第107話 影響確認
翌朝、窓から差し込んでくる日の光に半ば強制的に起こされた僕は、呻き声を上げながらも体を起こし、仕方なしに重い瞼を開ける。
やはりというべきか、何だか体が全体的に重い。
残念ながら、昨日の疲れがまだ取り切れていないようだ。
こうなる事は、大体予想はしていたが。
その代わり、ダンジョンに関する情報をかなり手に入れられたし、神岡も殺す事が出来たし、この程度の代償なら安い物だろう。
僕はそう気持ちを切り替えてベッドから降りると、床に散らばっている昨日雑に脱ぎ捨てた装備たちを回収し始める。
そして、黒い外套に背嚢とポーチといういつもの恰好になると、食事と現在の状況確認をするために食堂へと向かった。
「あ、おはようございます、努君。体の調子は……あんまり、大丈夫じゃなさそうですね」
食堂に着いて朝食を受け取り、いつも通り葵さんと合流しようとした僕に、先に食事を始めていた葵さんが気付いて控えめな声でそう話しかける。
「昨日は色々ありましたから。スキル[不眠]があったとはいえ、ほぼ徹夜でしたし。ところで、これは今どういう状況ですか? まるでお通夜のような雰囲気ですが」
葵さんの隣の席に座り、辺りを見渡した僕の目に映ったのは、異様に重い空気の食堂だ。
昨日の夕食の時は、そこそこ騒がしかったこの食堂。
それが、今はスプーンと食器がぶつかる音と、ぽつぽつと喋り声が聞こえる程度にとどまっている。
恐らくは僕が神岡を殺した事が原因だろうが、具体的には何があったのか。
「努君が起きてくる前、ウォルス団長から話があったんですよ。前、朝倉が死んだ時みたいに。その結果がこの有様です。みんな神岡を相当頼りにしていましたから、その分ダメージも大きいみたいですね」
「そうでしたか。取り敢えず、犯人が僕だとバレていないようで何よりです。しかし、この分だと地道に一人ずつ勇者を殺していく作業はあともうひと踏ん張りといったところですかね。ウォルス団長も、僕の起こした事件の調査で余裕がなさそうですし」
見たところ、クラスメイトの士気はかなり落ち込んでいる。
今までと違い、神岡という皆を鼓舞するリーダーが消えたため、その下がった士気が回復する見込みもない。
ここまで来れば、弱った精神につけこんで勇者たちを一網打尽にする事も十分可能だろう。
無論、入念な準備が不可欠だが。
と、そんな具合に僕と葵さんはその後も朝食を食べながらも話を続けて、僕が昨夜した事などの情報を共有する。
そして、朝食と話を終えると僕は席を立ち、王城に帰る前に最後の一仕事をする旨を葵さんに伝えてから神岡の部屋へと向かった。
演者となるべく、スイッチを切り替えてから。
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神岡の部屋の前には、調査のためか警備のためか、騎士団員さんが三名待機していた。
同僚が昨夜【僕】に殺された事もあってか、昨日ダンジョンに入った時と同じフル装備で。
彼らは俺が歩いて近づいて行くと、あからさまに警戒をし始め、いぶかしげな視線をこちらに向けてくる。
残念な事に、第一印象はイマイチらしいと俺は内心ため息をつきながら、【僕】の指示に従って演技を始めた。




