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第139話 ザルカム坑道

「‥‥‥あ、あれ? 努君、先に起きてたんですね。もしかして私、寝過ぎてましたか?」

「いや、今はまだ夕方です。寝過ぎたと言う程ではありませんよ」


 宿の部屋に帰ってきてから少しして、目を覚ました葵さんに対し、僕は自分のベッドに腰掛けながらそう言葉を返した。

 

 部屋の中にあるテーブルには僕が帰り際に買ってきた、豚肉の燻製と葉野菜を大麦パンで挟んだ、サンドイッチのような料理が四切れ置かれている。

 僕はその内の二切れを朝食として葵さんに差し出すと、自身も残りの二切れを口に運びながら、彼女に情報収集の結果を簡潔に説明した。


「――といった感じですね、情報収集の結果は。取り敢えず、今日は食事が終わったら、その鉱山ダンジョンに行こうと思っているのですが、特に問題はなさそうですかね?」

「はい、大丈夫ですよ。たっぷり寝たおかげで、身体の疲れももう取れましたから」


 葵さんはそう言った後、さっさと僕の用意した食事を平らげると、いそいそと外出の準備を始める。

 食事を終えた僕はそんな様子を見ながら、自分も改めて外出の支度を済ませると、葵さんを待ってから鉱山ダンジョンを目指して宿屋を出発した。


 前にも述べた通り、件のダンジョンは僕たちが通ってきたあの森にある。

 しかし、鉱山ダンジョンといわれるだけの事はあってか、都市からそこまでの道はそれなりに整備されており、その道のりは森の中という悪条件の割にはかなり歩きやすい。

 日没の時間は迫っていたものの、おかげ様で僕たちには歩きながら話をする程度の余裕は残っていた。


 それで、僕は葵さんに話を切り出す。


「今の内に、現在向かっているダンジョンの詳細について話しておこうと思います。目的地に着いてから、わざわざ立ち話をするのも面倒ですからね」

「了解です。ちゃんと耳を澄ませて聞いておきますよ」


 そうして、僕はその目的地のダンジョンについての説明を開始した。


 始めに言っておくと、今までは鉱山ダンジョンと称してきたわけだが、実はこのダンジョンにはちゃんとした正式名称がある。

 その名も、ザルカム坑道だ。


 構造はレイヴ洞窟と同様に、降りていくタイプの洞窟型。

 階層数は、探索が完了していないために不明となっている。

 なんでも、三階層目より先に行った人間が帰ってきた事がないらしい。

 

 そのため、今ではこのダンジョンを訪れる冒険者のほとんどは、三階層目までに湧いてくる魔物や魔石を狩ったり採ったりするだけで、その先へは向かわないそうだ。

 欲をかいて四階層目に向かった冒険者は、これまた永遠に帰ってこないというオチである。


「それで、私たちは三階層目より先に向かうんですか?」

「もちろんです。何せ、僕たちの目的は魔石の採取でも魔物討伐でもなく、ダンジョンの制圧による拠点確保ですからね。最下層にあるダンジョンコアを見つけなければ、全く意味がありません。心配せずとも、いつでも撤退できる状態を保ちますから大丈夫ですよ。それに、こちらには罠に対して心強い味方がいますからね」


 僕はそう言って、葵さんの目を見つめる。

 彼女の目は、今も変わりなく異常であり優秀だ。

 例え四階層目に巧妙な罠があったとしても、葵さんはいつものようにそれを見抜いて、僕に知らせてくれるだろう。


「ちょっと、まだ恥ずかしいんですから、そんなに見つめるのはやめてください! ほら、日が沈む前にダンジョンへ行きますよ!」

「おっと、すみません。そうですね、日が沈むと色々と面倒くさいですからね」


 こうして、僕の視線から逃げるように駆けだした葵さんを、僕は目を細めながら追いかける。

 

 目的地のザルカム坑道までの距離は、もう残り少しだ。

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