第96話 不明点
「お前たち。積もる話もあるだろうが、そろそろ出発するぞ。仕方ない事ではあるが、予定より時間が遅れている。飯の時間に遅れたくはないだろう?」
俺が神岡との会話を終えた後、ウォルス団長はその顔に疲れを覗かせながらも、重い空気を打ち払うように明るい声でそう俺たちに呼びかけた。
自身も戦闘の後で疲れているだろうに、こういった気を利かせた行動が出来るのは、やはり騎士団長としての経験の賜物だろうか。
【僕】が優先して殺そうとするのも頷けるというものだ。
俺はそんな事を考えながらも、ウォルス団長の呼びかけに応じて他の皆と共に隊列を組み、出発の準備を滞りなく終わらせる。
そして、ウォルス団長からの軽い注意喚起を聞いた後、地上に帰還するべく行きで通った道を再び歩き始めた。
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実戦訓練の帰路は、行きと何ら変化のない、トラブルの起きる要素が見当たらないものだった。
よく言えば安全な、悪く言えば退屈な道のり。
これまでの実戦訓練の成果もあってか、段々と魔物を殺すのに慣れてきた勇者組の皆は、行きの時よりもスムーズにダンジョンを進んでいき、日が暮れる前には無事地上に帰還する事が出来た。
そうして現在、僕たちは無事に実戦訓練を終えた事を祝して、少しばかり豪華な夕食を宿屋の食堂で受け取っていた。
豪華とはいっても、普段の食事に豚肉の塩漬けが二切れ追加されているだけなのだが。
現代日本と比べて明らかに質の劣る料理に少し残念な気持ちになりつつも、僕は食堂の中でも比較的目立たなさそうな場所にある席を探して、そこに座る。
それから少し待っていると、食事を持った葵さんがやってきて「隣、座りますね」と僕に断ってから、隣の席に腰を下ろした。
「さて、色々と話したい事はありますが……取り敢えず、気を失った時に僕の頭の中で起きていた事から話しましょうか。この話に関連して話したい事がたくさんあるので」
僕はそう切り出してから、この夕食兼情報共有の時間の導入として、僕の頭の中で何が起きていたのかを葵さんに説明し始めた。
主に、僕とレイヴ洞窟そのものによる、精神的な戦いについて。
「――というのが、僕の頭の中で起きていた事の全てです」
「そんな事が起きてたんですか……。それじゃあ、努君はその[レイヴ洞窟の意識]が持っていた知識を持っているんですか?」
葵さんは僕の話を聞いて驚いた様子を見せつつも、僕にそう質問をする。
「ええ。全ての知識を奪えたわけではない様ですが、[レイヴ洞窟の意識]が持っていた知識の一部を奪えたのは間違いないです。おかげ様で、今までよく分からなかったダンジョンの実態もかなり分かってきました。それに応じて、僕のダンジョンが既存のダンジョンと違う点も。というのも、どうやら普通のダンジョンは、施設というよりかは生き物に近いみたいなんですよね」
これは奪った知識によって分かった事なのだが、ダンジョンというのはそれぞれ意識を持っていて、勇者の魂のように質の高い魂を欲しがっているのが普通らしい。
動物が食事を欲するのと同じように、ダンジョンは質の高い魂を本能的に欲しているのだ。
だから、レイヴ洞窟は勇者の魂を手に入れるために壮大な待ち伏せを計画した。
ダンジョンコアは見つからないように幻影トラップで隠しつつも、魔物も弱い、トラップもない、簡単なダンジョンを意図して作り、冒険者を招き入れ続けて勇者が来るのをひたすら待った。
そこにまんまと現れてしまったのが、僕たち勇者一行というわけだ。
「とはいえ、まだまだ分からない事も大量にあります。例えば――」
名前:篠宮 努
種族:人間
性別:男性
年齢:十八
職業:ダンジョンマスター
魔力属性:無、闇
スキル:スラッシュLVMAX、ストライクLVMAX、パワーショットLV2、パワーガードLV3、エンチャントソードLV2、エンチャントアローLV3、エンチャントボディーLV2、言いくるめLV2、鑑定LVMAX、気配察知LV3、魔力操作LV3、剣撃LV4、弓撃LV2、暗記LV4、不眠LV2
「僕の魔力属性に闇属性が増えている理由、だとか」
僕は自分自身に[鑑定]を使って表示させたステータスの魔力属性の欄を見ながら、そう話を続けた。




