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第130話 死体活用

 残りの勇者も全員始末して、ひとまずダンジョン内の敵を殺し切った私たちは、当初の予定通りに気絶した努君を十階層目に運び込む。

 長かった努君の計画も、これで取り敢えずは終了だ。

 

 本当に、この計画は長くて大変だった。

 肝心の立案者が重症を負ったのはいただけないが、今は二人とも死ななかったことを喜ぼう。


「いや~、これでようやくゆっくり食事ができますよ。うぇへへ‥‥‥もうよだれが止まりませんね」


 ここまで念のために護衛でついてきてもらっていたレギナは、自身の役目を終えて満足気にそう言いながら、うっとりと恍惚の表情を浮かべる。

 それほどまでに、彼女は勇者たちを食べるのが楽しみだったのだろう。

 

 私がダンジョンコアがある隠し部屋に努君を寝かせて、十階層目の広間に帰ってきたときには、レギナはもう九階層目へと続く階段を登っていた。

 特に十階層目でやる事もないので、私も続いて勇者と騎士と蜘蛛の死体が散乱している九階層目へと向かう。


 しかし意外なことに、そこでレギナはまだ食事は始めずに何かを考え込んでいた。


「レギナさん、何か考え事ですか?」

「ええ、まぁそうです。葵様に、ちょっと恩でも売っておこうかと思いまして」

 

 私の質問にそう答えると、レギナは何故か勇者たちの死体には目もくれず、蜘蛛たちの方の死体をせっせと集め始める。

 一体どういうつもりなのだろうか。


「ボクのスキル[蜘蛛達の魔宴]の効果は、発動位置を中心とした一定範囲内の蜘蛛ちゃんたちの身体能力を強化し、蜘蛛由来の物質を自在に操れるようにするというものです。ですから、実はこういう使い方も出来るんですよ」


 蜘蛛たちの死体を集め終えたレギナは、今度はそう言うと何やら集中し始める。

 彼女の話から推測するに、恐らくは[蜘蛛達の魔宴]を発動させているのだろう。

 

 少し待っていると、集められた蜘蛛たちの死体に変化が現れ始めた。

 その甲殻はひとりでにギシギシと音を立てながら変形を開始し、中身である内臓と筋肉は、邪魔だと言わんばかりに甲殻の外へと排出され始めたのだ。

 そうして、蜘蛛たちの死体は甲殻とその他の物にどんどん分離していく。


 間もなく分離は終了したが、甲殻の変形はまだまだ終わらない。

 それは引き続き変形を続け、融合と圧縮をひたすらに繰り返し‥‥‥最終的に蜘蛛たちの甲殻は、最初の光景からは考えられないほど見事な弓に変化した。

 蜘蛛たちの体色と同じく、黒を基調として紫色の模様が入った精巧な長弓だ。

 

「あとはボクが、特製の糸を弦として取り付けてあげれば‥‥‥ほら、完成です。その木製の弓じゃ、葵様の力は十分に発揮できなさそうでしたからね。これを使えば、もっと威力の高い矢を放てるはずですよ」


 そう言いながら、レギナは完成した長弓を私に手渡す。

 確かに今まで使っていたあの木製の長弓は、勇者としての私には少し引き心地が軽すぎた。

 レギナの言う通り、これならば私の力を完全に発揮できるかもしれない。

 

 試しに私は的として《障壁》を展開して、それに向かって受け取った長弓を構える。

 それから弓を引いてみれば、放たれた矢は軽々と《障壁》を貫通した。

 

 生身の人間に対して撃つには少々やりすぎな威力だが、木製の長弓に比べて引き心地が重くなって、ちゃんと速度も増している。

 厚い鎧で身を包んだ相手やヘルヘイムトレントのような堅い魔物に対しては、かなり効果的な攻撃手段になりそうだ。


「ありがとうございます、レギナさん。これを使えば、戦い方の幅がさらに広がりそうです。意外と、私のことも観察してるんですね」

「まぁ、使ってる武器が合ってるか合ってないかぐらいはすぐに分かりますよ。恩を売るとは言いましたが、ボクたちは主様の下の仲間です。これぐらいはいくらでもしてあげますよ。このままついて行けば、美味しいご飯がいっぱい食べられそうですし!」


 そう言うと、レギナは満面の笑みで今度こそ勇者の死体に飛びついて食事をし始めた。

 いつの間に命令を出したのやら、周りを見てみれば上の階層で殺されたはずの大司教や神官たちを、蜘蛛たちがここまで運び込んでいる。

 本当に、食い意地の張った女王様だ。


 さて、私も努君の代わりに色々と働かなくては。

 ダンジョン内の戦利品の回収に、あちこちが抉られていたリビングナイフの残骸の回収。

 それから、外に行って私の分の食料と、努君のために毛布も手に入れておきたい。


 はぁ、戦闘も大変だったけれど、その後始末も存外に大変だ。

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