冒険者登録
「ここがギルドか……」
あの嵐のような出来事のせいで、
俺は、冒険者ギルドのある方向が分からなくなって、少しの間、迷子になっていた。
それでも、やっとの思いで到着し、今目の前にその建物がある。
緊張しながら、中に入っていった。
がら〜ん
あれ?
中には、誰もいなかった。
とりあえず、受付の所に行って、誰かいないか呼んでみた。
「すいませ〜ん、誰かいませんか〜」
すると、「は〜い」と奥から受付嬢だろう、女性が出て来た。
「すいません。お待たせしました。当冒険者ギルドにどのようなご用でしょうか?依頼ですか?」
「いえ、冒険者登録に来ました。」
俺がそう言うと、受付嬢は、またか、と言いそうな表情になった。
「あ、あの〜」
「あ、すいません。この頃、冒険者になりたいと言って来る人が急に増えて、少し忙しかったので、つい顔に出てしまったようです。 」
「大丈夫です。気にしませんから。それより、冒険者が急に増えてきたんですか?」
「はい。どうやら、ダンジョン関係で、興味を持った人が大勢いまして…」
あなたもそうじゃありませんか?と目で問いかけてきたので、
俺は、頭を横に振って、否定しながら、聞いてみた。
「いいえ。ダンジョン関係の事はよく知らないので、良かったら、教えてくれませんか?」
「珍しいですね。え、え〜とダンジョンの事は、私も詳しくは知らないのですが…」
受付嬢の話をまとめると、
数日前に、神々からの神託で、この世界に多くのダンジョンが現れると出た。
曰く、ダンジョンの中には、お宝が眠っているとか…
曰く、ダンジョンを攻略すると、すごいスキルを手に入れることができるとか…
「いろんな事が、言われているんですね〜」
「はい。噂の方もかなり多くありまして、中には、とてもひどいものやまったく関係がないのもあるので、正確なことはまだよく分からないんです。」
「へ〜」
俺は、軽く返事をしながら、内心、冷や汗が出ていた。
良かった〜、ダンジョンから真っ先に外に出て、正解だった。
あのまま、中で過ごしていたら、いつか殺されている可能性があった事を初めて知った。
「ダンジョンについては、今は、これくらいの事しか知りません。ほとんどの人もだいたい同じでしょう。…ですが、今後、ダンジョンを攻略している人達から、ギルドに情報が来ると思います。何か新たに分かりましたら、お伝えします。」
「はい。お願いします。」
「それじゃあ、登録の方を進めましょうか。こちらの紙に必要な事を書いてください。」
俺は、渡された紙を見た。
幸い文字は、俺の元住んでいた所と同じみたいで、書くことができた。
名前、種族、魔法の有無、最低限の項目を埋めた俺は、紙を返した。
「はい。それでは、拝見します。え〜と、名前はタツヤくんね、種族人間、魔法は無しっと、ここには、書かれていませんけど、武器は、どういったものを使う予定ですか?」
「武器ですか?…たぶん、剣を使うと思います。」
「剣ですか。分かりました。…これから私は、タツヤくんのギルドカードを作ります。少し、時間が掛かるので、2階の部屋で待っていてください。部屋はこちらです。」
受付嬢はそう言って、受付から出て、2階への階段に向かった。
俺もその後ろについて行った。
部屋の前まで案内されると、
「こちらの部屋でお待ちを、出来ましたら持ってきますので」
そう言って、受付嬢は1階の方に降りて行った。
とりあえず入るか。
俺は、トビラを開けて、中に入った。
「え!」
「え?」
「まぁ!」
部屋の中には、先に他の人がいたみたいだ。
それが、俺を殺しかけたあの少女でなければ、楽だったのに…
俺は、自分の運のなさを呪った。
「なんで、変態がここに?」
ぐさっ!
まだ俺のことを変態と呼んでいるのか。
「お嬢様!それは、こちらの勘違いでは、ありませんか!きちんと、名前で呼んであげませんと失礼です。」
「名前?……知らない。」
あっ!そういえば、お互い名乗ってなかったっけ?
「え〜と、それじゃあ改めて、俺の名前はタツヤだ。ここには、冒険者になりに来た。」
「はい。タツヤさんですね。私のことは、スーとお呼びください。こちらのサラお嬢様の侍女をつとめています。
それと、タツヤさんも冒険者になられるのでしたら、今後も私達と交流があるかもしれません。そのときは、よろしくお願いいたします。」
「……」
スーさんは丁寧に自己紹介をしてくれたが、サラ?が名前だろう少女は、黙ったままだった。
「え〜と、サラ…さんで、あっているか?」
たぶん、俺と同じ歳くらい?の少女に確認しようと尋ねたが、
「違う。」
「え?」
「サラ様と呼びなさい。変態。」
ブチッ!
その時、俺の中の何かが切れた。
「変態って言うな!俺の名前は、タツヤだって、さっき言っただろ!…サラ!」
俺は決めた!絶対にこいつには、様もさんも言わない。呼び捨てで十分だ。
「なっ!」
俺が呼び捨てで呼んだことに気付いて、サラは俺のことを睨んだ。
当然、俺も睨み返した。
バチバチッ
部屋の中の空気がどんどん悪くなっていった。
ちなみに、スーさんはおろおろしているだけだった。
コンコン!
突然、ノックの音が 聞こえてきた。
それに反応したスーさんが急いでトビラを開けた。
「失礼します。」
入ってきた人は、俺の知らない人だった。
「サラ様、スー様、準備が整いました。ギルド長がお待ちです。私がギルド長室までご案内します。」
「分かりました。サラ様。」
プイッ
そして、サラはさっさと部屋から出ていき、スーさんは、俺に頭を下げてから、出ていった。
「はぁ〜」
俺はため息を吐いて、近くにあったイスに座った。
「疲れた。」
つい、言葉が出てしまうくらい、俺は疲労していた。
そして、1人になった部屋の中で、ゆっくりと休んでいた。
ん〜、暇すぎる。
待っている間、何もすることがなかったので、スマホでも弄ろうかと考え始めた時、
ブゥ〜ブゥ〜
スマホの方から、反応があった。
周囲に誰もいないのを、確認してから、画面を見ると、
DPを獲得しました。 (以降、表示しません。)
「は?」
俺はいつの間にか、DPを得ることができた。
……DPを得ることができた原因は、すぐに分かった。
俺のスキル、迷宮化の影響だろう。
たぶん、一定時間が経過して、DPを得たのだろう。
……この周辺で、誰かが死んだ可能性は、考えない。呪われたくないから。
俺はスマホを操作して、どのくらいのDPが手に入ったのか、確認した。
118DP
まぁ、少ないと思うけど、最初は、こんなものだろう。
さて、さっそくこのDPで何か買えるか……
あれ?何か買う?
俺は、強烈な違和感というか、何か重大な事を忘れてないか?
え〜と
買う→買うのに必要なもの→おかね……
「ああっ! 」
そうだ!俺いま、一円も持ってねぇ〜じゃん。
いや、ここは異世界だ。たぶん、小説なんかと同じで、金貨や銀貨じゃないのか!
はっ!そういえば、街を歩いているとき、銅貨何枚とか聞こえていたような…
とにかく、お金をどうするのか、俺は考えた。
結論、
俺の元住んでいた世界のものを売る。
ダンジョンツク〜ルのDP交換リストには、俺の元住んでいた世界の物、つまり、こっちの世界では、異世界産の物もあったので、そこから何かを売ろう。
幸い、1円=1DPくらいのほぼ同価値なので、今のDPでも、何かを買うことは、できる。
だが、問題は何を売るかだ。
物によっては、売るとヤバい物があるからなぁ〜。
う〜〜ん
俺は、悩んだ結果、中身が塩の小さな小瓶を手に入れることにした。
まぁ、元々、高い物は、交換できなかったし、条件として、こちらの世界にもある物を売らないといけないからな 。
塩自体は、あまり高く売れないだろうから、容器の小瓶を少しでも高く売ろうと考えた。
成功するかは、俺の交渉しだいだろう。
俺がこれからどうするのかが決まったところで、
コンコン!
ノックの音が聞こえた。
「はい!」
俺は、返事をしてから、トビラを開けた。
「お待たせしました。ギルドカードの作成が終わりましたので、受付のところに戻りましょう。そこで、カードのお渡しと説明をしますので。」
俺を部屋に案内してくれた女性がいて、そう言った。
「分かりました。」
俺も、言いながら部屋を出て、受付に向かった。