第150話 鑑定
あの後、僕たちは助けた帝国兵に先導してもらって、帝国の本陣と化していた砦へなんとか入り込む事に成功した。
脳内の地図で確認してみるに、場所は埋魂の荒野の東端といったところか。
小規模ではあるが、内部から見てもちゃんとした石造りの砦だ。
帝国兵の仲間としてきていなかったら、怪しまれずに侵入するのは難しかっただろう。
しかし、今は【俺】がきちんと役目を果たして、本陣の帝国人とも打ち解けてくれたので、僕と葵さんに対する周囲の警戒度はゼロだ。
その為、現在僕は城壁に囲まれた砦の中央にある広場にて、適当に盗み聞きをしたり辺りを観察したりしている。
苦労して侵入した敵の本陣だ。
流石に、勇者の一人や二人はいて欲しいところなのだが。
「努君。あそこの城壁の上に、やけに目立つ鎧を着た人がいますよ。顔立ち的にも、あれが勇者っぽくないですか?」
葵さんは西側の城壁を見上げながら、僕に対しそう言葉を伝える。
それで、僕も葵さんが見ている方向を確認してみれば、確かに典型的な日本人らしい顔立ちをした、若い男が城壁の上で突っ立っていた。
装備も他の帝国兵とは違って高価な板金鎧だし、はっきり言ってかなり怪しい。
[鑑定]を使って、正体を確かめてみる価値はあるだろう。
名前:木戸浩二
種族:人間
性別:男性
年齢:二十一
職業:勇者
魔力属性:火
スキル:勇者LVMAX、言語理解LVMAX、磁化LVMAX、スラッシュLV2、剣撃LV2
磁化LVMAX:付近にある鉄製の道具を、一定時間磁石に変化させます(任意発動)
「どうです? やっぱり、あの人は勇者でしたか?」
「ええ、大当たりです。おかげ様で、帝国では一人目の勇者の情報が手に入りましたよ。まだ確実ではありませんが、この様子だと帝国も王国も、勇者の基本的な能力は同じみたいですね」
無論、固有スキルには引き続き警戒しなければならないだろうが、これで懸念事項が一つ減ってひとまずは安心だ。
帝国の勇者にだけ、変なスキルがついていたらどうしようかと思っていたが、これならば作戦通りにやっていける。
そう、思っていたのだが――
「努君」
「はい、今度は何です?」
「あれ、私の幻覚じゃないですよね」
そう言って、葵さんは険しい顔をしながら今いる広場の出入り口を指さす。
指の先を見れば、そこには黒い板金鎧を着た謎の男と‥‥‥レイヴ洞窟で取り逃がして、行方不明になっていた清水結希乃がいた。
残念ながら、これは幻覚ではなく現実の光景らしい。
しかも最悪な事に、二人とも既にこちらの方を見ている。
敵陣のど真ん中で、よく分からないが明らかに敵側の人間に見つかったわけだ。
くそっ、こんな状況にならないように情報を集めに来たのに、これでは本末転倒じゃないか。
「それじゃあ、これからどうします?」
「急いでこの砦から撤退します。レギナたちがいる南森林までです。こんな敵地で戦闘だなんて、相手が誰だろうがやってられないですよ」
どうしてここに清水さんがいるのかは知らないが、とにかく今は逃げるしかない。
だが、せめて当初の目的である情報収集はやり遂げようと思い、謎の男と清水さんに[鑑定]を使ってみると――
名前:豎昴↓謌代′譎コ繧定ュ倥k雉��シ縺ェ縺�
種族:縺縺ァ縺茨ス難ス〒茨ス
性別:難ス
年齢:縺吶ス具
職業:縺ス励@呻暦ゅ℃縺托
魔力属性:∞縺撰≧縺
スキル:縺∞縺撰ス≧縺ス呻ス茨スゑス具ス≧縺
謎の男の[鑑定]結果がこれで、
名前:しぃくれっと
種族:内緒
性別:機密
年齢:密事
職業:禁秘
魔力属性:秘事
スキル:秘密
清水さんの[鑑定]結果がこれと、全くもって意味不明な有り様だ。
まさか、今まで頼りきりだった[鑑定]が一切通用しないとは。
はてさて、あいつらの正体は一体何なんだ?




