第二話 ~親切な骸骨~
ここは森の中、そして湖から上がる少年少女が二人。
「はぁはぁ…死ぬかと思った…」
「はぁ…なんとか…なったわね」
二人共にびしょ濡れで大の字のまま息を整える。
俺達は落下中に湖を発見し、残った魔力を使い、飛んだ時と同じ要領で移動したのだった。
実際には下級風魔法を交代で小出しにしながら移動するという手法である。
落下速度を緩めながら、どうにか湖に落下することに成功し今に至る。
「まさかあそこまで飛ぶなんて思わなかったよ」
「そうね。でもそのおかげで生きてるし、よしとしましょう?」
笑顔で返すエル。
「そうだな。それよりこのままじゃ風邪引いちまう」
起き上がり、自然回復した魔力を使って、手のひらに魔法陣を展開する。
「下級炎魔法」
詠唱と共に手のひらで炎が揺らぐ。服が乾くには十分な火力だ。
「ほら、エル。これを使っ…て…」
自慢気に微笑むエルの手のひらにも炎が揺らいでいた。
「改めて驚いた。エルも色々な魔法が使えるんだな」
記憶がないというのに、風属性だけでなく火属性まで扱えるというのだから驚きだ。
「ルーのを見て出来るかもって思っただけよ」
「俺は…あれ?何で使えるんだ?」
「えっ!?」
実は幼いころから母に教わっていたというのは基礎的なもので、武器等に魔法を付与したりといった技術は感覚で使用していたのだ。いや、もしくは記憶を失う以前の俺自身が使用していたのかもしれない。
「村にいた時から何となく知ってたから使ってたけど、今思うと謎だな」
「はあ…わたしも大概だけど、ルーも相当変よね」
呆れたように呟くエル。まぁ自分でも変だとは思うし、その反応も仕方がない。
「まぁ便利だからいいか。それじゃ服も乾いたし街に行こう。あのでかい建物の方角にあった筈だ」
地下を脱出した時から目に入っていたタワーを指差して言った。
「そうね。まずは情報を集めないと。わたしは大丈夫。行きましょう?」
エルは炎を消して立ち上がる。
「ああ。暗くなる前に森を抜けよう」
俺も立ち上がり、二人で歩き出す。
森を抜けて街に到着する頃にはすっかり夜になっていた。
俺達が訪れた場所は商店街のようで、夕飯の買い物をする主婦を中心に賑わっていた。
「うわぁ、凄いなぁ」
思わず感嘆の声を漏らす。ずっと小さな村で過ごしてきたため、このように生活の営みが盛んな光景を見るのは初めてだ。
「そうね。取り敢えずこの街について情報を集めましょ」
「お腹空いた…」
エルの提案に申し訳なさそうに返す。どうやら俺の腹の虫は限界のようで、絶えず食料を要求してくる。
「はぁ…しょうがないわね。じゃあ食料探しも並行して行くわよ」
「やったぁ!だったらあそこに行こう!さっきから旨そうな匂いがする!」
「はいはい。あんまり急ぐと転ぶわよ?」
俺が指さしたあたりに二人で向かう。そこには、鉄板の上で巨大な肉がジュージューといい音を立てている屋台があった。運が良いことに客も並んでいない。
「おぉーー!旨そう!すみません!これ二人前!」
気前のよさそうな店主に声を掛ける。
「おう!元気のいい坊主だな!じゃあ二人前で200ゴールドだな。ってお前ら魂器はどうした?」
「「魂器?」」
聞きなれない単語に首をかしげる二人。
「これだよこれ。みんな腕に着けてるだろう?これがないと買い物はおろか、まともな生活できやしねぇぞ?」
「「え?」」
改めて辺りを見回してみると、町の人々は皆腕に機械を着けており、その液晶から出たウィンドウやホログラムをタッチすることで買い物をしていた。
「よく見りゃ服もボロボロだし、盗賊にでも襲われたのか?」
心配そうに店主が問う。
「いやぁ、その、話せば長いんだけどさ…」
今までの出来事をなるべくわかりやすい様に説明してみる。
事の顛末を話した後
「なんだそりゃ!?そんで二人共記憶もねぇのか!?」
目を丸くする店主。
「ああ。信じられないと思うけどそうなんだ」
頭を掻きながら苦笑する。
「うーむ。何とかしてやりてぇが、こっちも商売だからなぁ」
「そんなぁー…」
がっくりとうなだれるルーファの肩にエルが手を添える。
「仕方ないでしょ。それよりも情報をあつめなきゃ…」
唐突にエルのお腹が鳴る。赤面するエル。
「なんだよー、エルだってお腹空いてるじゃないかー」
「わ、わたしじゃないわよ!?」
「いやぁ、いい音だったぞ嬢ちゃん」
「おじさんは黙ってて!」
「お、じ、さん…」
うなだれる店主をよそに二人の言い争いが始まると思われたが…
「何かお困りですかな?」
「「え」」
陽気で優しい声がして、振り返ると…目の前に骸骨が一つ。
「ごきげんよー」
「「ヒィィィィィ!!!」」
お互いにしがみついて悲鳴を上げる。
「おぉ!マイン先生じゃねぇか!相変わらず神出鬼没だな」
「お久しぶりです。元気にしてましたか?」
固まる俺達をよそに、いつの間にか復活していた店主が骸骨と親しげに話し始める。
「いやー、今度二人目が産まれるんですよ」
「それはめでたい!産まれたら是非会わせて下さい」
「えぇ、勿論」
一通り世間話を済ませた後、未だに抱き合ったまま凍結している俺達に骸骨が歩み寄る。
「コラコラ、いつまで驚いているんですか?」
「「はっ!」」
「安心しなさい。こんなチャーミングな骸骨他にいませんよ?」
いかにもな漆黒のローブを纏いながら迫りくる自称チャーミング。エルは思わず俺の後ろに隠れる。逃げ場が無くなったので、勇気を出して話しかける。
「うっ、えっと…マイン先生って言ってたっけ?」
「そうです。これでもベテラン教師なんですよ!」
胸を張るマイン。
「でしょうね」
店主だけでなく、周りの住民たちも特に驚愕しているような様子は無く、それを見てようやく警戒心を解いたエルも前に出る。
「でもなんで骨なんだ?」
素朴な疑問をぶつける。
「いやなに、昔ちょっと失敗して死んじゃいましてね。それで魔法で魂を留めている訳です」
「すげー!魔法ってそんなことまで出来るのか!」
「えぇ!私ほどになればこれくらい造作もないですよ!」
「もう色々と麻痺してきたわ」
ガッツボーズをきめるマインに目を輝かせる俺と対照に、引き気味のエル。
「でもちょうどよかった。マイン先生、わたし達記憶がなくて困ってるんです。だからこの街とか魂器について教えて下さい」
「おやおや、そうでしたか。勿論いいですよ。それでは場所を移しましょうか」
エルの申し出を快く引き受けるマイン。おじさんに挨拶をした後、三人で歩き出す。
「はぁ~うめぇ!」
「ちょっとルー!もっとゆっくり食べなさい!」
「おやおや、よほどお腹が空いていたんですね」
街の中心に構えるレストランで、テーブルに積まれた料理をガツガツと口に放り込む。
「それはそうと先生。さっきまでいなかったけど、どこに行ってたんだ?」
空になった容器をテーブルに置きながら問う。
「色々と準備してたんですよ。まずはこれですね、あなた方の魂器です」
そう言って懐から二つの黒い魂器を手渡す。
「おぉ!ありがとう先生!」
「でもいいんですか?貰ってしまって?」
「えぇ勿論。これがないと色々不便ですからね。最新機種なので大事にしてください。取り敢えず着けてみなさい」
まじまじと見ながら俺達は腕に魂器を装着する。一瞬だけ全身に電流が走ったような感覚に襲われたが、それ以降は特に何事もないので杞憂だろう。
<起動シーケンスを開始。魂の照合を開始…該当なし、新規登録を行います>
「「おぉ…」」
液晶が点灯し、目の前にウィンドウが現れる。
<登録完了。初期設定を行なって下さい>
「先生」
設定と突然命令されたが、全くもって理解できないので助け舟を出す。
「大丈夫ですよ。一緒にやりましょう」
マインの指導を受けながら何とか俺達は初期設定を完了させる。
「これでひとまず安心ですね。それでは最後に、この世界について説明しますね。ここに触れて下さい」
指示された通りにすると画面が切り替わり、世界地図のホログラムが現れる。
「まず今私達がいるのが、この世界の中心の国アドです。そして、アドから見て北にあるのが地の国タテム、東が風の国ガウド、南が炎の国ライ、西が水の国ドルと呼ばれています」
「属性で住む国が決まっているんですか?」
エルが問う。
「いえ、そういうわけではありません。どこに住むかは本人の自由です。ただ、同じ思想をもった人々が集まった場合、それぞれの国民の大多数が、同じ属性の使い手だっただけです。というのも、魂にも属性がありましてね、得意な属性とその長所を活かして生活をするために自然とそうなりました」
「なるほど、じゃあここアドはどういう国なんですか?」
またエルが質問する。
「よい質問です。ここアドは魔法ではなく魂器を生活の主軸にした国です。実は時代が進む内に人々は、魔法が使えなくなる、もしくは高等なものが使えなくなってきましてね、ここはそういった人々が住んでいます。そして中心にそびえ立つタワーが全世界の子供達の教育施設、カルトです」
「えぇ!?このタワー全部が学校なのか!?」
今度は俺が驚きの声を上げる。学校については通ったことは無いが、母から聞いていた。だがまさかあそこまで巨大なものだとは。
「そうです!交流も兼ねて全世界の子供たちを集め、中等部までは一般的な教育を受け、魔法が使えるものは高等部に上がり、魔法という存在を失わないために切削琢磨する訳です」
「へぇ~。じゃあアドの真下と真上にある二つは?」
俺の問いに対して、マインは先程までと比べ少し声のトーンを下げ、下の大陸を指差す。
「ここは大罪を犯した罪人達の牢獄ルムです。そしてタワーの更に上にあるのが、神とその代行者が住む聖域です」
「「神!?」」
神。それは絶対的な存在であり、人々の信仰の対象。村に居た時は空の上から俺達を見守っていると教えられてきたが、この目で見たことは無い。まさか実在するとは。エルも驚いているので同じだろう。
「とはいえ、誰もあったことはありませんがね。代わりに代行者が我々に啓示を行います。代行者は人間の中から若く優秀な魔法使いが選ばれます。代行者は12人存在し、選ばれた者とその一族は姓を与えられ、代替わりをするまではある程度の権力を有します」
「なんか色々決まり事があるんだな…」
初耳の用語が多くキャパオーバー気味だ。
「そうですねぇ…まぁそういう訳なんで、魔法が使えるあなた方にはカルトの高等部に編入してもらいます。寮もありますし、生活にも困らないでしょうから。よろしいですか?」
「楽しそうだし、俺はいいよ!」
元々学校には通ってみたかった。断る理由もないので笑顔で答える。
「わたしも大丈夫です。でも編入なんて出来るんですか?」
不安そうに答えるエル。
「そこは心配無用です。校長権限を使います」
しれっと答えるマイン。
「「校長だったの!?」」
驚く俺達。
「はい。それではもう大分遅い時間ですし、今日はゆっくり休んで下さい。このレストランの上の階はホテルになってましてね。部屋も取ってあるのでこの鍵を使ってください。学校生活に必要な物も部屋に届けてあるので、確認してください」
立ち上がり、マインは鍵を一つ渡す。
「ああ!ありがとう先生!」
鍵を受け取り、感謝を述べる。
「本当に何から何までありがとうございました」
エルも頭を下げて礼を言う。
「困った時はお互い様ですよ。それでは明日の朝迎えに行くので、支度をして待っていてください」
そう言ってマインは俺達に別れを告げる。
俺達もマインに手を振って部屋へと向かった。
「で…なんでこうなるのよっっ!!」
「いでっ!」
ベッドから蹴り飛ばされる。中々に良い一撃を横腹に食らってしまった。
「なんだよー、狭かったのか?じゃあもうちょっと端で寝るよ」
そう言って俺はダブルベッドに入ろうとする。蹴り飛ばす前に言ってくれれば良いものを。エルは口より先に手が出てしまうタイプの様だ。
「違う違う!なんでダブルベッドなの!?おかしいでしょ!?」
声を荒げるエル。
「しょうがないだろー、部屋もここしか空いてなかったって先生も言ってたじゃんか」
スペースが狭くなることは申し訳ないが、それは俺も同義な訳で、お互いに譲歩しなければ。
「うぅ…わかったわよ。でも、変なことしたら吹っ飛ばすからね?」
念を押してくるエル。
「え?何するっていうんだよ?」
思わずキョトンとする。エルの言っている意味がよく解らない。あれ?でも以前母さんが女の子と寝るときは覚悟と責任を持てとか言っていたような…まぁそれもよく解らないしいいか。
「あぁもういいわよ…おやすみなさい」
俺に背を向けるエル。どうやら納得してくれた様だ。
「ああ。おやすみ」
欠伸をしながら横になる。今日だけで本当に色々なことがあった。村が無くなってしまった時はこの世の終焉だと錯覚するほどの絶望感を味わったが、エルに会えた。彼女との出会いで俺の世界は広がった。まだ割り切れない部分もあるが、俺は新しい世界で生きて行ける。今日はよく眠れそうだ。期待通りに心地良い眠気に包まれて俺は眠りに落ちる…
暫くして…
「(全然眠れないわ…眠れる気がしないわ。こんなのどうやって眠れっていうのよ!?)」
葛藤する年頃の少女が一人。
「(ああもうなんでこんなに緊張してるのわたし?そりゃあルーはまあまあ男前だし、いざという時は頼りになりそうだけどってそうじゃなくて!?)」
ドツボにはまっていく。
「(ていうか何なのルーのヤツ!ちょっと抜けてるとこあると思ってたけど、この状況で何とも思わないわけ!?いや、そんな筈ないわ。ルーだって絶対眠れてな…)」
「くー…かー…あぁかぁさぁん?おかわりぃ…」
「(コォォォイィィィツゥゥゥゥゥ!!!)」
振り返り鉄拳制裁の構え。爆発寸前のその時。
「エル…」
「えっ!?な、何よ!?」
「頑張ろうな…すー…くー…」
「...」
拳を解き、制裁を受ける筈だった頬に手を添える。
「うん。頑張ろうね…」
そのまま二人は深い眠りに落ちていく…
明日から新しい生活が待っている。
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本編の補足ですが、今回は本編中にほとんど説明したので省略したいと思います。
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