表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/43

13.やはりどこか他人事のような感覚

 わたくし関連のことで我が家にお医者様を呼ぶのは今回が初めてではない。


 わたくし……前世を思い出す前のわたくしは頗る不摂生な生活をしていた。

 言語学、歴史学、礼儀、作法、ダンスに乗馬、更には剣術、エトセトラ…学べるものは片っ端から手を出しては根を詰めすぎて食事を抜くこともあったし、本に熱中し過ぎて気がついたら夜が明けていた、なんてこともままあった。他にも要因はあるが、とにかく不健康な生活を続けていた。僅か6歳…この間までは5歳の幼女の体には大きすぎる負荷。当然のように体調を崩しがちだった。

 それでも生活態度を改めようとしないのだから、フェリシエンヌ(わたくし)は相当頭が固い。


 そして、そんなわたくしには半ば専属と化したお医者様がいる。

 エルドレッド・ストッパード先生―――通称、エル先生。詳しいことは分からないが、25歳前後のお世話好きな若き町医者。ちなみに男性。

 原作ではフェリシエンヌ亡き後、何かとわたくしの兄妹たちを気にかけてくれていた人で、何故かは知らないけれど主人公が通う学園にいた。それで、何か煮詰まった時などは話を聞いたり、アドバイスをしてくれたりと…要するにまあ、サポートキャラだった。のんべんだらりとした雰囲気を身に纏っているが、常に的確なアドバイスをくださる、優しい人。


 だがしかし。ただの優しいサポートキャラで終わってくれないのが『アリアドネに花束を』と言う乙女ゲームだ。

 このゲームは、各エンド毎にそれぞれ異なるキャラクターが解放される。各攻略キャラのハッピーエンドは勿論のこと、ノーマルエンド、ハーレムエンド、更には全バッドエンドクリアで解放されるキャラなんてのもいた。どう考えてもおかしいだろ。


 エル先生は、ノーマルエンド後に解放されるキャラクター。いや、年齢を考えろよ制作会社。約20歳差だぞ?年の差恋愛にしてもちょっと無理がないか?



『キミ、俺の大事な子に似てるんだよね。…その子、もう死んじゃったけど』



 エル先生ルートの一番最初のイベントでの先生の台詞がこれ。この時点じゃ分からないけど、話聞くとフェリシエンヌのことなのよね……。まあ、今現在、妹?娘?みたいに可愛がってもらっているから、『大事な子』って言うのもあながち間違いじゃないのだろうけど…。なんか紛らわしい言い方よね。


 さて、どうしてわたくしがこうも長々とエル先生について語ったのか。その理由は単純。目の前にご本人がいるからである。まさかエル先生を呼ぶだなんて思ってもいなかった…と言うより、エル先生のルートなんて覚えてなかったし!!その時のフェリシエンヌ、風邪拗らせて死んじゃってるし!!死因がそこはかとなく残念な感じがするし!!

 なんでご本人を前にして思い出すかなぁ!?


 ……ヴィクターの部屋でその後どうなったか?……いやもう、ね?

 ヴィクターの部屋にいるわたくしに驚いてお父さまが固まったと思ったら、取り乱しかけたお母さまがお父さまを蹴っ飛ばしてヒールで踏みつけたんだもの。……本人も無意識のうちに。お母さま、怖すぎます。

 しかも、お父さまもお母さまも揃って身体強化を使って屋敷内を爆走していたらしく、止めようとしたお兄さまがグロッキーになってた。疲労困憊でソファーに倒れ込んだお兄さまには合掌しておいた。お疲れ様です、なむなむ。

 そして、収集がつかなくなり始めていた頃に救世主の如く現れたのがエル先生だったのだ。正直言って助かったよね。



「…はい。じゃあ、失礼して足触るなー?」



 そして、今の今までわたくしは自室でエル先生と雑談と言う名の問診をしていた。なんでも、あの事故でわたくしは足に大怪我を負っただけでなく、頭も強かに打ち付けていたらしい。…よく死ななかったな、わたくし。



「なんか感じるー?」

「いえ、何も……あの、本当に触ってます?」

「触ってる触ってる。ほれ、めっちゃマッサージしてる」



 問診の後の触診。足の運動機能以外に失ったものはないか、というものらしいが…。残念なことに、感覚まで失っていたらしい。椅子に腰かけて座るわたくしに対し、エル先生は膝をつき、わたくしの足を取ってふくらはぎを、指先を、裏をめっちゃ揉んでた。だがしかし、悲しきかな。わたくしには何にも感じない。


 それを伝えれば、エル先生は悲しそうに目を伏せて息を吐き出す。曰く、わたくしの膝から下は完全にダメらしい。恐らく、神経が圧迫されてるのか切断されてるのか……どちらにせよ、深刻なダメージを受けたのだろう。

 けれど、わたくし自身はそう悲観していない。

 前世のテレビで、手足であれば神経が損傷しても時間はかかるが回復する可能性がある、と言っていたのを思い出したから。実際の映像はペットの犬だったけれど、人でもいけると思ってる。



「……感覚も分からない、かぁ……。

 でもま、大丈夫だよきっと。」



 そんなわたくしの考えなんて知らないであろう、先生はわたくしの頭を撫でて苦しげに笑うと、お父さまとお母さまに伝えてくる、と部屋を出て行った。

 ……黙ってたら、わたくしがショックで色々喋らないんだと思われたみたいなんだけれど。

 実際、ショックよ?これからは今まで当たり前にできてたことができなくなるんだし。けど、なんて言うか……まだ実感湧かないのよねぇ……。




 なんて呑気に考えていたわたくしは、僅か数日で改めて現実を突きつけられるなんて思ってなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ