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第147話 観察者

 翌日、無事に起床して南森林で待機していると、僕の見込み通り昼過ぎ頃に、王国と帝国の戦争は開幕した。

 

 ここからは戦場の端しか見えないため、何がきっかけで開戦したのかは不明だ。

 しかし、おおよその見当はつく。

 勇者を全員失った王国は戦争などやりたくないはずだし、これまでの歴史と同様に、帝国側が攻撃を仕掛けたのだろう。


 当然、僕たちが本物の戦争を目にするのはこれが初めてだ。


 双方の後衛からは、次々と雨のように矢が放たれ。

 前線では歩兵や騎兵がぶつかり合い、剣で、槍で、矢で、魔法で、運の悪い人間から次々に死んでいく。

 怒号と血しぶきが飛び交うその有り様は、実際に見ると凄まじいものがある。


 とはいえ、戦争の行方は正直僕たちにとってはどうでもいい。

 重要なのは、あくまでも帝国の勇者がどういった動きをしてくるかだ。


 残念ながら、開戦初日は南森林の付近に勇者が現れる事はなかった。

 それで、日が沈んだ後に僕と葵さんは作戦通り、両軍が撤退したのを確認してから、帝国兵の死体の装備を拝借しに行く事にする。


「それにしても、やっぱり血が付いちゃってる装備が多いですね」

「死んだ人間の武具ですから、そればかりは仕方ありません。返り血という事で、ある程度の言い訳はできるでしょう。できるだけ、綺麗な装備が欲しいところではありますがね」


 視力を強化して、夜の埋魂の荒野に放置された死体を物色しながら、僕は葵さんとそう言葉を交わす。

 状態が悪いので、破損が少なく血もあまり付着していない装備を探すのは、思いのほか大変な作業だ。

 それでも、死体自体の数は多いので根気よく探し続けていると、比較的破損の少ない装備を着た、帝国兵の死体を発見した。

 

 帝国兵の装備は基本的に鎖帷子(くさりかたびら)なのだが、この兵士は目玉に矢を受けて絶命したようで、そのおかげか装備がかなり綺麗な状態で残っている。

 帝国兵に紛れるのには十分すぎる代物だ。


「こちらは使えそうな装備を見つけましたが、そちらの方はどうです?」

「こっちも、状態の良さそうな装備を見つけましたよ。でも、死体からそれを脱がすのに時間がかかりそうです。鎖帷子の着脱方法なんて、王城でも習いませんでしたから」


 ふむ、確かにそれはそうだ。

 加えて死後硬直などもあるだろうし、無理に脱がせて装備を破損させては笑い話にもならない。

 しかし、誰もいないとは言っても、戦場に長居するのはできるだけ避けたいところだ。


「では、その死体は一旦南森林に持ち帰って、それから焦らずに装備を脱がせる事にしますか。中身をレギナに食わせれば、彼女の腹の足しにもなって一石二鳥でしょうし」

「了解です。ちょっと重いですけど、運べなくはないですもんね」


 僕の言葉に、葵さんはそう言って同意を示す。

 あとは話通りに死体を持ち帰って、僕たちの戦場での作業は終了だ。

 その後は、死体から装備を脱がせる作業を行ったわけだが、所詮は同じ人間の装備なので、やり方が分からずとも時間さえかければ問題はない。

 

 こうして、僕たちは無事に帝国兵の装備を手に入れる事ができた。


 ちなみに、装備を脱がした後の死体をレギナに渡したところ、どうしてかひどく微妙な顔をされた。

 なんでも、魔力が少なすぎてまともな食事にならないらしい。

 それでも食べないよりかはマシだと言って、死体を貪ってはいたが。


 ともかく、今日の作業はこれで終了だ。

 明日はいよいよ、奪った装備を使っての[鑑定]作業である。

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