第120話 再度
あの会議が行われた日の翌日、ドワルドへの遠征が決定した僕たちは、準備に丸一日を費やした。
さらにその翌日は、ドワルドまでの移動と休息に丸一日を費やした。
そして、会議からかれこれ三日後の朝。
僕は前回の遠征の時にも泊った宿屋の一室で目を覚ますと、ベッドから出て身支度をしながら、今日の自分の動きを頭の中で確認する。
長い準備を経て本日ようやく、勇者たちは僕が管理するレイヴ洞窟へと向かうのだ。
遠征団に大司教がついてくるという予想外の事態は起きているが、その予定は変わらない。
僕としては、エルヴィス大司教が大人しくしていてくれる事を祈るしかないだろう。
ここまで来て、葵さんが待っているのに後戻りなど出来るわけがないのだから。
そうして、僕は身支度を済ませると朝食を食べに食堂へと向かった。
朝食を食べながら食堂にいる勇者たちを見てみると、なんだかんだ言って皆緊張している様が窺える。
命の危険がある場所にこれから行くのだから、当然と言えば当然なのだが。
この場に神岡がいれば、皆の緊張をほぐすような台詞を彼は言って見せたのだろうと思う。
だが、もう皆のリーダーだった神岡はいないし、皆の緊張がほぐれることもない。
それでいい。
そうでなくては、僕が神岡を殺した意味がない。
その後、朝食を食べ終わった僕含む遠征団の皆は、レイヴ洞窟の入り口の前に集合していた。
前の方では、ウォルス団長とエルヴィス大司教が何やら話をしている。
試しに聴覚を強化して盗み聞きをしてみたところ、どうやら人員の配置で揉めているようだ。
エルヴィス大司教はダンジョンの中までついてくるつもりだったらしいが、ウォルス団長は老体の大司教を危険なダンジョン内部まで連れていきたくないらしい。
結局、一緒についてきた神官の進言もあり、大司教は基本ダンジョンの入り口で待機。
緊急事態の際には、ダンジョンに侵入してカバーに入るという妥協案が採用された。
しかしあの騎士団長と大司教、さっきから話し合いの最中も僕の事をやたらと気にしているのは一体どういうつもりなのだろうか。
拉致されたのが僕の恋人という事で、心配してくれているだけならよいのだが。
そんな風に僕が考え込んでいると、ウォルス団長の通りのいい声が前から聞こえてきた。
「全員注目! これから、皆にレイヴ洞窟の調査における配置と注意事項について説明する。前回は実戦訓練だったが、今回はまごうことなき実戦だ。全員、心して聞くように」
ウォルス団長はそう前置きをして、耳にたこができるほど聞いた基本的な注意事項と、先ほどエルヴィス大司教と話し合って決められた人員の配置を説明する。
そうして、説明を聞いた僕たちは早速その配置に従って隊列を組み始めた。
僕を含む比較的優秀な勇者と、ウォルス団長含む騎士団員は前衛に、その他の勇者たちは中衛に、神官たちは後衛に配置される。
これで、レイヴ洞窟の調査に向けた準備は全て完了だ。
「準備は出来たようだな‥‥‥それじゃあ、行くとするか。あまり肩に力を入れすぎるなよ。いざという時に、集中力を切らしていたら本末転倒だからな」
ウォルス団長は緊張している勇者たちに向かってそう言うと、先陣を切ってレイヴ洞窟へと侵入する。
それに続いて、隊列を組んだ僕たちもレイヴ洞窟への侵入を開始した。




