第109話 異変調査隊
「入り口から様子を見た限りでは、特におかしな点はない、か」
「ああ、静かすぎて不気味なぐらいだ。内部の探索もおかしな事がなければいいんだが」
「そう上手くはいかんだろうなぁ」
ドワルドの中心に位置するダンジョン、レイヴ洞窟。
つい最近まで初心者向けで比較的安全と言われ、賑わっていたこのダンジョンに異変が発生したのは、一週間ほど前に行われた勇者たちの実戦訓練がきっかけだった。
なんでも、ダンジョン最下層にて城に仕える騎士団長とその部下を以てして苦戦を強いられる魔物が出現したらしい。
幸いな事に、勇者たちの活躍によってなんとかその魔物は倒せたようだが……ダンジョン内部とはいえ町の中心地でそんな異常事態が起きて、何も調査をしない訳にはいかない。
そんで町のお偉いさんは早速、今回の異変の原因を調査するために冒険者ギルドに最下層の調査依頼を出した。
異変である魔物は勇者に倒された訳だし、レイヴ洞窟自体は大して危険でもないし、すぐに依頼は達成されると思われていた。
しかし、依頼を受けた冒険者たちが一向に帰ってこない。
それを受けて、今度は前よりランクの高い冒険者を募ってみるも、やはり帰ってこない。
比較的安全なはずの、既に一通り探索が完了しているはずのあのダンジョンから、なぜか誰も帰ってこない。
さながら、噂に聞くロルムの町付近で新しく発見されたという人食いダンジョンのように。
間もなく、レイヴ洞窟の入り口は封鎖された。
これ以上やみくもに冒険者を送り込んでも何も成果は得られないだろうと、皆気づいていた。
そんで、最後の希望として白羽の矢が立ったのが、元A級冒険者で今は引退してドワルドの兵士長をやっている俺だった。
こちとら四十超えたおっさんだっていうのに町長の奴、プライド捨てて必死に頼み込んで来やがって……。
あそこまでされちゃあ、俺としても断れない。
依頼を受けた俺は、すぐにレイヴ洞窟攻略のために仲間を集めることにした。
俺と一緒に引退してこの町に身を落ち着けた昔の戦友に連絡を取り、俺が直接指導した事のある優秀な兵士を事情を話して引っこ抜き……今、俺が集められる精鋭を可能な限り呼び寄せた。
その数、総勢十五名。
一般的なダンジョンの攻略には過剰な戦力だが、この期に及んでやりすぎという事もないだろう。
しかし、これでも敵わなかった時は……勇者様に頼る他ないのかもしれない。
そうならないために、俺たちが頑張るわけだが。
「ま、いつまでも入り口を眺めていても仕方ねえ。さっさと行く事にするかね。皆も、準備はいいな?」
そう俺が声を上げれば、後ろに連れている仲間たちからは次々と威勢のいい返事が聞こえてくる。
それと同時に、昔を思い出させる戦いの前の緊張感が皆の中に広がっていく。
「よし、そんじゃ出発だお前ら! マヌケな死に様晒すんじゃねえぞ!」
そう意気込んで、俺たちはレイヴ洞窟内部への侵入を始めた。
しかし、激戦を覚悟して歩みを進めた俺たちを出迎えたのはある意味拍子抜けで、不気味さを感じさせる光景。
魔物は一匹も見当たらず、その代わりと言わんばかりにトラップが設置された異質な空間が、眼前に広がっていた。




