第126話 光抉る
幸いな事に、僕はさっき悩んでいるふりをしている時にこっそりと、大司教に[鑑定]を使うことが出来た。
それで、判明した大司教のステータスがこれだ。
名前:エルヴィス・ラムド
種族:人間
性別:男
年齢:六十一
職業:大司教
魔力属性:光
スキル:魔力操作LV4、言いくるめLV2、魂読みLVMAX、光抉るLVMAX、光差すLVMAX
魂読みLVMAX:視界に入った人間の魂を可視化します(任意発動)
光抉るLVMAX:自身の光魔法による生成物が生物と接触したとき、その生物の接触箇所を無条件で抉り取ります(任意発動)
光差すLVMAX:自身の持つ光属性の魔力を徐々に回復させます(常時発動)
中でも注目すべきは、この[光抉る]という初見のスキルだろう。
このスキルの効果は、光属性の弱点である攻撃力不足を補うのに十分な性能をしている。
とにかく、大司教が生成した光る物体は、何であれ出来る限り接触しないように意識しなければならない。
そう考えつつも、大した遠距離攻撃の手段を持っていない僕は、取り敢えず大司教に近づこうと地面を蹴る。
だが、大司教もその様子を黙って眺めているほど呑気ではなかった。
見れば、魔法の発動準備を終えたらしい大司教の背後の空間に、次々と光輝く魔法陣が展開している。
そして、最終的に十数個にもなったその魔法陣は、大司教が杖を振ると一斉に例の輝く鎖を射出した。
射出先はもちろん僕だ。
次々にこっちに向かって飛んでくる鎖の内、一本目を僕はリビングナイフを飛ばして弾こうと試みる。
すると、使用したリビングナイフは鎖と接触してカキンッと軽い音を立てた後、弾くのには成功したものの刃の部分を一瞬で抉り取られ、あっという間に使い物にならなくなってしまった。
恐らくは、無機物ではあるが魔物という生物だったがために、[光抉る]の効果が発動してしまったのだろう。
まさか、武器をリビング化しておいた事がこんなところで裏目に出るとは!
仕方なく、僕はリビング系の武器で鎖を弾く事は止め、一旦回避行動に専念し始める。
が、これがまた中々に厳しい。
何せこちらが実質身一つなのに対し、向こうは追尾機能付きの鎖が十数本なのだ。
どうあがいても、鎖を避け切れない状況に陥ってしまう。
「っぐ‥‥‥これは、想像以上に痛いですね」
回避に失敗し、右腕の肉を一部鎖に抉り取られ、僕は思わずそう呻く。
どうやら、服程度の薄さならば上からでも鎖は接触判定になるらしい。
肉を抉られた箇所に、どんどん血が滲んでいく。
「どうした、篠宮努。その調子じゃとあと一分も持たんぞ!」
大司教のそんな声が聞こえてくる中、僕はポーチのアクアマリンスライムに治療の指示を出しつつ、全てのリビングナイフを一斉に大司教へと差し向ける。
もはや防御には大して使えないのだから、攻めで大胆に使った方がいいだろうという判断だ。
しかし悲しきかな、飛んで行ったリビングナイフたちの攻撃はあえなく阻止された。
大司教の部下の神官たちが、大司教を囲うように《障壁》を発動させたのだ。
そうして、動きを阻まれたリビングナイフたちは、僕から離れて舞い戻った輝く鎖に片っ端から蹴散らされる。
だが、最低限これでもいい。
鎖が一時的に離れてくれたおかげで、僕には僅かながら自由な時間が与えられた。
この間に、僕は闇魔法を使って武器を形成する。
このダンジョンの元の主であったヘルヘイムトレントが、僕との戦いでしたように。
今は何より、あの輝く鎖を弾ける武器が欲しい。
僕は集中して、闇属性の魔力を片手剣の形に形成し、ひたすら圧縮を繰り返していく。
ただ闇属性の魔力を活性化させても、闇が生成されるだけだからだ。
そして、圧縮が終わったら‥‥‥一気に魔力を活性化させる。
結果として、僕は闇属性の魔力で構成された漆黒の片手剣を手に入れることに成功した。
試しに、僕の方に戻ってきた輝く鎖に向かってそれを振ってみれば、きちんと抉られずに鎖を弾くことが出来ている。
しかし、多少はマシになったというだけで、状況は依然変わりない。
《障壁》の中からチクチク鎖で攻撃するという、光属性らしからぬ陰湿な戦法への反撃は、この即席の武器だけでは到底不可能だ。
おまけに、魔力の残量も相当きつい。
闇属性の魔力は今のでほぼ使い切ってしまったし、無属性の魔力も今まで全身身体強化とエンチャントボディーを使い続けてきたせいで、残量がだいぶ少なくなってきている。
はぁ、レギナに葵さんへの遺言を伝えておくべきかな?
だが、僕は葵さんより後にも先にも逝かない約束だ。
死ぬタイミングは今じゃないだろう。
焼き切れるまで脳みそを回せ。
痙攣するまで筋肉を動かせ。
理論上はまだまだ動くはずだ。




