第10話 裏の顔
先ほどまでいた場所を街の表の顔とするなら、今いるこの場所はまさしく街の裏の顔だろう。
空が夕焼け色に染まり始めてきた頃、僕はスラム街を見てそんな感想を抱いた。
老朽化してぼろぼろの建物、積みあがるばかりで誰も片づけないゴミの山、道に横たわっている痩せた野犬、人々が着ているぼろぼろの衣服。
さっきの場所とは、対称的な光景が広がっていた。
街全体がどんよりとしていて、重い雰囲気に包まれている。
あまり長居したくない場所ではあるが、僕の目的には都合がいい。
きっとこの場所には、死んでも誰も気に留めない人間がたくさんいるだろうから。
スラム街を少々探索していると、注意するべき点を見つけた。
それは、兵士の代わりにスラム街を治めているらしいギャング達だ。
特に夜の見回り等をしているわけでもないので、直接的問題はないのだが、ああいった組織は構成員を殺されると組織の面子を守るために犯人探しをする。
うっかり構成員を殺さないようにしなければならない。
他の住民とは恰好も纏う雰囲気も違うので、簡単に見分けがつくとは思うが。
そうして、日が暮れるまで探索を続けた後、僕はフード深くかぶり行動を開始した。
ここは日本の街中とは違い街灯などがないので、夜はほぼ真っ暗である。
だが、目を身体強化出来る僕は、月明かりだけでも視界を確保できた。
視界を確保した僕は、明かりのついている建物を避けつつ移動して、出来るだけぼろい建物を探して部屋に侵入し、寝ている住民を殺した。
返り血を出来るだけ浴びないように、気を付けながらナイフで首を切り裂いた。
スキルを食った時とは違う、魂そのものを取り込むという未知の感覚に襲われたが、そんな事にかまけている時間はない。
侵入し、探し、殺した。
仰向けに寝ている奴は首を切り裂き、うつ伏せに寝ている奴は背中から剣で胸を突き刺した。
中には気配に敏感な住人もいたようで、僕が部屋に入ってくるのに気付き、臨戦態勢をとってくる奴もいた。
だが、全身身体強化をした僕に、暗闇の中勝てる奴はいない。
まだ幼い子供にも、老人にも、分け隔てなく死を与えた。
繰り返し、感慨も躊躇もなくひたすらに殺した。
ただの作業と同じように……いや、実際僕にとってはただの作業なのだが。
こうやって殺していると、何故普通の人間は他人を傷つける事を嫌い、躊躇するのだろうと思う。
自分のために赤の他人を切り捨てる。
当然の事なのではないだろうか。
最初は、法律や道徳教育のせいかとも考えたのだが、どうやらそれだけではないらしい。
人間の本能なのだろうかと考えた後、やはり自分は普通ではないと自嘲し、またナイフを振り下ろした。
結局、僕は日が出るまで魂狩りを続けた。
またもや睡眠不足である。
まだまだ職業ダンジョンマスターとして、地球世界の神の刺客としての忙しい日々は続きそうだ。
出来るだけ返り血を浴びないように気を付けてはいたのだが、外套にはそこそこ血がついていたので、脱いで鞄に押し込んだ。
返り血を浴びない刺し殺し方の研究も必要かもしれない。
返り血のためだけに絞め殺すのは面倒だ。
ちなみに、スラム街の住宅についてだが、鍵がかかっている部屋はほとんどなかった。
恐らくは、盗まれて困る物などないという理由か、鍵がかかっていると盗まれて困る物があると思われて目を付けられるからという理由で、最初から鍵をかけていないのだろう。
僕は疲労感を感じつつも門へと向かい、早朝から薬草採取の依頼へと向かう冒険者として、街を出た。
そうして、さっさと自分のダンジョンへと戻った僕は、取り込んでいた魂をダンジョンに吐き出し、外套の洗濯をリビングウォッシャーに頼む。
最後に、僕は前夜と同じようにして、スライムベッドへとなだれ込んで意識を手放した。




