第13話 剣士ガルム
情報の整理を終えた僕は、表の顔であるFランク冒険者の剣士ガルムとして、【俺】の人格の調整をし始めた。
性格は好奇心旺盛、思考能力は地球の時の【俺】と同程度に。
地球やダンジョンマスター関連の知識にロックをかけて、感性は地球の時より少し僕に近づける。
出自は、冒険者に憧れて田舎から出てきたとでもしておこう。
僕は設定に従い【俺】の人格を書き換え始めた。
そうして、Fランク冒険者の剣士ガルムとして調整された【俺】が完成する。
僕はリビングウォッシャーに洗濯してもらった外套を回収して身に纏い、しなびた薬草を詰め込んでから鞄を肩にかけて、ダンジョンを出た。
服と鎧を洗っていないのは勘弁していただきたい。
この世界の文化レベルでは珍しい事でもないだろうし、血もついていないし大丈夫だろう。
時刻は昼すぎといったところだろうか。
草原を抜け、見えてきた門に並ぶ列に加わる。
もちろん情報収集(盗み聞き)は欠かさない。
自分の番が来たので、早速Fランク冒険者バッチを出してみると、すんなりと門の中に入ることができた。
わざわざギルドに加入した甲斐があった。
街に入った僕は、冒険者ギルドに向かいながらスイッチを切り替えた。
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「すいません、ちょっと耳寄りな話があるんですが」
ニコニコと笑みを浮かべながら、その黒髪黒目の少年は僕たちにそう話しかけて来た。
その少年はさっきまで受付で薬草採取の依頼の達成報告をしていたのだが、報告が終わると周りを観察し始め、何が気に入ったのか知らないが、椅子に座ってテーブルを囲んでいる僕たち四人に近づいてきたのだ。
明らかに少年を怪しんでいる他のメンバーをよそに、僕は相手の意図を探ることにする。
「なんでその耳寄りな話というのを僕たちにしようと思ったんだい?」
「あなた達のランクが俺に協力してくれる可能性があって、尚且つ目的を達成するのに十分なレベルだと思ったからです」
なるほど、バッチを見る限り少年の冒険者ランクはFランクだ。
最低ランクの冒険者に協力する上位の冒険者なんていないだろう。
しかし、僕たちのランクはDランクで中堅どころだ。
Fランクでも話次第では協力してもいいと思っている。
それに、少年は1人で薬草採取の依頼をこなしている。
必ずしも弱いわけではないだろう。
取り敢えず、僕は話を聞いてみてもいいんじゃないかと判断した。
「それで、その内容は?」
「ちょっ、リーダー!」
少年に話の続きを促そうとしたところ、パーティーメンバーのミルファが声を上げた。
彼女は慎重派だからあまり気乗りしないんだろう。
「なに、とりあえず話を聞くだけだよ。話を聞いたからと言って後戻りできないようなものでもないんだろう?」
「ええ、俺としては話を聞いてもらうだけでも構わないですよ」
「うぅ……分かったわよ」
少年が頷いて返事をすると、彼女も一旦諦めたようだ。
それから、その少年は話を始めた。
「俺がさっき、薬草採取の依頼の達成報告をしていたのは見ていましたよね?」
僕たちは返事代わりに頷く。
それを見ると、少年は声を低くして話を続けた。
「実はその依頼で、街の近くの草原の薬草を採取していたところ、ギルドに情報のないダンジョンを見つけたんですよ」
僕は表情を崩さなかったが、他のメンバーは驚愕を表情に浮かべている。
その反応を見て、少年は少々満足気だ。
「しかしあなたは表情を崩しませんね」
「ここには他の冒険者もいるからね」
そう言うと、僕の言葉を聞いたパーティーメンバーが表情を引き締め始めた。
もうちょっと人の目というものを考えてほしいものだ……これには僕も思わず苦笑いをしてしまう。
「ここからが本題なのですが、皆さんにはそのダンジョンを一緒に攻略していただきたいのです」
「ギルドにさっさと位置情報を提供しようとは思わなかったのかい?」
「内部の情報を提供すれば、もっといい報酬が出るんでしょう?」
少年がにやりと笑みを浮かべたので僕も「そうだな」という意味を込めて笑みを返した。
「報酬はどう分ける?」
「人数で割ってしまってかまいませんよ。つまり、俺の報酬は五分の一でいいです」
「……僕はこの話を受けようと思うんだが、反対意見はあるかい?」
少し思案した後、僕はこの依頼を受けることにした。
少年の話に特におかしな点はないし、騙されていたとしても少年にメリットが見当たらない。
それに、未攻略ダンジョンの探索は魅力的だ。
冒険者としても、報酬の面でも。
パーティーメンバーを見渡してみると、ミルファが何か言おうか迷っている様子だったが、未攻略ダンジョン探索の魅力を選んだようだ。
「よし、じゃあみんな自己紹介をしようか。僕の名前はリック。このパーティーのリーダーをしている。職業は魔法士で魔力属性は火だよ」
「あたしはミルファ。職業は射手で魔力属性は風よ」
「俺の名前はゲイルだ。職業は戦士で魔力属性は無だぜ」
「私はマリーと申します。職業は神官で魔力属性は光です」
そうやって、メンバーが全員が事務的に自己紹介を済ませたところで、少年も口を開く。
「俺の名前はガルムといいます。職業は剣士で魔力属性は無です。皆さんよろしくお願いします」
こうして、僕たち五人はダンジョン探索に乗り出すことになった。




