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第117話 逃亡劇

 空が茜色に染まり、気温も下がって少し涼しくなってきた夕暮れ時。

 僕が引き続き客のふりをして雑貨店で待機をしていると、とうとう台本通りに、葵さんが店の前の通りに現れた。

 三人の友達と、恐らくは王国の命を受けている勇者の監視者を伴って。

 今回、葵さんには前のように友達でも誘ってここに買い物に来るようにと、予め頼んでおいたのだ。

 

 それを見て、僕はすぐさま行動を開始した。


 まず、僕は買っておいたバンダナを口に巻いてマスクにし、フードを深くかぶって頭部を覆い隠すと、そっと通りに出る。

 そして、全身身体強化と無属性のエンチャントボディーを発動させてから、他の人間に咎められる間もなく葵さんに急接近すると、首筋をリビングナイフの柄で強打して気絶させる‥‥‥という演技をし、同じく演技をして倒れこむ葵さんを左脇で抱えて逃亡を開始した。


「なっ‥‥‥に、逃がすな! 訓練通り急いで囲め!」


 僕の行動に対して最初にそう反応したのは、やはりと言うべきか一般人に扮して潜んでいた勇者の監視者たちだ。

 見た限り六人ほどの彼らは、辺りが騒然とする中僕の周囲に素早く展開して逃亡を阻止しようとする。

 だが、片腕が使えないとはいえ僕の包囲はその程度は不可能だ。


 僕は逃亡ルートとして決めておいた細い路地がある方に展開した監視者さんに突っ込むと、闇魔法を相手の顔付近で発動させて一瞬視界を潰し、その脇腹を右手に持ったリビングナイフで切り裂きながらするりと横を通り抜けた。

 痛みによる悲鳴をそばで聞いてしまい若干耳が痛いが、それ以外には特に支障はない。


 監視者さんに致命傷を与えなかったのは、人手と注目を集めてもらうためだ。

 これによって、周囲の注目は僕から斬られた奴にある程度逸れるだろうし、敵方も救護に人員を割かざるを得ないだろう。


 しかし、まだ最も厄介な敵が僕には残っている。

 葵さんと一緒にいた勇者たちだ。

 彼らはついさっきまで突然の事態に呆然としていたが、流石に時間が経てば理解は進む。

 一連の騒動で僕の事をはっきり敵だと認識し、葵さんを取り戻しにかかって来るはずだ。


 ‥‥‥予想通り、細い路地に入って普通の人では追いつけないようなスピードで走っているはずなのに、三人分の足音が段々とその距離を縮めながらついてきている。

 まぁ、葵さんを抱えている分遅くなるのは分かっていたし、この事態も織り込み済みだ。

 撒き方は考えてある。


 忘れてはいけないのは、彼らは勇者ではあるが追跡に関しては所詮素人だという点だ。

 足音とか足跡から追跡されるという事は、まず考えなくていい。

 そんな前提の下、僕がこれからとる行動は至って単純で陳腐なものだ。


 僕は勇者に追われる中細い路地をひたすら走り、記憶を頼りに最も近くにある馬小屋へと向かう。

 そして、なんとか追いつかれないままに路地を出て馬小屋の前の通りにまで到着すると、誰にも見られていない事を確認してから、意を決して馬のために荷車に積まれた藁山に飛び込んで身を隠した。

 

 その後、三人分の足音がこちらの方に近づいて来る。


「くそっ、あの野郎どこに行きやがった!?」

「う~ん、姿はもうどこにも見えないな」

「あの、危ないしもう戻ろうよ。やっぱり騎士団の人に任せた方が‥‥‥」

「うるせぇ、ここまで来て諦められるか! 周りを探せば、きっとまだ何か痕跡がある。行くぞ!」

「あ、ちょっと待ってよぉ」


 ‥‥‥人の気配が段々遠ざかっていく。

 やれやれ、肝を冷やしたがなんとかやり過ごす事が出来た。


 考慮していたとはいえ、もうすぐ夜ということで人通りが少なくなっていなかったら。

 もし勇者たちに、こんな単純な手には引っ掛からない程度の追跡能力があったら。

 僕はかなり追い込まれてしまった事だろう。


 だが、今回も僕はこの危ない橋をどうにか渡りきった。

 作戦は順調に進行中である。

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