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第91話 勝利条件

「最初に、あの魔物と戦う上での勝利条件ですが、僕は二つあると考えています。一つは、あの魔物自体を撃破する事。そしてもう一つは、恐らくあの偽物の壁の向こう側にある、レイヴ洞窟のダンジョンコアをどうにかする事です」


 まず僕は、作戦を立てる上で最も重要な勝利条件について説明するべく、早口でそう切り出す。

 そしてそのまま説明を続けようとした、その時だった。


 ガコンッ!

 と、独特の重い衝撃音が辺りに響き渡る。

 ちらりと音のした方を見やると、そこには[瞬間移動]で移動したのか、真後ろからトレントの右足の付け根あたりに直接斬撃を加えた神岡の姿があった。

 

 大きな音を鳴らして命中を知らせたその斬撃は、音からしてトレントに確かなダメージを与えたかのように見えたのだが……その実、殆ど効いていない。

 それどころか、トレントは斬撃の命中箇所に出来た浅い切り傷からドス黒い樹液を溢れ出させ、神岡の持っていたロングソードを飲み込み、絡み取っていく。

 それに対し、神岡はトレントの足から伸びてくる蔦の反撃を避けるため、止む無くロングソードを手放し、[瞬間移動]で後退していた。


 その一連の光景を見て、僕は内心舌打ちをする。

 神岡にはもう少し時間稼ぎをしてもらいたかったのだが、武器がなければそれも難しいだろう。

 となれば……警戒されるのを覚悟で、【俺】が動くしかない。


 僕は仕方なく人格を【俺】に切り替えると、【俺】に対してこう指示を出した。

 神岡に声をかけて自分の双剣を片方投げ渡し、その後に時間稼ぎを頼めと。


「神岡! これを受け取れっ!」


 【俺】は僕の指示を受けて全身身体強化を発動させつつも、そう叫びながら指示通り双剣の片方を神岡に投げつける。

 その一方で僕は、投げられたリビングソードに向けて、持ち手側を神岡に向けるように、と思考で指示を飛ばした。


 それに対して神岡は、【俺】からの突然の呼びかけと剣の襲来に驚いていたようだが、すぐに【俺】の意図を飲み込み、見事にリビングソードをキャッチしてみせる。

 そしてそのまま、自身に迫って来ていた蔦をあっという間に切り刻んでみせた。


「ありがとうございます! 篠宮君。おかげで助かりました。しかし何故――」

「細かい事を説明している時間はない! 剣を渡した理由なら時間稼ぎをしてほしいからだ! 俺にはあの魔物をなんとかする策があるが、実行するのにはもう少し時間がいる。だから、その剣を使って出来るだけ時間を稼いでくれ!」

 

 【俺】は神岡の質問を途中で遮って都合の悪い事を聞かれるのを避けつつ、既に策があるというようなハッタリをかましながらも、そう神岡に時間を稼ぐよう要請する。

 それを聞いた神岡は、若干まだ何か言いたさそうにしながらも諦めたのか「分かりました。出来るだけ早くしてくださいよ!」と言って、トレントとの戦闘に戻っていった。

 それを見届けた僕は、改めて表に出る人格を【俺】から僕に戻しておく。

 

 さて、これで少しは時間が出来ただろうが、先の戦闘を見るに余裕があるとは言えないだろう。

 そう判断した僕は、葵さんに説明をしながら作戦を立てていく、という当初の予定を変更した。

 

「突然すみません、葵さん。少し……少しだけ、考えさせてください」

 

 突然【俺】に切り替わった事の謝罪の意味も込めて、僕は葵さんにそう言う。

 そして、急いで作戦を完成させるために、僕は葵さんの返事も聞かずに思考を巡らせ始めた。


 まず考えなければならないのは、二つの勝利条件の内どちらを選ぶかだ。

 トレント自体を倒すか、ダンジョンコアをどうにかするかの二択になるわけだが……これに関しては、僕は既にダンジョンコアをどうにかする方を選ぶと決めていた。

 何故なら、先の戦闘でトレントを僕が倒すのはほぼ不可能だと判明したからだ。


 僕の攻撃手段は、基本的にはリビングソードかリビングナイフによる斬撃しかなく、仕事柄対人間以外を想定した事がない。

 そのため、勇者である神岡の攻撃で殆どダメージを与えられないような相手に、大ダメージを与えるような攻撃を僕は持っていないのだ。


 だから、僕は嫌でもダンジョンコアをどうにかする方を選ぶしかない。

 あの壁の幻影の奥に、何があるか分からなくとも。

 そもそもダンジョンコアがない可能性があるとしても。

 

 そうして、作戦目標を確定させた僕は、続いてそれを達成するための道筋を考えるために、さらに深い思考の海へと沈んでいった。

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