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幕間 清水結希乃という女の過去④

 五十嵐さんと篠宮君が裏切り、ウォルス団長が殺されてからのレイヴ洞窟内部には、惨憺(さんたん)たる光景が広がっていました。


 辺りに響き渡るのは、慌てふためく人々の叫び声。

 そこら中から湧き出てくるのは、尋常ではない大きさの化け蜘蛛ども。

 肝心のクラスメイトたちはと言うと、殆どがパニックに陥りてんでばらばらの状態です。

 そんな状況下で、かくいう私はレイヴ洞窟の出口を目指し、真っ先に走り出していました。

 

 後ろからは時折、追ってきた篠宮君に襲われたクラスメイトたちの断末魔が聞こえてきます。

 ですが、不思議と私に恐怖はありませんでした。

 ただ、代わりにあったのは、異常なほどの高揚感です。


 何かに惹かれるように、後ろを振り返って見てみれば、篠宮君がクラスメイトの一人を斬殺している現場が目に入りました。

 当然の事ではありますが、人間の死に様を見たのはこれが初めてです。

 同時に、私が初めて恋に落ちたのも、まさにこの瞬間でした。

 

 非常識なほどに胸が高鳴り、何故だかどうしても目が離せず、どうにかして独り占めしたいと考える。

 そんな恋の諸症状を、私は突如として、クラスメイトの死に対し発露させたのです。


 もちろん、私にも倫理観はありましたから、最初の内はとても困惑しました。

 しかし、話に聞いた通り恋の魔力というのは凄まじく、私の中で倫理なんてものは容易く踏みにじられる事になります。

 それほどまでに、人間が生を失うその光景は、魂を失った人間の抜け殻は、私にとって何よりも愛おしいと思えるものでした。


『私は、恋のできない欠陥品じゃなかったんだ!』


 心の中で、私は恋を知った事にそう歓喜しましたが、下手をすると次の死体になるのはこの私です。

 

 死体に夢中になっていた私は、追撃の妨害のために[氷結晶]で篠宮君の足を凍らせると、なんとか視線を前に戻して逃走を再開しました。

 せっかく恋を知ったのに、こんなところで死ぬのは絶対に嫌だったのです。

 例えその恋が、死体愛好(ネクロフィリア)と呼ばれる異常性癖だったとしても。


 その後は、篠宮君にあともう少しのところまで追いつかれましたが、すんでのところで大司教に助けられ、結局私だけがレイヴ洞窟の外にたどり着きました。

 それから、私は外で待っていたドワルドの町長さんに、中で何があったのかを話しながらも仲間の帰りを待っていたのですが、やはりと言うべきか誰も帰ってくる気配はありません。

 

 それで途方に暮れていると、私の頭の中に突然、謎の声が響き始めます。


『人の死に触れたいのなら帝都へ行くのです、清水結希乃よ。帝国騎士団にいるバルトロ・クルーガーならば、必ずそなたの助けになる』


 謎の声が発したのは、そんな何の根拠もない説得力に欠けた台詞です。

 ところが、その言葉には逆らってはならないような気がする、不思議な力があり‥‥‥当時の私は、周囲の人々の静止を振り切って、帝国へ向かうべく走り出していました。


 これまた不思議な事ですが、向かうべき帝都までの道のりは、何故だかとても鮮明に思い浮かべられたのです。

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