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17.もしものアクシデント

 魔法の研究を始めてから何回目かの検証の日。

 今日はお父さまの付き添いの元、中庭でお兄さまとヴィクターと鬼ごっこをした。魔法を使ってるわたくしに対抗したお兄さまとヴィクターが身体強化使ってた所為でバケモノじみた鬼ごっこになったけれど。

 ヴィクターはこの後お昼寝だからまだしも、お兄さまは言語学のお勉強よね?……大丈夫かしら?

 というかお父さま。わたくしが目覚めてからずっと領にいらっしゃいますけど、お父さまは宰相なのよね?お仕事は大丈夫なのかしら?



「フェリシエンヌ。最近、また夜更かしをしているそうじゃないか。大丈夫なのかい?」

「問題ありませんわ、お父さま。わたくし、楽しくて楽しくて仕方ありませんの」



 まだ魔法の発動時間が残っているわたくしは鬼ごっこの後、お父さまと手を繋いで部屋へと戻る。その途中、お父さまは思い出したようにわたくしに尋ねた。心配そうなお父さまに百点満点の満面の笑みで答えるわたくしに、お父さまは仕方がないな、と呆れたように笑った。

 わたくしが不規則な生活で体調を崩しがちだったからこその心配なのだろう。……その生活も改善しようとしてないわたくしが悪いのだけれど。

 優しく頭を撫でてくださったお父さまに、程々にしておくように、と注意を受けてわたくしは頷く。

 これでもここ最近は体調が頗る良い。マーサの目が厳しくなって、夜の12時を過ぎる前には強制的にベッドに入るようになったのも良い影響になっているんだと思う。マーサ様様である。



「そういえば、マーサに聞いたのだが……立つ練習を始めたらしいね?」

「ええ。もしもの場合に備えて咄嗟に立てるのと立てないのとでは全然違いますもの」

「もしもの場合?」

「例えば……そうですわね…椅子に座っている時、何らかの原因で座っている椅子が突然倒れてしまったとします。この時、自力で立つことができなければ椅子と一緒にひっくり返ってしまいますわ。その拍子に思わぬ怪我を負ってしまうかもしれませんもの」



 突然変わった話の内容は、わたくしのリハビリ…もとい、立つ訓練のこと。そう、わたくしはあの日から寝る前に必ず立つ練習をするようになったのだ。…と言っても、専門家でもなければその勉強をしたこともないわたくしに「正しいリハビリ方法」なんて分かる訳がない。良くなればなりますように、と願いを込めて思い付く方法を試すしかない。

 そこでわたくしは毎晩、ベッドに手をついて体を支えて立つだけでもやっているのだ。……と言っても足に上手く力が伝わらないから、ほとんど腕の力だけで立っているようなものだけど。

 そのうち、腕だけが異様に逞しくなったらどうしよう。


 そしてこの訓練を始めた理由は、お父さまに言ったのも勿論だが、ただ単純にわたくしがもう一度自分の足で歩きたい、というのが一番だ。だが、これを言ってしまえばお父さまたちに気を遣わせてしまう。

 今現在でも十分に気にかけていただいているのに、これ以上は過剰だ。気を遣わせすぎてお父さまたちの方が疲弊してしまうだろう。


 わたくしの答えた理由と例え話に絶句し、何を言っているんだ、とでも言いたげな表情を浮かべるお父さまを見て苦笑する。たしかに、そんなことは普通に過ごしていればまず起きないことだろう。わたくしも目の前の相手がそんなことを言い出したらお父さまと同じような表情になる自信がある。だけれど、わたくしは―――フェリシエンヌは違うのだ。


 もしも、この世界が『ゲームの設定に類似した並行世界(パラレルワールド)』なら良い。全く問題じゃない。けれど、この世界が『ゲームの設定に忠実な世界』だったのなら?目に見えない、『ゲームの強制力』のような力が働いて、どれだけわたくしが努力しようともこの世界がわたくしを殺そうとしてくるだろう。

 お父さまに話した例え話のようなことも起こり得る。些細なアクシデントが起きて“打ち所が悪く”死んでしまうかもしれない。


 あり得ない話ではないだろう。先日の事故が良い証拠だ。

 ゲーム、『アリアドネに花束を』をプレイしていた時には何も感じなかったが、貴族の子女として生きてきて引っかかることがいくつか。

 仮にも王族を乗せる馬車を引く馬が、たかだか子供の泣き声くらいで暴れるほど驚くだろうか。いや、普通なら考えられない。なにせ、破落戸にでも囲まれたら一発アウトだ。馬車が横転する。


 あの事故の瞬間、我が公爵家の面々を含めたわたくし以外の全員……王子殿下の護衛さえも動かなかったのも不思議だ。偶々近くにいたわたくしが間に合うのは分かる。だが王子殿下の護衛たる者、殿下をお守りする動作を一切見せなかったのはどうしてか。足が間に合わずとも、数人いた護衛の内の誰かが魔法でシールドを張ることくらいはできただろう。

 できないと言うのなら、失礼だがこの国のレベルは程度が知れている。隣国と戦争にでもなったら、1日と待たずに白旗を上げることを全力でお勧めしよう。差のありすぎる格上相手の戦いなど、どうぞ蹂躙してくださいと言っているようなもの。


 そして、御者台にいた男。あいつが一番の謎だ。馬同様、馬の暴走を容易く許す男が御者を務めて良いのだろうか。そして何故だか男が乗っていた、ということしか思い出せない。どんな背格好だったのか、などがサッパリなのだ。顔はまだしも服装まで思い出せないとはこれ如何に。

 王族の乗る馬車なのだ。地味とは言え、服装もそれなりのものであったはずなのに……。


 疑問だらけのこの事故だが、『ゲームの強制力』によるものだとしたら話は早い。

 製作者(カミサマ)だって、現代の日本の会社に勤める一般人。よほど几帳面か凝り性でなければ、そんな細かいところは気にしないだろう。

 これが誰かの陰謀によるものなのか否かも関係ない。

 ただただ、この世界ががわたくしが生きることを厭い、殺しにかかって来ている。……どん足掻こうと関係ないのだろう。



 ……ヤバい。色々考えてたらなんかスケールが大きすぎてとんでもないことになったんですけど。

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