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第94話 迷宮の意思

 自分がどういった状態かも分からない中、頭の中に声が響く。


『償いましょう。罪なき人々を殺した罪を』


 上手く思考がまとまらない。

 何か考える度、すぐに不思議な声が割って入ってきて、僕の思考の邪魔をする。


『大丈夫です。アナタも許されます』


 …………段々と、思考がまとまるようになってきた。

 しかし、この声は一体何が言いたいのだろうか。


『抱え込まないで』


 ……ああ、そういうことか。

 この声の主は勘違いをしている。


『きっと楽になります』


 僕は今まで沢山の人々を騙してきた事に。

 沢山の人々を殺してきた事に。

 一切の罪悪感を抱いた事はない。

 だから――


「そんなくだらないもの(罪悪の鎖)には縛られない」


 頭の中でそう言った瞬間、パリンと何かが割れるような音がすると共に、思考力が元に戻る。

 が、意識はまだ現実世界に戻らない。

 深い深い思考の海に、不思議な声と共に沈んだままだ。

 

『罪悪の鎖が通用しないというのですか……ならば、正攻法でアナタを奪うまでです』


 そんな不思議な声が頭の中に響いた瞬間、何かが僕の意識に繋がり、そのまま僕の意識を制圧しようと必死に干渉してきた。

 僕が何か考える度にそれを押さえつけて、締め上げて、殺そうとして――


 でも、意識が繋がってるって事はさ。

 こちらからも干渉出来るって事だよね?


『っ!?』


 僕は思考を全力で巡らせて、繋がった意識を逆に制圧しにかかる。

 どうすればいいかは、身を持って教わった。

 向こうが何か考えようとする度、それを押さえつけて、締め上げて、殺せばいい。

 

 実際にそうする訳じゃないけど、そんなイメージ。

 これは、あくまで精神的な戦いだから。


『……そんな、ありえない』


 力ない声が僕の頭の中に響く。

 不思議な声の主と僕の戦いの形勢は、僕の方に傾きつつあった。

 当然と言えば当然だ。

 僕が思考力で早々負ける訳がない。


『やめるのです』


 声を意に介せず制圧を続けていると、面白い事に気が付いた。

 なんと、相手の意識の制圧をある程度進めると、その度に相手の持っている知識を奪う事が出来るようなのだ。

 そして、この不思議な声の主が持っていた知識は中々に興味深いものだったわけで――

 

『やめろ』


 そんな予想外の報酬の存在に気づいた僕は、より一層張り切って意識の制圧を進めていく。


『や……め……』


 そうして、僕は不思議な声の主もとい、レイヴ洞窟と呼ばれたダンジョンそのものの意識を制圧した。


 +++++++++

 

「っぐ……」


 意識を現実世界に戻した瞬間、精神的干渉を受けた影響か頭に痛みが走り、思わずそう苦悶の声を上げる。

 するとそれに反応してか、真上から「努君!?」と、焦りと心配の入り混じった葵さんの声が聞こえてきた。

 どうやら、僕は葵さんに相当な心配をかけさせてしまったらしい。


 それで、これ以上心配をかけないようにするべく目を開けると、見覚えのある岩肌の天井と、膝枕をしながらも涙目で僕の顔を覗き込む葵さんの姿があった。


「すみません、随分と心配をかけてしまったみたいですね」

「いえ、私は努君が戻ってきてくれただけで……それだけでっ」


 葵さんは涙声で喋りながらも、安心で何か心の抑えが取れたのか、ぽたぽたと涙をこぼし始める。

 僕はそれを見て申し訳なさを感じつつも、愛されている事を強く実感して……少しでも安らげるようにと、葵さんが泣き止むまで、僕は腕を伸ばして葵さんの頭を優しくなで続けた。

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