第141話 輝ける迷宮主
「それじゃあ、これからどうするんです? 前みたいに、ダンジョンコアを先に探しますか?」
「いえ、幸いにも先制攻撃ができそうですし、今回はこの元勇者を先に始末する方針で進めようかと思います。僕たちにとっても、いい戦闘経験になると思いますしね。葵さんも、その新しい長弓を実戦で試してみたいでしょう?」
[鑑定]の結果を聞いて、疑問を呈した葵さんに対し、僕は例の巨大魔石を横目で見ながらそう言葉を返す。
もちろん、こんな楽観的な判断を下すのには理由があった。
何といっても、判明した敵のスキルが別に大した事がなさそうなのだ。
[勇者]などのスキルは、強力ではあるが今まで殺してきた相手も持っていたし。
固有スキルの[魔力霧散]も、色々と試してみたところ空気中に出した魔力が霧散してしまうだけで、身体強化やエンチャントボディーなどの技は普通に使えてしまう。
おまけに先手を取れるとあっては、強くなった僕たちが負ける未来はあまり想像できなかった。
「いつも通り前衛は僕が担当するので、葵さんは後ろから矢を放ち続けてください。近づくと不味いかもしれませんから、先制攻撃も葵さんにお任せしますね」
「了解です。スキルもふんだんに使った、全力の一撃をお見舞いしますよ」
葵さんはそう言うと、レギナ特製の長弓を構え、矢をつがえてエンチャントアローを発動させる。
そして仕上げに、パワーショットを使って渾身の矢を放った。
それから、ガキンッと派手な音を立てて、放たれた矢はあの巨大な魔石に衝突する。
だが流石と言うべきか、その魔石もといクリスタルゴーレムは砕けない。
ヒビこそ入っているが、その身体はまだまだご健在のご様子だ。
そうして、いつまでも魔石のふりをしていられなくなったクリスタルゴーレムは、とうとう地中から這い出てきて、その姿をあらわにした。
その全身のシルエットは、基本的にはずんぐりむっくりとした人型だ。
しかし人間とは違い、その身体を構成しているのは肉ではなく透明度の低い屑魔石であり、手足の先にあるのは指ではなく鋭く尖った透明な魔石である。
そして、頭にあたる部分には、例の巨大な魔石がすっぽり収まっていた。
恐らくだがあの頭部の魔石を砕けば、いくら丈夫なゴーレム族とはいえどもひとたまりもないだろう。
ヒビは入れられたわけだし、葵さんの攻撃でダメージを受けている事はほぼ確実。
となれば、やる事は一つだ。
「葵さんは引き続き、頭部の魔石に向かって矢を放ち続けて下さい。僕は打ち合わせ通り、前衛としてあいつを引き付けます!」
僕はそう早口でまくしたてると、全身身体強化と無属性のボディーエンチャントを発動させて、宣言通りクリスタルゴーレムの前に躍り出る。
目測だが、身の丈はヘルヘイムトレントより一回り小さいぐらいだろうか。
近くで見ると、やはりすごい迫力だ。
それから、僕とクリスタルゴーレムは少しの間睨み合いの状態になる。
しかし、葵さんが二発目の矢を撃ち込むと、流石にこのままでは不味いと思ったのか、クリスタルゴーレムの僕に対する攻撃が始まった。
クリスタルゴーレム本体の動きは、見た目通り鈍重だ。
のそのそと足を動かして踏み込み、重力に任せて腕を振り下ろす攻撃を回避するのは比較的容易い。
だが、本当に厄介なのはその後だった。
威力だけは無駄にあるその一撃は、僕にかわされた後地面にぶつかり、辺りの砂埃を一斉に巻き上げる。
そうして、僕が砂埃によってクリスタルゴーレムの姿を見失った時に、奴は自分の身体の屑魔石を無数の欠片に分離させて、僕に向かって発射してきたのだ。
分離された魔石は刃物ほどではないが、砕けたガラスのような形をしていて中々に鋭い。
おまけに数も多く、予想していない攻撃パターンでもあったので、リビングナイフに迎撃をさせたものの、何発か手足に食らってしまった。
まぁ、この程度の傷はアクアマリンスライムの水魔法で治せるため、まだ許容範囲内だ。
こんな事をしている間にも、葵さんは三発目、四発目とどんどん矢をクリスタルゴーレムの頭部に撃ち込んでいく。
そして、クリスタルゴーレムが僕に対する二回目の攻撃に移ろうとした瞬間、葵さんによって五発目の矢が放たれ‥‥‥頭部の魔石は遂に砕け散り、クリスタルゴーレムはあっけなく倒れた。
「案外、あっさり倒せちゃいましたね。同じく元勇者のヘルヘイムトレントを相手にした時は、あんなにも苦戦したのに」
「個体差もあるでしょうが、それだけ僕たちも成長したという事ですよ。実戦訓練には、丁度いい相手でしたね」
すっかり気の抜けた顔している葵さんに、僕は淡々とそう話す。
残す作業は、このダンジョン自体の制圧のみだ。




