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第132話 御業

『大きく分けて、新たに判明した事は二つあります。一つは、マスターが勇者の特殊なスキルを奪えていない理由。もう一つは、マスターがここで受けた謎の精神干渉の原因です』


 いつものように、僕の頭の中に響く機械的な声はそう概要から最初に話して、続けてその詳しい内容についても説明し始める。

 先に話し始めたのは、僕が勇者の特殊なスキルを奪えていない理由についてだ。


 第一に、僕のクラスメイトたちは本来ならば、勇者にはなりえない人間だったという事実がある。

 まぁこれは少し考えてみれば当然の話で、転移された時に地球世界の神様が言っていたように、通常勇者というのは質の高い魂を持つ少し異常な人間がなるものだ。

 僕のクラスメイトたちが異常だったかといえば、神岡や葵さんはともかく他の人はそうでもなかっただろう。


 では何故、僕のクラスメイトたちと先生は普通だったにも関わらず、勇者として異常な力を手に入れられたのだろうか?

 その答えは、勇者たちの魂を調べた結果から出てきた。


 なんでも、僕が殺した王国の勇者たちの魂は、過去に召喚されていた勇者たちの質の高い魂によって、強引に強化されていたようなのだ。

 その結果として、スキルが付随する魂の状態が不安定になり、僕は勇者からスキルを奪う事ができなかったらしい。


「という事は、今回王国の勇者の魂を殆ど回収した事によって、昔の勇者の魂も殆ど回収した事になるんですかね?」

『そうなります。あとマスターが回収しなければならないのは、逃がした勇者一名に、王城に引き籠っている勇者三名。それから、まだ生きている昔の勇者と、帝国の勇者たちの魂になりますね』

 

 ふむ、殺した勇者のスキルを奪えなかったのは残念だったが、そういう事なら充分だ。

 僕は神ではないので魂の理屈はよく分からないが、この声がそう言うのならばそれでいいのだろう。

 ともかく、これでもう昔の勇者の死体探しはしなくてもよくなった。


 それで、最初の話を終えた機械的な声は次の話を始める。

 初めに言われたように、その内容は僕がこの場で受けた謎の精神干渉についてだ。


 結論から言ってしまうと、これについても原因は勇者の魂にあった。

 実は、勇者の魂には強引な強化の痕跡の他にも、ちょっとした細工が残っていたのだ。


 地球世界の神様の解析によると、どうやらその細工というのは、この世界の神様の声を受信するアンテナのようなものだったらしい。

 勇者の魂を持っていた僕は、それによって神の声を聞いてしまい、[啓示]という神の技で洗脳状態にされてしまっていたそうだ。

 

 恐らくは、この世界の神様が勇者を転移させる際に魂を細工したのだろう。

 

「しかしそうなると、勇者の葵さんはいつ洗脳されてもおかしくないし、僕も勇者の魂を持っている時は同じく洗脳される危険があるって事ですよね‥‥‥流石に厳しすぎませんか?」

『神の技とはいっても、そこまで好き勝手できる技はそうありませんよ。[啓示]も同様です。この技は、同じ対象には一回までしか通用しません。ですから、マスターはもう大丈夫なはずです。葵様については、今後洗脳されるまで注意を払っていただく他ありませんが』


 そんな機械的な声の返事を聞いて、僕は内心舌打ちをする。

 僕のために色々と働いてくれた葵さんだが、まさかここに来てこんな事態になるとは。


 だが、思い返してみればあの[啓示]というのは、何も僕に無茶苦茶な洗脳を行ったわけではない。

 僕のダンジョンコアを砕くという行動を、ダンジョンコアを触るという行動に変えさせただけだ。

 推測するに、[啓示]による洗脳には対象に突拍子もない行動はとらせられないという、一定の制限があるのではないだろうか。


 もし洗脳内容に制限が無かったとしても、「自殺しろ」だとかの[啓示]をされたら止められないし、今は割り切ってそう考えるしかなさそうだ。

 そのうえで葵さんと話し合って、細心の注意を払うようにしなければならない。


『ではこれ以上の質問もないようですので、私の話はこれで終わりになります。この調子で、今後も魂狩りを頑張ってください、マスター』


 そう言うと、機械的な声は僕の頭の中からすっと消える。

 また、それと入れ違うようにして、外から走ってくる足音が聞こえてきた。

 恐らくは葵さんなのだろうが‥‥‥やれやれ、また心配をかけさせてしまった事をどう謝罪したものか。


 僕は使っていた毛布をたたみながら、じっとそんな事を考えていた。

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