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第98話 闇を操る

 窓から差し込む光が月明かりだけになった頃、僕はいよいよ行動を開始する事を決めて、宿屋内部の状況を確認するべく、聴覚強化を発動させて自室の扉に耳を当てる。

 

 足音は……聞こえてこない。

 どうやら、近くに動いている人間はいないらしい。

 それを確認した僕は、少しだけ扉を開けて強化した目で隙間から本当に人がいないか確認した後、闇属性のボディーエンチャントを発動させながらそっと部屋を出た。


 電気がないこの世界の夜は、相も変わらず暗闇に包まれている。

 それは、この宿屋の中も同様だ。

 自室の前から宿屋の玄関広間までの通路には、通常ならば何も見えないであろうレベルの暗闇が広がっている。

 

 もっとも、それは強化された目と暗闇に溶け込める体を持った僕にとっては好都合な事だ。

 暗闇は敵の視界を奪い、僕の動きを妨げない。

 僕からすれば、メリットしかない空間。


 そんな暗闇の中を、僕は耳を澄ませて周囲で足音がしていないか確認しつつも、自身は足音を立てないように注意して歩く。

 そうやって、僕は玄関広間には難なく到達したのだが……ここで、障害が目の前に立ちふさがった。


 勇者の暗殺を警戒しての事だろうか。

 ランプを持った騎士団員さんが一人、玄関の横に立っていたのだ。

 

 レイヴ洞窟の探索での疲れがまだ残っているのか、その顔には少し疲れが出ているものの、その目は決して注意散漫な様子ではない。

 どうやら、ただで宿屋の外には出してもらえないらしい。


 騒ぎは起こしたくないので、強行突破をするわけにはいかない。

 玄関がランプで照らされているので、暗闇に紛れて突破する事も出来ない。

 どうしたものかと考えに考えて、一つ、僕は妙案を思いついた。

 闇魔法を使えばいいのではないかという案だ。


 僕の知識が正しければ、闇魔法は光魔法が生み出すまばゆい光とは相反する、漆黒の闇を生み出す魔法だ。

 これを使ってランプの光を封じれば、騒ぎを起こさずにあそこを通り抜けられるかもしれない。


 そう考えた僕は、自分が持っている闇属性の魔力を操作して、騎士団員さんが持っているランプの周りに魔力を展開する。

 そしてタイミングを見計らい、僕は展開した魔力を一気に活性化させた。


 その瞬間、突如として黒いもやがランプの周りに出現し、瞬く間にランプを覆いつくしていく。

 ぶっつけ本番ではあったが、どうにか僕の闇魔法は上手くいったようだ。

 黒いもやによってランプの光は遮断され、玄関の前には暗闇が広がっている。


「ん? おかしいな、ランプの燃料はまだ残っていたはずだが」


 ランプの光が消えてそう困惑する騎士団員さんに、存在を察知されないよう気を付けながらも、僕は忍び足で玄関の前まで移動し、ゆっくりと扉を開ける。

 そして滑るように扉の向こうへと移動した後、これまたゆっくりと扉を閉め、僕は宿屋から抜け出す事になんとか成功した。


 ここまで来れば、後はもう簡単だ。

 この町、ドワルドでは王都とは違って夜間に兵士がパトロールをしているわけでもないし、僕がレイヴ洞窟に向かうのを阻むものは何もない。

 暗闇に溶け込んだ僕は、誰にも見つかる事なく、何の苦もなく町の中を移動する事が出来る。

 

 僕がレイヴ洞窟の入り口に到着するまで、そう時間はかからなかった。

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