2.やっぱり何が起きたのか分かんない!
とにもかくにも、まずはお兄さまと話さなければ。確か、馬車に撥ねられたんだったと思うけど。
え?これ、質問したらお兄さま答えてくれる?
こんなに心配しましたって顔しておきながら、いつもみたいに、はぁ?って返されない?
え?え?怖いんですけど!!
「フェリシエンヌ!!目が覚めたんだって!?」
「フェリちゃん!目が覚めたって本当なの!?」
一人でぐるぐると考えていると、ドアを吹き飛ばして一組の美男美女が飛び込んで来た。
比喩ではない。物理的にドアが吹き飛んだのである。厚さ5センチメートルくらいある筈のドアが吹き飛んだのである。
いやあ、風圧がすごい。下手したら厚さ5センチの木の板が頭に直撃してたよ。危ない、危ない。横になってて良かった。下手に起きようとしなかった、数分前のわたくし、グッジョブ。
「父様!母様!ドアは開けて入って来てください!!使用人はともかく、フェリに当たったらどうするんですか!!」
「あの……お、にぃ…さま……し、用人の方も…当たった、ら、あ…ぶないか、と……」
白銀の短髪を乱し、キリリと吊り上がった琥珀の瞳を持つ美丈夫がお父さま。ゆるくウェーブした藍色の髪を結わず、エメラルドの瞳を潤ませているのがお母さま。
顔を紅潮させ、息を切らせて肩を激しく上下させる、豪快すぎる登場をした二人に怒鳴るお兄さまに思わずツッコミを入れてしまう。
使用人だって人間だよ?当たったら痛いで済むわけない。
「フェリ!フェリ!!良かった……本当に、良かった…!!」
だがしかし。わたくしの絞り出したツッコミは華麗にスルーされ、声を出したことでわたくしの目覚めを確信したのであろうお兄さまに抱きつかれた。と、言うよりも未だ、ベッドの上で体を起こせないでいるわたくしにお兄さまが覆いかぶさったような形だ。
お兄さまに続いてお母さまも涙をポロポロこぼしながらわたくしに抱きつき、お父さまは優しく頭を撫でてくれた。
それを見て、こんなに心配させてしまったのか、と申し訳なくなってくる。
「おと、さま…おかあ、さま……ご心配、おかけして…」
「当たり前です!我が子を心配しない母が何処にいますか!!」
ごめんなさい。
そんな謝罪を遮るように、幼い少女のように涙をこぼすお母さまが怒る。せっかくのお化粧が落ちてしまうのも厭わずに、次から次へと涙を溢れさせて泣きじゃくるお母さまの姿に、わたくしは何も言えなくなってしまった。だって、こんなお母さまは見たことがない。
「フリージア。落ち着きなさい。シャロン、お前もだ。フェリシエンヌはまだ目覚めたばかりなんだ。困ってしまうだろう?」
そんなわたくしを見兼ねたのか、お父さまが酷く優しげな目でお母さまとお兄さまを宥める。
ありがとうございます、お父さま。でも、頭を撫でる手が止まっておりませんよ。
「フェリシエンヌ。今、お医者様を呼んでいるからね。もう少しだけ安静にしていなさい。私たちは隣の部屋にいるからね。何かあったら側にいるマーサに言いなさい」
いいね?と念押しするお父さまにコクリと頷くと、お父さまは泣き笑いのような顔になる。涙なんて一滴も流していない。けれどどこからどう見ても、お父さまのそれは泣き笑いだった。
「父様!!こんな時にフェリの側を離れろと言うのですか!?」
だけれど、お父さまの言葉に納得できないと抗議の声を上げたのはお兄さま。二度と離すまいとばかりにわたくしの手を強すぎるくらいに握る。ねぇ、本当に何が起こったのお兄さま?
「こんな時だからだ、シャロン。フェリシエンヌは目覚めたばかり。私たちが側にいることで余計な負荷を与えてしまうかもしれないだろう?」
お前がフェリシエンヌを心配する気持ちも分かるけれどね、とわたくしと同じようにお兄さまの頭も撫でるお父さま。
お兄さまもお母さまも何か言いたげだったけど、お父さまが、今はゆっくりさせてあげよう、という言葉に二人とも頷いた。
そうして、わたくしが何か言う前にお兄さまは手を、お母さまはわたくし自身を、存在を確かめるようにもう一度しっかり抱きしめて、そのまま後ろ髪を引かれる様子を見せながらも部屋を出て行った。
お父さまも、生きてて…良かった…!と震える声で言ってくださり、わたくしの頬を撫でてから、側に控えるマーサに一言、二言何かを言って部屋を出て行ってしまった。
お気遣い、ありがとうございますお父さま。寝起きからあの状態のお母さまとお兄さまのお言葉をきっちり受け取ることができそうになかったので、とても助かりました。
けど……けど!!あと一言だけ言わせてください…。
やっぱり、わたくしが気を失ってる間に何がどうなってどうしたのか全くわからないので、誰か説明してくださいませ!!




