第15話 道中
僕たちパーティーメンバーは、少々早めにギルドに集合していた。
特にこれといった理由はないが、ガルムが来るときには全員揃った状態でいたかったからだ。
「しっかし昨日は楽しみで眠りが浅かったぜ。ダンジョン探索なんて久しぶりだからなぁ」
「緊張で眠れなかったんじゃないのか?」
「おいおい、そりゃないぜリーダー。こんなことで緊張なんてしてたら、冒険者なんてやってられないだろう?」
「ああ、確かにそうだな」
冒険者の仕事は、常に危険と隣り合わせだ。
討伐依頼を受けて魔物を倒したり、採取依頼を受けて危険な地帯に向かったり。
時には護衛依頼を受けて、盗賊から馬車を守りながら街から街へと移動することもある。
多少の危険に、いちいち緊張などしていられない。
未知のダンジョン探索の危険度が高いことも、また間違いないのだが。
「すみません皆さん、お待たせしましたか?」
「いえ、そんなことはありません。我々が少々早めに来ただけですから」
皆と雑談をしていると、少ししてガルムが現れた。
僕はその少年を改めて観察してみたが……特に昨日マリーが言っていた違和感を感じることはできない。
「時間がもったいないので、早速出発しましょうか。準備も済んでいるようですし」
「そうですね。どれだけ時間がかかるかも分かりませんから」
こうして、僕たちは街を出てダンジョンへと向かい始めた。
道中は警戒もしつつ、会話をしながら歩みを進めて行く。
ガルムは、最初は遠慮がちに話をしていたのだが、そのうちパーティーメンバーとも普通に会話をするようになっていった。
ガルムから「自分はまだ田舎から出てきたばかりの駆け出し冒険者ですよ」と聞いたときには驚いた。
Fランクなのだし、普通なら特におかしなことでもないのだが、鎧も剣も使い古されたものだったし、何よりガルムの立ち振る舞いがそれを感じさせなかった。
僕たちに話しかけてきたときもそうだが、非常に堂々としている。
「冒険者になるのが憧れでしたから」とか「付け焼き刃ですよ」などと言っているが、冒険者や冒険者ギルドに関連する情報をしっかり集めているし、とてもじゃないがFランクのひよっこには見えなかった。
ガルムは好奇心旺盛なようで、マリーには「神官はどんなことをしているのか」だとか「教会はどんな組織なのか」だとかとにかく沢山質問をしていた。
また、僕やゲイル、ミルファにも多くの質問をしてきたのだが、その中には一般常識を問うような質問もあった。
田舎から来たと言っていたし、知らない事が多いのだろうか。
僕たちの中でも彼の明るい性格が気に入ったのか、それとも同じ属性だという親近感からか、ガルムはゲイルとよく話をしている。
今は勇者伝説の話をしているようだが、彼がが興味を持っているのは伝説の内容ではなく、勇者の行方の方のようだ。
何故そんなに勇者の行方が気になるのか聞いてみると「勇者の遺産なんて高く売れそうじゃないか」と返された。
真面目な顔でとんでもないことを言うもんだから、つい吹き出してしまった。
その一方で、道徳には反するが実に冒険者らしい考えだなとも僕は思った。
そうこうしている内に、ダンジョンらしき横穴が見えてきた。
草原の丘にぽっかりと開いたその横穴の中を覗き込んでみると、その壁や床が石レンガで舗装されているのが見える
こんな街から離れたところに廃墟でもないのにある人工物……間違いない、ダンジョンだ。
ガルムが嘘をついていなかったことに安堵しつつ、僕たちは気を引き締めてダンジョンの中へと侵入していった。




