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第149話 異人混入

「立ち止まるな、矢に当たりたくなければ進み続けろ。今こそ勇者がいないと何もできない、王国の腑抜けどもに一泡吹かせる時だ!」

「くそっ、侵略者の帝国兵どもめ。勇者はともかく増援は来ないのか? このままだと帝国側に押し切られるぞ!」


 そんな罵詈雑言と矢が飛び交い、砂埃が舞う戦線の真っただ中を、俺と葵さんは着々と進み続ける。

 目的は変わらず、【僕】が指定した帝国歩兵部隊の救出だ。


 帝国兵の恰好をしているので、移動中はしばしば王国側の兵士に襲われる。

 しかし、向こうがただの一兵卒なのに対してこちらは勇者と迷宮主だ。

 力の差は歴然であり、俺たちが苦戦する事は一切ない。


 そうして、俺たちは立ちはだかる王国兵を蹴散らしつつも、無事に例の歩兵部隊がいる場所の付近までたどり着く事ができた。

 だが、俺にとっての最大の戦いはこれからだ。

 【僕】に任された帝国兵としての演技を、これから完遂しなければならない。


「取り敢えず、葵さんは周りの王国兵をひたすら殺してくれ。弓でもナイフでも何でもいい。その間に、俺はあの歩兵部隊と合流して、王国の奴らが葵さんに気を取られている隙に、彼らをなんとか撤退させる。シンプルな作戦だ。質問はないな?」

「ええ、問題ありません。俺の方の努君とこういう話はするのは、ちょっと違和感がありますけど。とにかく、今はさっさと動きましょうか」


 葵さんはそう言うと弓を構えて、俺の指示通り片っ端から王国兵を殺し始める。

 これならば、王国側の注意はすぐにでも彼女に向くだろう。

 こちらも、急いで作戦通りに動かなければ。


 そんな訳で、俺は前線から飛び出たその歩兵部隊にさらに近づく。

 そして機を見計らい、王国兵の包囲を強引に突き破って合流に成功すると、彼らに向かって大きく声を上げた。


「救援に来たぞ、帝国の同志よ! 間もなく、付近の王国兵を俺の仲間が他の場所におびきよせる。それまで、もう少しの辛抱だ!」


 すると、はっきりとは聞き取れないものの、合流した部隊員から狂喜の歓声が聞こえてくる。

 ひとまず、ファーストコンタクトは成功といったところか。

 

 その後、俺はそのまま歩兵部隊と一緒に白兵戦を繰り広げたのだが、しばらくすると王国側の様子に変化が表れ始めた。

 葵さんがおびきよせに成功したからか、俺が敵を殺しまくったからか、この部隊を包囲している王国兵の数が狙い通り減り始めたのだ。

 これならば、不可能かと思われた撤退も成功させられる。


 それで、俺は温存していた全身身体強化とボディーエンチャントを使って、帝国の陣地方面にいる王国兵を数人一気に切り殺すと、合図を出すべく口を開いた。


「今だ、一気に自陣へ撤退するぞ! チャンスは今だけだ、敵がビビってる内に駆け抜けろ!」


 俺がそう叫ぶと、彼らは呼応するように叫んで王国兵の包囲を突き破り、次々に自陣へと向かって全力疾走していく。

 生憎、しんがりとなる最後尾の人間は助からないだろうが、これで出来る限りの人数は逃がせたはずだ。


 そうして、俺はなんとか歩兵部隊と共に撤退し、帝国の陣地に入り込む事に成功した。

 横を見やれば、ちゃっかり葵さんも俺と一緒に撤退もとい潜入して来ている。

 やっぱり、なんやかんやで彼女も凄い優秀さだ。


「ありがとう、あんたとあんたの仲間のおかげで、俺たちは命拾いしたよ。どうだ、この後一緒に本陣で飯でも食わないか?」

「気持ちはありがたいけど、今は遠慮しとくよ。本陣には一緒に戻れるんだが、実はやらなきゃいけない作業が結構残ってるんだ」

「そうか‥‥‥そりゃ残念だが、仕方ねえな」


 そう言って、共に戦った帝国の兵士は言葉通り残念そうにうつむく。

 

 嘘はついていない。

 俺の作業は終わったが、【僕】の仕事はこれからのようだから。

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