聞いて、目の前の女中は絶望的な表情を浮かべる。

 僕としては彼女はもう用済みなのだが、町長との交渉に使える可能性もあるし、わざわざ殺してしまう事もないだろう。


 そう判断して、僕と葵さんはさっさとその隠された地下室の捜索作業に移行した。

 夜中ではあったが、屋敷にはそこら中に燭台が設置されていたために、明るさの問題は一切ない。

 中を動き回っていると、遭遇した使用人には慌てて逃げられるが、今すぐ殺す必要性もないので今は放置だ。

 

 そうして、少しの間屋敷の中を手分けして捜索していると、葵さんの方が先に隠し部屋の入り口を発見していた。


「書斎の本棚の奥に、何だか怪しい魔法陣が刻まれてるのを見つけたんです。それで、試しにその魔法陣に魔力を流し込んでみたら、本棚が動いて地下に続く階段が出て来たんですよ。いかにも、剣と魔法の世界らしいギミックですね」


 黒曜の通信球で連絡を受けて来た僕に、葵さんは事の顛末をそう話した。

 確かに、このギミックはいかにもファンタジーらしいありきたりなものだが、それをこの短時間で発見出来たのは間違いなく葵さんの目のおかげだ。


 僕は葵さんに感謝を伝えつつ、隠されていた階段を降りていき、最深部に現れた木製の扉を開けた。

 刹那、「ひいっ!」という短い悲鳴が聞こえてくる。


 扉の向こうにあったのは、石レンガに囲まれた簡素な地下シェルターのような空間だ。

 中には、壮年の町長とその妻と思わしき女性。

 それから、彼らの子供だと考えられる男女一名ずつの児童に、震えて縮こまっている若い女中がいた。


「とうとうここまで破られたか‥‥‥貴様、私に一体何の用だ? 我々を皆殺しに来たのか?」

「まさか、僕は話をしに来たんですよ。あなたに一つ、やってもらいたい事があるのです」


 そう切り出して、僕は緊張している町長にやってもらいたい事の説明をする。

 街の代表として降伏宣言を行い、門を開き、近いうちにやって来るであろう帝国軍を招き入れろと。

 

 それ聞いた町長は、憎悪のこもった目で僕を見て、再びその口を開いた。


「つまり、貴様の目的はこの街の無血開城か。帝国軍のために、こんな事をしでかしたのか」

「目的はあなたのご想像にお任せします。それで、結局あなたはどうしますか? 従うのなら、僕はあなたの家族とこの屋敷の使用人程度なら見逃してもよいと思っています。従わない場合の結末は‥‥‥もちろん、簡単に想像出来ますよね?」


 僕がそう言うと、勝手な想像を繰り広げていた町長は悩みに悩み抜いた末、僕に従う事を決断した。

 これにて、僕が抱えていた本日の面倒事はようやく終了だ。

 一応、まだ街の住人の虐殺作業は残っているが、それもレークスとレギナがその内終わらせてくれるだろう。

 

 その後、僕と葵さんは主のいなくなった適当なロルムの宿屋に入り、後の仕事を魔物たちに任せて、一足先に眠りについた。

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