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第122話 渦中の倫理

「ひっ、ひぃぃぃぃ!」

「え‥‥‥? 篠宮君、今何をしたの?」

「ぜっ、全員戦闘準備! あの二人は敵だ、今すぐ殺せ!」

「逃げろ、逃げろ! あいつに剣なんて向けられねぇよ!」


 一瞬にして、隊長を失った調査隊は混沌に飲まれた。

 辺りには悲鳴と怒号が響き、まさに阿鼻叫喚の様相を呈している。

 ただ、そんな中でも僕たち二人だけは冷静だった。


「改めて確認しましょう。葵さんはまず、向かってくる勇者と指示を出そうとしている騎士団員から優先して処理してください。逃げる敵は全て無視して構いません。質問はありませんね?」

「はい、もう何回も確認しましたから」


 葵さんはそう言うと、一歩下がってから自分の得物である長弓を構え、こちらの方にがむしゃらに突進してきた勇者の頭を見事に射貫いてみせた。

 この分なら、特に心配はいらないだろう。


「それなら、僕も行くとしますかね。厄介な後衛の神官たちを優先して殺さないといけません。ほら、レギナも急ぎますよ」

「むぅ。主様が待ち伏せがバレるといけないから隠れてろって言うから、奥の方で息をひそめてたんですよ。これでもボクは全速力です~」


 そうぶつくさ言いながらも、既に大鎌を携えて準備万全のレギナは、洞窟の奥の方からぬるりとその姿を現す。

 また、それと同時に調査隊がいる場所の左右にある隠し通路から、大量の巨大な蜘蛛たちがわらわらと湧き出してきた。

 傍から見ても、中々におぞましい光景である。


 これから、僕はそのおぞましい場所に突っ込まなければならないのだが。


「では、僕は先に行ってきますから、レギナはスキルを発動させてから後についてきてください。それまでは、リビングナイフに後ろのカバーを任せます」

「了解です、主様。ふふ、こうもお膳立てされると少し気恥ずかしいですが‥‥‥蜘蛛達の魔宴、開宴です! きっと、素晴らしい宴になるでしょうね?」


 レギナがそう言ってスキル[蜘蛛達の魔宴]を発動させ、足元の蜘蛛の糸が蠢き始める中、僕は阿鼻叫喚の調査隊に容赦なく切り込んで行く。

 ただし、いくら混乱しているとはいえ勇者たちへの警戒は一切緩めない。

 勇者たちにはそれぞれ、葵さんの[未来視]のように特殊なスキルがあるからだ。


 流石に、神岡の[瞬間移動]ほど強力なスキル持ちはもういないが、念動力(サイコキネシス)発火能力(パイロキネシス)など、防御が難しい特殊スキル持ちはまだまだいる。

 剣や槍を構えて向かってくる分には構わないが、何も構えずにこちらを見てくる勇者には、十分に注意しなければならない。

 こんなところで、今までの苦労を水の泡にするわけにはいかないのだ。


 そうして、僕はより一層集中しながらも、立ちはだかる人間を切り伏せていく。

 背中側にはリビングナイフをおよそ半数展開して防御を任せ、残りのリビングナイフと僕はただ前へと突き進む。

 

 かつてクラスメイトだった勇者たちは、襲ってくる僕を前に咄嗟の対応が出来ていなかった。

 それは、ついさっきまで僕が仲間だったからかもしれないし、単に人を殺したことがなかったからかもしれない。

 しかしいずれにせよ、近距離戦において一瞬の迷いは命取りだ。

 そうやって隙を見せた勇者は、僕に首を裂かれたりしてあっという間に死んでいった。


 だがそんな中でも、僕を攻撃すると決断した勇者は一定数存在する。


「っ!? いきなり右足が氷漬けに‥‥‥これは、確か清水結希乃のスキル[氷結晶(ひょうけっしょう)]でしたか。面倒な事をしてくれますね」


 地面ごと右足を凍らされ、僕はやむを得ず前進を止める。

 そして、前方を見渡してこちらを見ている清水を発見すると、あわよくば殺せないかとリビングナイフを二十本ほど差し向けた。

 

 結局、追い払うことしか出来なかったがまあいい。

 今の問題は、右足が動かなくなった自身の方だ。


「くそっ、恨むなよ篠宮!」

「この裏切り者!」


 僕としては、さっさと氷を砕いて右足を自由にしたいのだが、これ見よがしに血気盛んな勇者たちがそう叫びながら僕の方に群がってきたせいで、僕は完全に防戦一方の状態になってしまった。

 反撃しようにも、右足が動かないせいでイマイチ踏み込めず、相手に致命傷を与えられない。

 

 周りの蜘蛛たちや[蜘蛛達の魔宴]の効果で動くようになった蜘蛛の糸も頑張ってはいるが、地力が高い勇者相手にはあまり脅威になっていないらしい。

 悲しい事に、あっさり返り討ちにあっている蜘蛛や、飛びかかったのに無視される蜘蛛の糸などがそこらで散見された。

 

 しかし、蜘蛛たちの女王であるアラクネのレギナは、勇者相手にもその上位魔物としての実力を遺憾なく発揮してみせた。

 彼女は、僕に襲い掛かってくる勇者二人の背後にカサカサと忍び寄ると、その大鎌で二人分の首を一振りで刈り取ってしまったのだ。


 おかげで、僕はなんとか右足の氷をリビングソードで砕く時間を確保出来た。


「来ましたよ~主様。いやぁ、勇者って結構強いんですね? ボクはともかく、蜘蛛ちゃんたちが苦戦してるみたいでちょっと悲しいです」

「そうですね。まぁ、他の蜘蛛たちの分まで君が働けば問題ないでしょう。実際、さっきはかなり助かりました。この調子で頼みますよ」

「うへぇ、主様なんやかんやで蜘蛛使いが荒いですよね。ご飯がいっぱい貰えるからいいんですけど」


 そう言って、レギナはたった今殺した勇者の死体を見つめてよだれを垂らす。

 きっとこの戦いが終わった後は、魔力がたっぷりある勇者の死体をたらふく食べるつもりなのだろう。


 だが、この殲滅戦はまだ始まったばかりだ。

 レギナにはもうしばらく働いてもらうとしよう。

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