第97話 今夜までに
「魔力属性が増えた理由ですか。そもそも、いつ自分の魔力属性に闇属性が増えている事に気づいたんですか?」
「レイヴ洞窟から町に帰ってきてすぐくらいの時です。そのあたりでようやく頭痛が治まってきたので、改めて自分の体の状態を確かめていたら気がつきました」
僕は当時の事を思い返しつつも、葵さんの質問にそう答える。
あの時は本当にぞっとした。
目には見えないとはいえ、自分の体の機能がいつの間にか増えていたわけなのだから。
「タイミングを考えれば、恐らくはレイヴ洞窟で起きた出来事の内、どれかが原因でこうなったんだとは容易に予想がつきますが……正確には何が原因か、一切分かりません。そこで、今夜僕は宿屋を抜け出して、実戦訓練では出来なかった事をしようと思っています。具体的には、レイヴ洞窟の再探索と、神岡の殺害を」
そんな僕の話を聞いた葵さんの顔に一瞬、不安と動揺の表情が浮かぶ。
恐らくは、今日はもう休んだ方がいいのではないか、という心配からそうした表情を浮かべたのだと思う。
実際、僕は今日の実戦訓練で相当体力を使ったし、意識を失う事もあった。
本来ならば、休んで体力を回復させるべきなのだろう。
しかし、実戦訓練を終えた僕たちは明日になればまた馬車に乗って、王城に戻らなければならない。
そうなってしまえば当然レイヴ洞窟に行く事なんて出来ないし、何より神岡に仕込んだリビングソードが無駄になってしまう。
待ちに待って得た大チャンスを、逃すわけにはいかなかった。
それが分かっているからか、葵さんも今は不安と動揺の表情ではなく、覚悟を決めたような真剣な表情をして、そっと口を開く。
「分かりました。信じて、待ってますからね」
落ち着いた声とは裏腹に、強い感情を感じるその言葉。
それは、信頼が心配を上回った確かな証となるものだった。
その言葉を最後に、夕食兼情報共有の時間を終えた僕たちは、食器を返してそれぞれの自分の部屋に戻る。
そして、僕は宿屋から抜け出すべく日が完全に暮れるのを待ちつつも、新しく手に入れた闇属性の魔力の活用方法を探っていた。
まだ手に入れた経緯が分からないとはいえ、せっかく手に入れた新しい力だ。
使うのを遠慮する事もないだろう。
そうやって、魔力を操作したりエンチャント系のスキルを色々試したりしていると……早速、役立ちそうな活用方法を見つけた。
なんと、エンチャントボディーにより闇属性を自身に付与すると、僕が自分のダンジョンで召喚していたシャドウという魔物と同じように、暗闇に溶け込む事が出来るようになったのだ。
正直、かなり便利だと思う。
要はこれ、相手が何か特殊な感知手段を持っていなければ、暗い場所限定ではあるが不意打ちがやり放題になるという事だ。
僕が最も得意とする、一撃必殺の不意打ちが。
だが、今はひとまず不意打ちは置いておいて、早速この闇属性を用いたボディーエンチャントを活用しなければならない場面がある。
今夜のレイヴ洞窟再探索の行程だ。
夜中、他の人にバレないように宿屋を抜け出したり町中をレイヴ洞窟に向けて移動したりする時、きっとこの技はおおいに役に立つ。
まだ使い慣れていないとはいえ、それで失敗をする可能性が少しでも減るのなら、使わないという選択肢は、存在しない。
だから僕は日が暮れるまで、宿屋を抜け出してからレイヴ洞窟に至るまでのルートを、改めて頭の中で練り直した。




