第116話 勇者、或いは兵士、または客
葵さんに次の作戦の概要を話してから、さらに三日後の昼過ぎのこと。
訓練が休みという事で皆がそれぞれ自由にしている中‥‥‥僕は、今日行う予定の作戦の第一段階のために、自分の部屋の中で機を伺っていた。
現在、僕は葵さんを通してウォルス団長に話をしてもらい、体調不良のため自分の部屋で寝ているという事にしてある。
アリバイの準備はもはや出来ないが、これまでのようにこっそりと部屋から抜け出せば、誰にも気付かれる事なく王城から出る事は出来るはずだ。
どうせこの作戦で王国の勇者は皆殺しにする予定だし、多少騎士団に疑われようとも構わない。
そんな考えの下、僕は予定の時間になると通路に誰もいない事を確認してから、いつもの格好にこの後必要になるお金と葵さんの服を入れた背嚢と、アクアマリンスライムの代わりにコピースライムを入れたポーチを装備して自分の部屋を抜け出す。
そして、そのまま僕は兵士たちの予備の武器防具が保管されている王城の装備保管室へと向かった。
勿論、誰にも見つからないように。
幸いな事に、昼休憩が終わってすぐだったからか人があまり通路におらず、僕は警戒が強まっている割には簡単に目的地へとたどり着く事が出来た。
それで、僕がここで何をするかといえば変装だ。
今回、僕はここにある武器防具を装備して兵士の演技を行い、王城からこっそりと抜け出す。
前はバルコニーから飛び降りてさっさと脱出したが、今回は騒ぎを起こしたくないので不採用というわけだ。
さて、期せずして誰かが来てしまっては不味いので、今は兵士の装備への着替えを急がなくては。
城内ではよく見る支給品の鉄鎧に、顔を隠すためフルフェイスの鉄兜。
それらに加えて、飾り気のない鉄製の長剣を装備すれば、一応変装は完了だ。
脱いだ装備は、予め容量に余裕を作っておいた背嚢に詰め込んでおく。
鉄鎧に背嚢というのはなんだか格好がつかないが、そこまで違和感はないだろう。
そうして、変装を終えた僕が次に向かったのは王城の裏口だ。
国の中心となっている巨大な城の出入りが、正面の門だけで成り立っているはずもなく、この王城には裏口があるので今度はそれを利用する。
裏口は決して警備が甘いわけではないのだが、出入りの際のやり取りが正門でのそれよりも厳格ではない。
盗み聞きでかき集めた情報だけで兵士のふりを貫き通すのなら、こちらの方が安全だろう。
結果として、道中で多少フルフェイスの兜を訝しがられたものの、【俺】に兵士のふりを徹底してもらってなんとか裏口から王城脱出を果たす事が出来た。
ここからもう、重くて目立つだけのこの兵士の装備は用済みだ。
僕はパトロールをしている体で王都を歩き、王城から比較的離れた郊外まで行くと、裏路地に入って誰かに見られていないか注意してから元の装備に着替える。
兵士の装備はこの後使う予定もないので、その場に捨て置いてしまった。
ひとまず、今やらなければいけない事はあと一つ。
続いて僕は商店街に向かうと適当な服飾店に入り、暗い赤色のフードつき外套と黒色のバンダナを購入した。
ついでに、その場にあった試着室で元々着ていた外套を脱いで背嚢にしまい、新しい外套を背嚢を隠すように上から装備してしまう。
あとは、時間が来るのを待つのみだ。
日が段々傾いていく中、僕は葵さんと予め話し合って決めておいた商店街のとある地点に到着すると、近くの雑貨店に入り買いもしない商品の物色をして時間を潰す。
今度は、ただの冷やかし客のふりをして。




