表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

171/198

幕間 清水結希乃という女の過去⑤

 あの後も、私はいくつかの宿場町を経由しながら移動を続けて、なんとか帝都にたどり着きました。

 最低限の食事や休息はとっていましたが、なにぶん一心不乱で旅をしていたので、身体はもうすっかりクタクタです。

 そんな状態で私が真っ先に向かったのが、小さな砦のような外観をした帝国騎士団の本部でした。

 

「あの、すみません。ここにバルトロ・クルーガーという方はいますか?」


 建物の中に入り、帝国騎士団の受付係らしき人を見つけた私は、その人に恥も外聞もなくそう質問をします。

 薄汚れた格好をしていたため、周りの騎士団員らしき人からは胡乱(うろん)な目で見られていましたが、そんな事は二の次でした。

 この時、私の頭の中にあったのは、謎の声からの指示内容のみです。


「バルトロ様にご用事、ですか? 申し訳ありませんが、バルトロ様は帝国騎士団の団長でご多忙な身です。事前の約束も無しではとても――」

「いや、俺が許可する。この女は俺の客人だ」


 そう言って、受付係さんの説明に割り込んできたのは、黒い鎧を着た大柄な男でした。

 危うく追い返されるところだったので、私としては助けられた形になります。


「突然割り込んですまんな。先に自己紹介をしておくと、俺が件の騎士団長バルトロだ。お前の名前は‥‥‥清水結希乃で合ってるな?」

「は、はい」

「なら俺について来い。二人だけで話したい事がある」


 知る由もないはずの名前を当てられ、動揺しつつも返事をすると、バルトロはそう言って私をその場から連れ出しました。

 そうして連れて来られたのは、騎士団長専用の執務室のような場所です。

 

 この辺りから目的が達成されたからか、私は謎の声による影響から解放されていました。


「さてと、お前も色々と聞きたい事はあるだろうが、まずは俺の質問に答えてもらう。単刀直入に聞こう。どうして、お前は俺に会いに来た?」

「‥‥‥頭の中に突然響いてきた謎の声が、バルトロ・クルーガーに会うべきだって言ってたから。どうして従っちゃったのかは、私にも分からない」

「ふむ‥‥‥なるほどな。よし、それなら俺からも今持っている情報を教えよう。どうやら、俺とお前はよく分からん存在によって引き合わされたらしい。実は俺もな、その謎の声とやらを聞かされたんだ」

 

 そう前置きをして、バルトロは自身が聞いた謎の声の内容を話し始めました。

 それによると、彼は私が王国の勇者で死体愛好者である事を教えられ、その上でここに来た私を迎え入れるように指示されたとの事。


 死体愛好という世間では絶対に受け入れられない性癖をバラされ、私は思わず身構えます。

 しかし、それに対するバルトロの反応は意外なものでした。

 

「おいおい、気持ちは分からんでもないがそう身構えるな。実のところ、俺もお前と同じくイカれた人間なんだよ。命の奪い合いが何よりも大好きな、ご世間様からしたら度し難い戦闘狂だ」

「‥‥‥それ、本当なの?」

「もちろんだ。人の死に恋をする女と、殺し合いに恋をした男。分かり合えると思わないか? 少なくとも、俺はお前の事を気に入っている」


 バルトロは獰猛な笑みを浮かべ、私に向かってそう言いました。

 

 この時の私は謎の声に囚われ、後先考えずに行動したせいで、王国の後ろ盾を失った孤立状態です。

 そんな状況下で、このバルトロの提案を断る理由は私にはありません。

 

「分かった。あなたの仲間になるよ、バルトロ。はっきり言って、今の私には他の選択肢もないし」

「いい判断だ。謎の声の思い通りになるのは癪だが、俺たちはきっといいパートナーになるだろう。部下たちには俺の方から説明をしておく。それで早速だが、仲間としてのお前に最初の質問だ」

「何?」

「王国の勇者たちは、今どんな状態だ?」


 帝国の騎士団長として、帝国軍の一員としてのバルトロは、仲間となった私にそう質問をします。

 それに対し、私は信頼を勝ち取るためにもその答えを正直に話しました。


 三人の勇者は、未だに王城で引き籠っている事。

 それ以外の勇者は、二人の勇者の裏切りによってほぼ全滅した事。

 それから、その二人の勇者は恐らく大司教をも返り討ちにして、今も何処かで生きているという事など。


 全ての情報を洗いざらい話し終えると、バルトロは満足したように頷き、再びその口を開きました。


「という事は、今の王国にはまとも使える勇者がいないのか。これは攻め込むチャンスだな」

「私が嘘をついているとは思わないの?」

「ああ。お前は諜報員にしては杜撰すぎだし、さっきの話が作り話だとしたら突拍子もなさすぎだ。いいから、さっさと戦争の準備を始めるぞ。人がそこら中で死にまくる、殺し合いの幕開けだ」


 バルトロはそう言って、その獰猛な笑みをより一層深めます。

 また、人が死にまくると聞いた私も、気付けば軽く笑っていました。


 ‥‥‥これが、私がバルトロと仲間になるまでの物語。

 そして、戦争が始まるきっかけとなった過去の物語です。

次回より本編に戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂き、本当にありがとうございます!
楽しんでいただけましたら

↑の☆☆☆☆☆評価欄にて

★★★★★で応援してくださると嬉しいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ