第11話 魂を糧に
眠りから目覚めた僕は、早速昨日の魂狩りの成果を確認することにした。
どんなことであれ、自分の成果を見るのは楽しみなものである。
ダンジョンのステータス画面を開いてみると、ソウルポイントが3128ポイントに増えていた。
殺した人数が三十六人程度だったので、一人あたりのソウルポイントの値が一般人より低い事が分かる。
こればっかりは、スラム街で魂狩りをする以上仕方ないだろう。
その分数でカバーすればいい。
次に、僕自身のステータスの方を見てみる。
すると、スキルが二つ増えていた。
気配察知LV1と節食LV4というものだ。
スラッシュとは違い、明らかに技名ではない。
試しに「気配察知」や「節食」と言ってスキルを使おうとしたが、特に変化は感じない。
推測するに、これらは常に発動しているパッシブスキルというものではないだろうか。
名前から予想できる効果も、常に発動していそうな感じだ。
節食は腹が減りにくくなる、気配察知は気配に敏感になる……といった具合に。
寝ているはずなのに、侵入してきた僕に気づいて起きた住民がいたが、あれは気配察知のスキルで起きたのではないだろうか。
そして、いきなりLV4になっている節食についてだが、これについても推測は出来る。
スキルは経験から身につくとあの頭の中に響く声は言っていた。
そしてスラム街の住民は皆"飢える"という共通の経験をしていると思われる。
ということは、スラム街の住民は、ほとんど節食というスキルを持っていたのではないだろうか。
ここまでの考察が正しければ、僕は節食というスキルを複数食べていることになる。
つまりは、同じスキルを複数食べる事によって、LVが上がるのではないだろうか。
まだ推測の域を出ないが、検証する余裕もないので今のところはこれを有力説にしておく。
しかしながら、いきなりLV4だとLV1との比較が出来ないのでそこが残念である。
こんな時はあの頭の中に響く声に質問したくなるが、戻ってこられたらそれはそれで面倒なのでなんともいえない。
さて、成果の確認は一通り終わったので、次はいよいよダンジョン改造タイムである。
一階層目が広さの割にトラップが充実していなかったので、侵入者の立場に立ち、どんな配置をされると厄介かを考えつつ安めのトラップを設置した。
一階層目で諦めて帰られるのも嫌なので、殺意は控えめである。
お値段は合計540ポイント。
続いて1000ポイントを使って二階層目を作り、一階層目の迷宮のゴールに階段を設置して、地形の改造を開始した。
二階層目の地形として、まずは体育館程度の大きさ(天井は標準)の空間を作成する。
次に、僕は暗闇を作るために、自然に薄光りしているダンジョンの壁をタイルで覆った。
そして、最後は天井と地面に例の如く落とし穴とギロチンを設置した他、地面から飛び出す槍や上から振り子の如く薙ぎ払われる鎌などのトラップも設置する。
中々のトラップハウスぶりである。
壁にトラップを設置できないのは、残念だが仕方ないだろう。
その代わりと言ってはなんだが、切り札のトラップもあるので問題はない。
地形とトラップのお値段は1040ポイント。
最後の仕上げに、暗闇にぴったりな魔物を召喚する。
シャドウという一体500ポイントと少々お高めの魔物だが、暗闇に溶け込めるらしい。
その能力に期待したいと思う。
出てきた魔物は、パッと見ただの人型の影であった。
その影は、自身の手にあたる影を地面から離した。
紙と同じくらいぺらっぺらの黒い手の影が、空中をひらひらしている。
そして、胴体も地面から離しながらその手をこちらに向かって伸ばしてきたので、僕は手を差し出し握手をした。
ぺらっぺらではあるが、力は確かにあった。
ぺらっぺらだが、うん。
先ほど作った二階層目に案内して、やってきた侵入者の妨害をしてほしい旨を伝えると、シャドウは地面をすべるように移動して暗闇の中へ消えていく。
一応、階層の入り口の階段から光が若干入っているため、目を身体強化すれば広間を若干は見通せるのだが、シャドウ君は見つけられなかった。
中々しっかり溶け込んでいらっしゃる。
実戦でも期待したいところだ。
こうして、残りのソウルポイントは48ポイントになった。
あっという間に溶かしてしまったわけだが、中々いい階層が出来たのではないだろうか。
明かりを持っていないとそもそも進めないだろうし、明かりを持ってきていても、せいぜいこの文化レベルでは松明程度だろう。
それでは、あの広間全体を完全に照らす事は出来ない。
ちょっとした暗がりからシャドウさんに足を引っ張ってもらったりして、転んだところにトラップを発動させればお陀仏である。
それに、街で買ってきた外套は黒色なので、あれを纏えば僕も多少は擬態できるだろう。
それから、そろそろこのダンジョンの情報を広め始めてもいいだろうかと考えつつ、僕はまた街へ出る準備を始めた。




