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第16話 正体

 ダンジョンの第一階層は、どうやら迷宮になっているようだった。

 今はゲイル、ミルファ、ガルム、マリー、僕の順で一列になって、通路を進んでいる。

 ガルムが中央なのは、遊撃要員として前も後ろもカバー出来るようにというのと、万が一裏切られても挟み撃ち出来るように、という理由だ。

 

 マッピングさえしていればいずれは抜けられるし、今のところダンジョン探索は順調……と言いたいところなのだが、そうも言えなくなってきた。

 何故かというと――


「お、通路の突き当りに矢のトラップがあるぜ。みんな気をつけろよ~、ってこっちに落とし穴あんのかよ!」

「ゲイルったら、油断は禁物よ? マリー右っ!」

「え? 痛っ! な、なんで?さっきゲイルさんが通った場所なのに」


 マリーの右腕には、矢が掠って血が滲んでいた。

 大した怪我ではないものの、ダメージを受けた事には間違いない。

 

 光魔法を使って治癒することもできるのだが、魔法は出来るだけ温存しておきたい。

 僕はマリーの腕に傷薬をかけた後、包帯を巻いた。

 そして、みんなが疑問に思っているであろうことを口にする。


「このダンジョンのトラップ、明らかにおかしい。発動のタイミングも配置も、僕たちの動きを読んでいるかのようだ」

「そうですね。俺は他のダンジョンのトラップは知りませんが、その点には同意します」

「……これは、気が抜けないな」


 その後も、厄介なトラップの応酬は続いた。

 矢やただの落とし穴など、比較的危険性の低いトラップばかりだったから助かったものの、皆かすり傷だらけになって疲弊している。

 身体強化が使えるガルムとゲイルは、まだマシなようだが。

 

「しかし魔物が出てこないのは助かったな。この状況でさらに魔物に襲われたらたまったものじゃない」

「そうね……でも魔物がいないと断定するのも危険よ?」

「ああ、分かっている。それに魔物がいなくても気が抜けるような状況じゃないしな」


 魔物がいないのには本当に助かった。

 これ以上難易度が上がったら、撤退を考えるところだ。


 そうして、僕たちはトラップに悩まされながらも、根気よくマッピングを続けてようやく第二階層への階段を見つけた。

 常に気を張っていたからか、相当長い時間探索していた気がする。

 

 疲れたが、その分達成感も中々だ。

 それは皆も同じようで、一様に安堵の表情を浮かべて喜んでいる。

 ここで少し休憩としよう。

 

 階段の前で休憩を取った後、僕たちは一階層目とは違うようにと願いながら、階段を下りて行った。

 そうして、下りた先にあったのは暗闇であった。


「これはまた厄介だな……マリー、魔法で照らせるか?」

「はい、大丈夫です。《ライト》」


 魔法を発動したマリーの目の前に、握りこぶし程度の大きさの光球が現れ、空間を余すところなく照らし始めた。

 流石は光魔法といったところか、すごい光量だ。

 暗闇が払われ現れたのは、一見何もないがかなりの大きさの広間だ。


「僕たちとは反対側の壁に扉が見えるね。取り敢えず、あそこに進もうか。一見何もないけど警戒は怠らないようにね」


 皆、僕の言葉に無言で頷くと、慎重に歩みを進める。

 そうして、何事もなく扉まであと半分といったところで、突然ガルムが振り返ってマリーに切りかかった。


「おいガルム! 何してる!」

「っ!《障壁》」


 ガルムの奴っ、このタイミングで裏切るとはっ。

 僕とマリーの声に反応してゲイルとミルファが臨戦態勢に入る。

 マリーは光魔法の《障壁》で、なんとかガルムの剣を防いでいたのだが――


「マリー上だ!」

「っ!?」


 《障壁》の展開に集中していたマリーは、天井から現れた巨大な鎌の刃を避けることが出来ず、その刃に胸を突き刺された。

 明らかに致命傷だ。

 マリーが意識を失うのと同時に光球も消え、広間が暗闇に包まれる。


「《フレイムオーブ》!」


 僕は急いで魔法で火球を出して、明かりを確保した。

 光球に比べれば光量は劣るが、そんなことを言っている場合ではない。

 再び視界を確保すると、マリーのそばからガルムの姿は消えていた。


「きゃあっ!」

「ミルファっ、くそっガルム! どきやがれ!」

「っ《エアクッション》!」


 援護に向かいながらその様子を見ると、ミルファが何かに足を引っ張られて体勢を崩していた。

 そして体勢を崩したミルファに向かって、地面から槍が飛び出してきたが、なんとか風魔法を使って体勢を立て直し、回避したようだ。

 が、トラップによって次々に追撃を受けている。

 

 ゲイルの方は、ガルムと片手剣同士で打ち合っていた。

 どうやら、ミルファを助けに行くのを妨害されているようだ。

 

「《フレイムランス》!」

「……邪魔です」


 ガルムを射程圏内に捉えた僕は魔法を放ったのだが、ガルムはゲイルと打ち合いながら、剣を握っていないほうの手でナイフを投擲し、魔法をナイフで打ち消してしまった。

 そして、そのまま投擲されたナイフは僕の後ろへと消えていった……はずだったのだが。

 

 僕の首筋に、冷たい刃物の感触が走った。

 それによって、もう一発魔法を放とうとしていた僕の体が硬直する。


「動いたら殺します」

「待てっ、ガルム!」


 僕に向かってそう言うと、ガルムはゲイルとの打ち合いをやめ、いつの間にか遠くに離れていたミルファの方へと向かって行った。

 どうやら、彼女はトラップによって誘導されていたようだ。

 僕の《フレイムオーブ》から離れているため、彼女の周りはかなり暗い。

 ゲイルはガルムを追おうとしたが、落とし穴や槍などのトラップによって、追跡を妨害されていた。


 ミルファはガルムの接近に気づいて迎撃しようと弓を構えたが、またも"何か"によって体勢を崩していた。

 風魔法でまた体勢を立て直そうとしていたが……暗がりの中に、黒い外套を着て溶け込んでいたガルムに対して、既に距離を詰められすぎていた。


「《エアクッ――かはっ」

「「ミルファ!」」


 ミルファは詰めてきたガルムに腹を切り裂かれ、地に倒れた。

 傷からは恐ろしい量の血が流れ出ている。

 また仲間を殺された……だが僕は、動くことが出来ない。


「ガルム……絶対に殺す!」


 ゲイルは鬼気迫る勢いでガルムに切りかかった。

 最初はその勢いで押し込んでいたのだが、時間がたつにつれ、ゲイルの勢いが鈍くなり、ガルムの動きが洗練されていく。

 そして、体力を使い果たしたであろうゲイルは、あっけなくガルムに首を撥ねられた。

 

「は、ははは」


 もう笑うしかない。

 Fランクと侮っていた相手に三人の仲間が血の海に沈められ、僕の命も既に握られている。

 まさかこんなことになろうとは。

 僕はせめて死ぬ前に、疑問を一つ減らそうと口を開いた。


「最後に一つ聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「……どうぞ」

「なんで僕をさっさと殺さなかったんだい?」


 そう聞くと、ガルムは「なんだそんなことか」とでもいうように軽く答えた。


「明かりがないとゲイルが戦えないじゃないですか」


 つまるところ、ゲイルと俺はただの練習に使われていたということか。

 質問に答えた彼の目は、どこか無機質で、ギルドで会話したころの面影はなかった。

 

「質問にも答えたし、さようなら、リーダー」


 その瞬間、首に痛みが走り――

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