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第108話 別れはそれらしく感動的に

「お前、ここに何をしに来たんだ? 君たち勇者はそろそろ馬車で王城に帰るはずだろう?」

「神岡から剣を返してもらうために来たんだ。もう、必要ないみたいだろうから」

「……そうか、そういえば部屋の中にあった剣の持ち主は君だったな。剣は取ってきてやるから、そこで待ってろ。まだ中に死体が残ってる。あまりいい光景じゃない」


 気遣いからか、或いは中に人を入れたくないからか、騎士団員さんはそう言って俺が神岡の部屋に近づくのを止めようとする。

 しかし、俺が本当に用があるのは替えの効くリビングソードなどではなく、部屋に残っている神岡の死体だ。

 ここで素直に言う事を聞く訳にはいかない。


「最後に、神岡の姿を見せてもらえないか? 別れの言葉を言っておきたいんだ。意味のない事なのは分かってる。だけど、自分の気持ちに区切りをつけておきたいんだ」

「……中の物に勝手に触ったり、死体を見て吐いたりするなよ。それが守れるなら、特別に部屋に入れてやる。お前たちも、それでいいな?」


 そう言って、俺に返事をした騎士団員さんが他二人の騎士団員さんに確認を取ると、二人は特に反対する事もなく、肯定の意思を示す頷きを返す。

 すると、僕と話していた騎士団員さんは改めてこちらに向き直り、ついて来るよう目で俺に合図を送った。


 そうして、俺は騎士団員さんについて行き、なんとか神岡の部屋へと入る事に成功する。

 

 そこには、神岡らしくきちんと片づけられた防具類。

 無造作に壁に立てかけられたリビングソード。

 そして、血にまみれたベッドに横たわる首を一突きされて絶命していた神岡の死体があった。


 それを見た俺は、手ごわい勇者であった神岡を無事始末出来たことに改めて安堵し、続けてそんな内心はおくびにも出さず演技を始めた。


「勇者だったのに、俺たちの中で誰よりも強かったのに、こうもあっさりと死んじゃうなんてな、神岡。……人間って、もっとしぶといもんだと勝手に思ってたけど」


 とっくの昔に知っていた人の命の軽さを、神岡の死体を見て今初めて知ったかのように、悲しげに俺はは言葉を発する。


「この剣も、王城で返してもらうはずだったのに……お前に約束を破られるのは、これが最初で最後か。ははっ……流石に、少し堪えるな」


 神岡を含む数多の人々を殺してきた剣を手に取り、まるで今までも神岡と何回か約束をしてきたかのように振る舞い、それらしい言葉を並べ立てる。

 そして、しばらく下を向いて沈黙した後……神岡の死体の方に近づいて、何かに耐えるように拳を握りしめながら、俺は最後の別れの言葉を告げた。


「でも、俺も他の皆も、元の世界に帰るまで立ち止まる訳にはいかないから。だからさようなら、神岡。絶対、お前の事は忘れない。本当に、本当に、さようなら」


 その後、俺はやや重い足取りで、ついて行った騎士団員さんと共に部屋を出る。

 幸いな事に、ゆっくりと神岡の部屋から遠ざかる俺に、声をかけて詮索をするような野暮な輩は騎士団員さんの中にはいなかった。

 

 おかげ様で、俺は不自然さを出す事なく目的を達成する事が出来た。


 神岡との死別による感情の奔流に、耐えるためという体で握りしめたこの自分の拳。

 廊下を曲がり、騎士団員さんの視界から外れたところでそれを開いてみれば、そこには神岡の毛髪が十数本収まっている。

 神岡の死体に近づいた際に、騎士団員さんにバレないようこっそりと回収したものだ。

 これさえ回収出来れば、もうあそこに用はない。


 そうして、俺は神岡の毛髪をポーチにしまうと、王城に帰還するべく他のクラスメイトたちと同じように迎えの馬車へと向かった。


 ダンジョンマスターである俺が不在でも、レイヴ洞窟が侵入者の襲撃を乗り越えられるように願いながら。

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