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第128話 光刺す

 レイヴ洞窟の九階層目、計画で決められた演劇の終幕地点にて。

 私は努君に言われた通りに、かつての仲間たちを射殺すため長弓を構える。

 殺す優先順位は、一番目が向かってくる勇者、二番目が指揮を執ろうとしている騎士団員、三番目がその他の勇者だ。


 スキル[未来視]を発動させながら長弓を引き絞り、敵の動きを完全に予測して‥‥‥狙いが定まった瞬間、ブレないように気を付けながら手を放す。

 そうすれば、毎度のこと[未来視]が示した通りにその敵は動いて、放たれた矢は見事に頭に突き刺さった。

 何せ未来が見えているのだから、私にミスが無ければ絶対に外れない。


 自分で言うのも何だが、私は他の勇者たちに比べて随分と強くなった。

 光魔法はもとより、今ではパワーショットやエンチャントアローなどの弓関連のスキルも使えるのだ。

 きっと、レイヴ洞窟での実戦訓練から帰って来てからも、努君の監督の下でこの長弓と光魔法の自主訓練をし続けたおかげだろう。


「葵ちゃん、どうしてこんな事!」

「戦うしかないのかっ!」


 そんな勇者たちの声を聞きながら、私は優先順位に従って矢を放ち続ける。

 目標はかつてのクラスメイトたちではあるが、今の私に心苦しさは微塵もない。

 だって、これで私は努君の役に立てているのだ。

 一体どこに悲しむ理由があるのか!


 勇者たちは一人、また一人と脳天を貫かれて絶命していく。


 そうして戦い続けて、残る勇者が五人になった時。

 私の目の前で、計画にはない事が起こり始めた。

 勇者たちを殺し切っていないのにも関わらず、一緒に戦っていた蜘蛛たちが隠し通路に戻り始めたのだ。


 魔物たちに指示を出せるのは、努君しかいないはず。

 ということは‥‥‥まさか。


 嫌な予感がして、私は努君がいるはずの上の階層へ向かおうとする。

 目の前の勇者たちが妨害しようとしてきたが、私はそれを[未来視]を使って全て避けた。


 もちろん、これは私の独断で計画外の行動だ。

 でも、きっと残りの勇者たちはもうどうにでもなるから。

 きっと、私は蜘蛛たちについて行って戦った方がいいだろうから。


 そんな風に、計画を破るそれらしい理由を頭の中に並べ立てて、私は必死に上の階層へと走る。

 本当は努君が心配なだけなのに。

 だって、計画を守っても努君が死んだら、私は、私は‥‥‥

 

「ほら、蜘蛛ちゃんたち急いでください。《障壁》の向こうのあいつらを早くぶっ殺さないと!」


 四階層目に着くと、そんな慌てたレギナの声が聞こえてきた。

 やはり、努君の身に何か計画外のことが起きたのだ。


 少し走れば、すぐにその現場は見えてくる。

 謎の巨大な《障壁》に、それを大鎌で破壊しようとするレギナ。

 そして、その《障壁》の向こうで血まみれになって倒れこもうとしている努君の姿が。


「葵様、このクソ壁の耐久力はボクが削っておきましたから、向こうのあの爺を弓でぶっ殺してください! じゃないともう間に合いません!」


 足音で気づいたのか、レギナは振り返るなり切羽詰まった表情で私に向かってそう叫ぶ。

 見れば、レギナが爺と呼んだ大司教が出したらしい輝く鎖が、努君に向かって迫っていた。

 

 瞬時に、私は長弓を構えて[未来視]を発動する。

 そして、狙いを定めながらも、[エンチャントアロー]を使って矢に光属性を付与した。

 あとは、矢を放つだけ。


「パワーショット」


 スキルを発動させて、私は渾身の一発を放つ。

 手前の《障壁》は、レギナの言った通り耐久力がもうなかったのか余裕で貫通した。

 大司教を囲うように展開された《障壁》は、大司教の周りにいた神官たちを蜘蛛たちが襲ったおかげか、矢が当たる前に消滅する。

 

 最終的に私の放った光の矢は、薄暗い洞窟の中で美しい軌跡を描いて、大司教の頭を刺し貫いた。

 同時に、目の前の巨大な《障壁》と輝く鎖も消滅する。


 それで私は急いで倒れこんだ努君に駆け寄ると、光属性の治癒魔法を発動した。

 これも、以前までは出来なかったが努君との訓練で出来るようになった代物だ。

 水属性のそれとは違い、一瞬で体中の傷が塞がっていく。

 

 でも、失われた血液や体力は戻らない。

 意識もすぐには戻らないだろう。


「起きたらなんて言ってやりましょうか。これで二回目ですよ」

 

 私は実戦訓練のときに、努君が気絶した時の事を思い出してそう呟く。

 

 傷は消えたが、努君の衣服にしみ込んだおびただしい量の血が、行われた戦いの壮絶さを如実に表し続けていた。

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