第14話 一時解散
当然の事ではあるが、僕たちはまだダンジョン探索の準備が出来ていない。
未知のダンジョンの探索となると、用意しなければならないものも多々あるだろう。
その旨をガルムに伝えると、今日のところは解散して、明日の朝方ここに集合してから出発しようということになった。
そうして、ガルムが早々にギルドから出て行った後、パーティーメンバーは気兼ねせずに会話を始めた。
「しっかし珍しい事もあるもんだなぁ。いきなりこんなうまい話が舞い込んでくるだなんて」
「あらゲイル、それはちょっと早計よ。ひとまず協力関係にはなったけど、騙されている可能性だってあるんだから」
「だけどよぉミルファ。あいつはただのFランク冒険者だぜ? 裏切られても俺たち4人を相手に勝てるわけないだろうし、裏切りに手を貸すような協力者を雇う金も人脈もあるようには見えねえ」
「マリーはどう思う?」
「私には彼が嘘をついているようには見えませんでしたけれど……」
「けれど?」
「どこか漠然とした違和感があるんです。どこがおかしいかと聞かれればうまく答えられないのですが……」
ふむ、彼女は冒険者としてだけではなく、教会で神官として色々な人とよく接しているからか、人を見る目がある。
一応留意はしておこう。
「まあともかく取り敢えずは彼に協力することにしたんだから準備を始めよう。誰がどの役割をして何を持つか打ち合わせしないとね」
僕は会話を切ると、明日に向けての話し合いを始める。
パーティーメンバーに役割を割り振って持ち物を決めると、僕たちも一旦解散して、必要な物を買いに行こうという話になった。
特に異論もないので、皆でギルド出ると、それぞれが自分の目的地へと向かい始めた。
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【俺】がギルドを出た後、スイッチを切り替えて出てきた僕は、ギルドの前で全力で聴力を強化しながら、バレないように協力者たちの話を聞いていた。
【俺】が取り付けた協力者たちがどんな話をするか気になった、というのが主な理由だが、単純に冒険者自体の知識が欲しかったというのもある。
これから長い付き合いになるであろう敵対勢力だろうし、実際明日襲撃を受けるのだから、関連情報は是非欲しいところだ。
襲撃されるようにしたのは僕だけど。
しかし、敵対勢力とは言ったが僕と敵対しない勢力ってあるのだろうか。
冒険者ギルド、商人ギルド、教会、王国、帝国……挙げだすとキリがない。。
魔王とかがいれば人類の敵同士として仲良くなれたかもしれないが、残念ながら出てくるのは勇者伝説の中だけだ。
それも、比較的昔の。
都合よく魔王復活とか起こらないだろうか。
ソウルポイントがあれば、魔王級の魔物も召喚できるのだが、いかんせん高すぎる。
それはさておき、肝心の協力者たちの会話内容だが、可もなく不可もなくといったところか。
疑われてはいるけど、ある意味信用もされている。
「裏切る意味がない」や「裏切っても勝算がないだろう」というネガティブな信用だが。
確かに、【俺】である剣士ガルムには、あの協力者たちを裏切る意味はない。
だが、ダンジョンの主である僕は裏切る意味大有りである。
というかだ、最初からそのつもりだ。
しかしあの様子を見るに、ダンジョン側に騙されているという発想が浮かぶ事はないようだ。
まぁ、ダンジョンの味方の人間なんて、普通ならいるわけがないので当然といえば当然だろう。
一方で、冒険者についての情報だが、これに関しては特に目ぼしい情報はなかった。
無属性以外の戦闘関連の魔法について知りたかったのだが、中々上手くいかないものである。
無属性魔法の知識が簡単に手に入ったのは、身体強化が戦闘以外でも力仕事などに幅広く使われているからのようだった。
代わりと言ってはなんだが、スラム街で大勢の住民が、夜に殺害されていたという事件の話を聞いた。
あの場所で人が殺されることは珍しくはないだろうが、一夜にして三十人以上の人が無差別に殺されていたというのは、流石におかしかったようである。
さて、聞き耳も済んだところで、今日は日が暮れるまでにはダンジョンに帰ろうと思う。
明日は朝に集合なので、今日のように昼に起きてくるわけにはいかないのだ。
僕はさっさと自分のダンジョンに帰ると、いつも通りスライムに包まれながら眠りについた。




