第123話 追撃
レイヴ洞窟内にて、僕が調査隊に仕掛けた戦いの戦況は、おおむね僕の計画通りに推移していた。
現在、彼らの戦力は葵さんを殺そうとする人、僕を殺そうとする人、蜘蛛を殺そうとする人、逃げようとする人の四つにすっかり分散してしまっている。
隊長だったウォルス団長を失ったがために、皆が各々の判断で動いているのだ。
指揮官がいれば、皆の目的の統一と戦力の集中をはかれたのだろうが、生憎そういった騎士は優先して葵さんに潰してもらっている。
部下の混乱を鎮められる優秀な指揮官は、混乱を利用している僕にとっては最大の敵だ。
元クラスメイトがほとんどの勇者たちには、咄嗟に指揮をとれるような人はもういないだろうが‥‥‥一緒についてきた騎士や神官の中には、そういう人がいるかもしれない。
だから、僕はわざわざ突っ込んでまで後衛の神官を殺しに行くのだ。
逃げた勇者たちが、神官の指揮で計画的に撤退するなんて事が起こらないように。
大司教のところまで逃げられたら最悪だ。
「ところで主様、あの逃げてく勇者と神官はなんとか足止め出来ないんです? ボクたちに向かってくる勇者もいるせいで、全然距離が縮まらないじゃないですか」
「もちろん、足止めの策は仕掛けてありますよ。もうすぐですから頑張ってください」
後ろから走ってついてくるレギナが喋るのに、僕は早口でそう返事をする。
そしてすぐに、僕が準備をしておいた場所‥‥‥八階層目に続く階段が見えてきた。
その前には、一人の死んだはずの人間が立っている。
「なっ、神岡!?」
「なんでこんなところに?」
「死んだはずじゃなかったのか!?」
勇者たちの反応から分かる通り、階段の前で立ちふさがっていたのは神岡だ。
ただし、コピースライムが擬態した木偶の坊ではあるが。
服も適当な冒険者の遺品を着せているため、違和感は拭えない。
「君たち、立ち止まってる場合か! もう追手はそこまで来てるぞ!」
「くそっ、これだから戦場を知らないガキのお守りは嫌だったんだ。仕方ない、俺たちが応戦するぞ!」
思わず立ち止まった勇者たちを見て、神官たちはそう叫ぶ。
こうして、追いついた僕たちと勇者をかばう神官たちの戦闘はすぐに開幕した。
とはいっても、その最初の様相はとても戦いと呼べるものではなかったのだが。
「皆、準備はいいな‥‥‥《障壁》、展開しろっ!」
神官たちのリーダー格らしい人物がそう言うと、十名いる神官のうち五名ほどが杖を掲げて集中することによって、僕と彼らとの間に《障壁》が一瞬で展開される。
それも、洞窟の通路に一切隙間が出来ないように。
要は、彼らはここで僕たちを倒すのではなく、時間稼ぎをすることを選択したのだ。
まぁ、光属性が攻撃にはあまり向いていない属性だとは知っていたため、光属性持ちの多い神官たちを相手にしたら、こうなるであろうことは薄々予想していた。
ゆえに、対抗策はきちんと温存してある。
「おいおい、トラップだと!?」
「行きのときは無かったじゃないか!」
「に、逃げ‥‥‥ごはっ」
僕は今まで発動させてこなかったトラップたちを、《障壁》の向こう側で次々に発動させた。
集中していて咄嗟に動けない神官たちは、鎌に胴を突き刺されたり、ギロチンに頭蓋骨を真っ二つにされたりして、次々に死んでいく。
それによって、《障壁》にも穴が出来始めたのでそこから僕とレギナは突っ込んで、残った神官たちの殲滅を始めた。
「面倒臭いです、こいつら。魔力量は大したことないくせに《障壁》が硬すぎです!」
「トラップがある場所まで誘導したら、死角から殺してあげますよ。しかし面倒なのは同意ですね」
僕とレギナは《障壁》に斬撃を阻まれ、手こずりながらも、リビングナイフやトラップを利用した死角への攻撃を多用して、なんとか神官たちを殺していく。
結果として、なんとか殲滅は完了したものの、トラップまで使った割にはだいぶ時間がかかってしまった。
「勇者たちは‥‥‥流石に、もう逃げてますね。では、レギナはここで待機して、八階層目に逃げようとする勇者を殺してください。僕は先に逃げた勇者の追撃を続けますので」
「ついて行かなくていいんです?」
「ええ。もう後ろを取られる心配もないでしょうし、トラップも温存しなくてよくなりましたから」
僕はレギナにそう言うと、恐らくは勇者たちにどかされて階段の隅っこで突っ立っている、神岡の姿をしたコピースライムの横を通り過ぎて、八階層目に続く階段を駆け上った。
あと少しで、この戦いも計画通り終幕だ。




