表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

籠の中の三日月 : 裏



 おや? あいつ、また来てやがる。

 毎日毎日人ん家を覗きやがって。こんなボロ家なんか見て何が面白いんだか。

 まあ趣味なんざ人それぞれ。古今東西平凡な奴も居れば特殊な奴だって居るもんだ。

 俺も若い頃にゃ年寄り連中から散々変な奴だと言われまくったクチだ。俺から言わせりゃ、あの爺どもの方がよっぽど変に感じたがな。

 今じゃあの爺どもと同じヨボヨボになっちまったが、考え方まで同じにはなりたかねえ。

 変で結構。普通も結構。皆が皆同じじゃつまんねえ。一ヵ所に片寄ってたんじゃ、窮屈でしょうがねえやな。

 あいつもそんなはみ出し者の一人なんだろう。いいね。若いな。

 何にそんな夢中になってんだか知んねえが、ヘバラねえ程度に頑張んな。

 さて、若者の応援ばかりしてらんねえ。俺も夜に備えて準備しておかねえとな。

 老いたとは言え、寝たきりになるつもりはさらさらねえ。かと言って昼間っから動き回っちゃ体力が持たねえのも事実だ。

 今の俺には月の輝く時間だけが活動時間。月はよく女神に喩えられるが、実際大した女だよ。

 時間制限付きとは言え、俺に若さを取り戻してくれるんだからな。投げキッスでもしてやりたい気分だ。

 俺の投げキッスは命中率が高いぜ。大抵の女はそれを見てうっとりした表情しやがるからな。

 しかし、どこぞの年寄りから聞いた話じゃ俺らの投げキッスは雨の前兆だなんて言われてるらしい。

 もしそれが本当なら皮肉な話だ。天の女神をうっとりさせても、姿が隠れちまうんじゃ元も子もねえ。

 やっぱり女神にゃ静かに天で見守っていてもらおうか。旦那を怒らせて日向ぼっこが出来なくなっちゃあ、それこそ一大事だしな。


 紫色の夕焼けが目に飛び込んでくる。

 もうすぐ夜が来る。もうすぐ、俺の時間だ。


 ……あ? まだ居たのか、あの若造。

 俺と違って昼間から動けるくせに、何を同じところにつっ立ってやがる。

 ちょっとばかしハッパかけてやるか。


「おい若造! ただ立ってるだけじゃ何も始まんねえぞ! お前の足はデクで出来てんのか、あぁ!?」


 へっ、面食らってやがる。最近の若者は怒鳴られることに慣れてないらしいからな、少しは効果あるだろ。

 さて、本格的に動き出す前にもう一眠りしておくかい。今夜も長くなるだろうから、しっかり体力温存しなくちゃいけねえ。

 このボロ家は居心地が良いが、出入りする時だけが不便だからな。わざわざ縁側の端まで押していかなきゃ出られねえ。老体にゃ、ちっとばかし辛えんだ。

 もう一眠りしておこうかね。



 ……ん? おお、もう夜になったんかい?

 ちっとばかし眠りすぎたか、女神さんもすっかり天に昇ってやがらあ。

 化粧でもしてんのか、今宵の女神さんはいつもよりも別嬪に見える。ボロ家から出る前に、もう少し目に焼き付けておこうかね。

 ボロ家の隙間から見える月は、外で見るのとは格段に違う。言うなれば、これがアレだ、風流ってやつだ。

 夜空に浮かぶ女神を見上げる。

 いい女にお似合いの、キレイな三日月だ。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ