第104話 手入れ
正直なところ、グリフォンが侵入者の死体を食っていた、という事実は衝撃こそあれど、僕にとって特に実害はない。
実際問題、死体を還元して得られるソウルポイントなんて今となっては微々たるものだし、僕としてはそれよりもグリフォンが腹を空かしてしまう方が問題だ。
その為、取り敢えず今回のグリフォンの件は放置しておこうと思う。
体の大きさの問題で、部屋から出れないはずのグリフォンの下に死体を運んだのが一体何者なのかも、もう大体検討がついてるし。
実はさっきクレイゴーレムを観察していたとき、手にやたら血がついている個体が数体いたのだ。
最初はたまたま戦闘によって付着したものだと思っていたのだが、多分、そいつらが死体を運んだものと見てほぼ間違いないだろう。
何の理由があって運んであげたのかは知らないが……前述のとおり僕にとってはありがたいことなので、ぜひ続けてほしい。
さて、違和感も解消したところで、そろそろ僕は本来の目的に戻る事にする。
最初にやるのは、戦闘でボロボロになってしまったクレイゴーレムの装備の交換だ。
僕は前回このダンジョンに帰って来たときと同じように、特に装備が劣化しているクレイゴーレムを管理室に連れていくと、着けている装備を劣化していないものと交換するように指示を出す。
その後、僕はいそいそと装備を交換するクレイゴーレムを尻目に、魔鉄のナイフの製造を任せていた鍛冶炉の魔物であるヘルファーネスの下へと向かった。
そうして到着したヘルファーネスの前には、僕の注文通り魔鉄で作られた金属光沢のある黒いナイフが、きっちり百本どっさりと積み上げられていた。
どうやら、ヘルファーネス君はしっかりと課された仕事をこなしてくれたらしい。
ここまで来ればもはや説明は不要だと思うが、次にやるのはリビングナイフたちが取り憑くナイフの交換作業だ。
これまでは、ダンジョンに帰って来る機会が中々なかったがために出来なかったが……今回、こうしてようやく機会が回って来た。
それで僕は、いつものように外套の中で待機しているリビングナイフに、山積みになっている魔鉄のナイフに乗り移るよう指示を出す。
すると、新品のナイフに乗り移れるのが余程嬉しかったのか、リビングナイフはまたたく間にナイフの山に群がって、一瞬で乗り移りを終わらせてしまった。
なんというか、無機物の割にはやけに喜怒哀楽の分かりやすい奴らである。
さて、と。
一応、僕がこちらの方のダンジョンで主にやりたかった事はこれで終わりだ。
癪ではあるが、今回ばかりはテレポート機能をダンジョンにつけてくれた神様に感謝しなければ。
実際、神岡殺害を控えたこのタイミングでリビングナイフを強化出来たのはかなり嬉しい。
『感謝しても何も出ませんよ』
「物は何も出なくても、心証は多少良くなるかもしれません。それだけで十分ですよ」
『……マスターは相変わらず打算的ですね』
僕は機械的な声とそんな風に会話をしながらも、ダンジョンコアへと向かい、テレポート機能を使用してレイヴ洞窟へと戻る。
そして、レギナがどの程度食事と産卵を終わらせたのか確認するべく、最下層の広間へと向かうとそこには――
「いくら何でも多くないですか?」
僕が思わずそう言ってしまうほどに、大量の人間の頭ほどの大きさの丸い卵が、糸で固定されて床、壁、天井というあらゆる場所に産み付けられていた。




