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第124話 光差す

 フル強化状態の僕と、勇者たちの身体能力は基本的にはほぼ同じだ。

 だから、普通に追いかけ続けても僕が追いつくことはまず出来ない。

 

 しかし、ここは徒競走のコースなどではなくダンジョンなのだ。

 すぐに行き止まりに繋がってしまうような短いものではあるが、一応分かれ道は複数存在する。

 そして、勇者たちが正しい道を選び続けられるかと言えば、答えは否だろう。

 あんなにも焦っているのに、二回しか来たことがない場所の正しい道を選び続けられるわけがない。

 

 ‥‥‥予想通り、レイヴ洞窟の中で勇者たちを追いかけながら、視界を切り替えて近くの分かれ道の先の様子を確認してみると、時々勇者が行き止まりで右往左往している様子が確認出来た。

 そういう時は、分かれ道の先まで行ってトラップもふんだんに使い、丁寧に一人一人殺していった。

 「お願いだから」や「友達だろ」等の命乞いには、一切耳を貸さずに。

 

 正しい道を選んだ人との距離は離されてしまうが、この際仕方ない。

 まだまだ、出口までの距離には余裕がある。

 

 そうして、僕は分かれ道で僕をやり過ごそうとしたり、時間を使ってしまったりした勇者を次々に殺していき‥‥‥残る勇者はあと一名、清水結希乃のみとなった。

 

 以前まで、僕は彼女のことを外見がいいだけの人間だと思っていたのだが、スキル[氷結晶]での僕への妨害といい、ああ見えて意外と度胸もあるし判断能力も高い。

 優先して殺したい相手ではあったのだが、何だかんだでここまで残してしまった。

 

「お願い、誰か助けて! こんなところで死にたくない!」


 追いかけられ続けて精神的に限界が来たのか、前方の清水さんは走りながらそう叫ぶ。

 現在の階層は四階層目。

 いくら叫んでも、助けなど来ないはずだったのだが‥‥‥僕の予想外の出来事が、その瞬間発生した。

 

 叫び声に応えるように、洞窟の奥の方から光輝く鎖が十数本伸びてきたのだ。

 そして、それは清水さんと僕との間に割り込むと、まるで蛇のように僕のことを威嚇する動きを見せる。


 惜しいところではあったが、僕はそれを見て追撃を一旦中止した。

 何はともあれ、得体の知れない相手に突撃するリスクは犯したくない。


「やはり牙をむいたな、篠宮努。ウォルスの奴め、あれだけ警告したのにあっさりとくたばりおって」


 やむを得ず逃げる清水さんを見逃し、どうしたものかと頭を悩ませていると、そんな老人の声が輝く鎖が伸びてきた方から聞こえてくる。

 聞き覚えのある声、まごうことなき大司教の声だ。

 

 しかし、どうしてここまで来ている?

 まだ、レイヴ洞窟からは誰も逃がしていないはずだ。

 入口で待機していたはずの大司教に、どうして内部での異常事態が伝わっている?


 とにかく、事実がどうであれ今は大司教との交戦は避けた方がいいだろう。

 蜘蛛たちと葵さんはまだ全員九階層目にいて救援には時間がかかるし、相手の戦闘能力も一切不明だ。

 何の準備もしていない、この状態で戦うのは危険すぎる。


 そう判断し、僕は輝く鎖を無視して下の階層へ逃げようとしたのだが――


「おっと、そう易々と逃がしはせんぞ。お主には聞きたい事があるんでな」


 そう声が聞こえたかと思うと、僕の行く先を塞ぐように《障壁》が展開される。

 大司教との距離は、まだそれなりに離れているのにも関わらずだ。

 ちょっと魔力操作の技術が桁外れすぎる。

 逃げるのにも失敗したし最悪だ。


 仕方なく、僕はレギナと蜘蛛たちに救援を要請する。

 《障壁》を破壊するのは不可能ではないが、硬くて時間がかかるので僕一人ではまず無理だ。

 逃がさないと言った大司教が、僕に《障壁》を破壊させるような時間を与えるとはとても思えない。


 レギナたちが到着して障壁が破壊されるのが先か、はたまた僕か大司教が死ぬのが先か。

 無事終わるはずだった計画の綻びが、今僕に牙をむいていた。

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