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幕間 清水結希乃という女の過去①

 清水結希乃と名付けられた私という女は、幼少期までは至って平凡な人間でした。

 普通に幼稚園に通って、普通に小学校にも通って、普通に中学校にも入学して。

 

 ただ、中学生になってしばらくしたある日の事、私は自分の異常に気が付きました。

 同性の友達が喋る異性の話に、全く共感する事ができないのです。


 「○○君に告白しようかな」とか「彼氏とキスしちゃった」とか「デートの服何着て行こう」とか。

 理解ができないのです。

 どうしてそんなに告白というもので悩んでいるのか、唇をくっつけただけの話でどうしてそんなに興奮できるのか、デートの服装には一体どうしてそんなにこだわるのか。


 ‥‥‥いくら考えても私には、恋と呼ばれる感情が何なのかまるで分かりませんでした。

 異性を意識し始める時期だと言われる、思春期なのにも関わらずです。


 決して、私に感情がない訳ではありません。

 家族に対しては愛情を感じていますし、友人に対しては友情を感じられます。

 喜怒哀楽だってあります。

 それなのに、それなのにどうして恋愛感情だけ無いのでしょうか。


 この時期の女子にとって、恋バナができないというのは結構な痛手です。

 次第に友達との会話に混ざれなくなっていった私は、段々と孤立していきました。


 そんな孤立により拍車をかけたのが、私に備わった容姿です。

 自分では特に意識していなかったのですが、私は容姿がかなり整っているらしく、同じ学校の男子に好かれてしまったのです。

 そのせいで、小学校からの数少ない友達にも嫉妬され、私の孤立はさらに深まりました。


 そんな状況下の、ある日の放課後。

 私は村山君という男子に、大事な話があるとだけ伝えられ、人気のない学校の体育館裏に呼び出されました。

 明らかに、告白のための呼び出しです。


「清水の事が好きだ。どうか、俺と付き合って欲しい」


 到着した体育館裏で、村山君から発せられた言葉は、そんな予想通りの告白の言葉でした。

 彼の深い感情が籠った、ありきたりだけれど大切な言葉。

 それに対して、私は少し考えた末に口を開きます。


「ごめんね、村山君の気持ちには‥‥‥応えられない」


 はっきりと、私はそう断りました。

 恋を知らない分際で、人と付き合うのは余りにも不誠実だと思ったから。


「そうか‥‥‥分かった。ありがとう、答えてくれて」

「うん。こちらこそ、ごめんね」


 気まずい独特の雰囲気の中で、私たちはそんな会話を最後に解散しました。

 ほっと胸をなでおろしました。

 もし断った理由を聞かれてしまったらと、ずっと考えていたのです。


 しかし、本当の困難はこれからでした。


 その告白があった日の翌日、今度は同じクラスの吉川さんという女子から呼び出しを受けたのです。

 場所は校舎の屋上。

 何だか、果てしなく嫌な予感がしました。


 私の知る限り、吉川さんはとても気が強い性格の人です。

 私を待っているのは、まず間違いなく気持ちのいい話ではないでしょう。


 屋上へと続く階段を登る私の足取りは、まるで重りを付けているかのように鈍重でした。

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