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閑話 魂の色

「結局、あの青年が押し切ってしまったな」


 勇者たちとのドワルドへ行くべきかの話し合いが終わった後、会議室から団長室に戻った俺は、執務机に向かいながらもそう呟く。

 頭の中には、熱弁をふるう篠宮の姿がまだ浮かんでいた。

 

 彼の弁舌は、俺の話を遮ってまで感情的な主張をしてみせた後も、とどまる所を知らなかったのだ。


 ある人が「もし、ドワルドで神岡のように夜中襲われたら?」と懸念したとき。

 篠宮は「騎士団が同じ失敗を繰り返すわけがない」と、俺に圧力をかけてその懸念を振り払った。

 

 また、他の人が「五十嵐さんを(さら)った犯人が何者かも分からないのに、助けに行くのは危険すぎるのでは?」と心配したとき。

 彼は「確かに危険だが、お前は戦争で戦うときに相手の情報を調べてからじゃないと戦えないのか?」と、敵の正体が分からなくても戦わなくてはならない場面の方が多い事を指摘した。

 

 その後も、篠宮は必死に説得を繰り返して、ようやく勇者たちをドワルドへ行くことに同意させたのだ。

 大切な人の命がかかっているとはいえ、恐るべき奮闘だと認めざるを得ない。


 ――と、俺がそんな風に会議の様子を思い返していると、コンコンと誰かがこの部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。

 来客の予定は、特に無かったはずだが‥‥‥


「ったく、こんな時間に何者だ? って、大司教の爺じゃねえか」

「うむ。久しぶりじゃな、騎士団長ウォルス・ハーヴェイ。取り敢えず、部屋に入れさせてもらっていいかの? お忍びでここまで来ているんじゃ」

「‥‥‥もてなしは出来んぞ」

「ああ、構わんよ」


 そう言うと、公の場とは違い地味な白い神官服を身に纏ったアルスリア教の大司教であるエルヴィス・ラムドは、ずけずけと俺の団長室に入ってくる。

 そして、適当な席に腰を下ろすと、この突然の訪問の理由を語り始めた。


「単刀直入に言おう。今回わしがこんな時間にお主を訪ねたのはな、一つ警告をするためじゃ」

「警告だと?」

「そうじゃ。お主、わしの持っている特殊なスキルについては知っているな?」

「確か、[魂読(たまよ)み]だったか。人の魂の色が見れるんだってな」


 そう、実は王国でも重要な役職についている者の間でだけ話される情報の一つには、大司教エルヴィスのスキルについての話がある。

 エルヴィスが今の立場まで上り詰めたのには、あの[魂読み]というスキルも一役買っているのだろうという、噂に近い不確かな話。

 王国上層部では、割と知られたお話だ。


「その通りじゃ。わしには、人の魂の色が見える。色の明るさによってその人の善悪が分かり、色の種類によってその人の性格が分かる。それでな、この前こっそりと訓練中の勇者たちの魂を見させてもらったんじゃよ」

「結果は、どうだったんだ?」


 内容が内容だけに、俺は気になって思わずそう質問してしまう。


「まぁそう慌てるな。皆、明るい優しい色じゃったよ‥‥‥ただ一人を除いてな。篠宮努、あの出自不明の青年だけ、なぜか魂の色が無色透明じゃった」

「無色、透明?」

「うむ。初めて見たが、恐らくは善にも悪にも一切傾いていないという事なのじゃろう。ここで、最初の話に戻るが警告じゃ」


 エルヴィスは改めてこちらの方を向き、視線を俺の目に合わせる。


「篠宮努から絶対に目を離すな。人間自体に善悪がないという事は、逆に言ってしまえば理由があれば悪行を厭わないという事じゃ。我々は、既に勇者召喚という行為で十分に勇者の恨みを買ってしまった」

「おい、我々って俺を一緒にするなよ爺さん。俺は召喚に反対だった」

「‥‥‥そうじゃったな。だが、今や目的は一緒のはずじゃ。勇者を帝国にぶつけて、被害を抑えつつ戦争に勝利するという目的は。お主も、自分の可愛い騎士団を消耗させたくはないじゃろう?」


 エルヴィスはそう言って薄く笑った。

 まるで、こちらの心を見透かしたかのように。

 

 まったく、お前の魂の色はどうなんだと聞いてみたくなる。

 これだから、この爺とは馬が合わないんだ。


「分かった、警告は心に留めておく。篠宮努には細心の注意を払おう」

「よろしい。そうじゃ、忘れていたんじゃがあと一ついいかの」

「なんだ、爺さん」

「お主、勇者と共にドワルドへ行くのじゃろう?」


 ‥‥‥どうしてついさっき話し合いで決まった事を既に知っているのか。

 まさか、思考を読むスキルまで持っているのか?

 

「そんなに驚いた顔をするでない、ただの勘じゃよ。大体、攫われたのが篠宮努の恋人だと耳に挟んでからそんな予感がしてはいたんじゃ。それで、今回はわしもそれについて行く事にした」

「は?」

「なに、大司教という立場はあるが、ダンジョンの異変で苦しむドワルドの信者のためとでもすれば訪問理由には十分じゃろう。‥‥‥それほどまでに、わしはあの青年の事を警戒しているんじゃよ」


 あっけにとられる俺を横目に、エルヴィスは淡々とそう話す。

 しかしそれとは裏腹に、その眼光は老いを感じさせない鋭さを放っていた。

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