美少女からお願いされるのが幸福とは限らない
春になっても学校の屋上はまだ少し寒く、ブレザーの下に着込んだカーディガンの役目はまだ終わらないようだ。
落下防止用の柵を背に、うとうとしていると対面の屋上入口の扉が開く。待ち人来る。
そこに現れたのはただの女子高生だった。ただのというには容姿が優れすぎている気もするが、そこはあまり重要ではない。
「俺を手紙で呼び出したのは君か」
問いかけというよりは確認に近い言葉。彼女は薄く微笑み首肯する。
「突然お呼び立てして申し訳ありません。鍵崎先輩」
手紙で呼び出すくらいだから当たり前だが、どうやら彼女は俺のことを知っているようだ。しかし、俺は彼女のことを知らない。
「どこかで会ったことがあるっけ」
当然の疑問を口にした。
「会ったことがあるかというと会ったことになるのかもしれません。けれど、あなたはそれは知るよしもないでしょうね」
なにそれ怖い。不思議ちゃんなのだろうか。前世があれ的なやつとか言い出しそうだ。今の発言はスルーしよう。
「えっと。ところで何の用かな。告白とか? 君の容姿はとても魅力的で同世代の子と比較しても抜きん出ていると思う。だけど今の発言でちょっと電波入ってるのかなとか、高級羽毛布団でも買わされるのかなとか、若干引いているので友達から考えさせてもらっていい?」
スルーできなかった。そんな俺のぶしつけな言葉にも彼女は微笑みを崩さない。
「ひとつ、お願いが会って来ました。あっ、もちろん告白とかではありません。友達になるのも……すみません。遠慮させてください。わたしは先輩の能力は信頼しているのですが、正直人格に関しては、今の
発言を見ても、なかなかに面倒くさそうなので」
「ああ、そう……まあいいけどね」
彼女は微笑みながら、なかなかにキツいことを言う。
「申し遅れました。わたしは錠前寺すずと申します。学年は一年生です」
「ああ、そう……よろしくね」
「先輩怒っています?」
「いや別にさっさと本題に入ってよ」
「やっぱり怒ってますよね?まあいいです。単刀直入に言います」
微笑むのをやめ、彼女は真面目な顔になる。
「わたしを生徒会長にしてください」