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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短絡的な主人公シリーズ

短絡的な少年たちの狂ったいじめ仲裁(うん、やっぱりやり方がおかしいよね。)

「短絡的な犯人」の後書きに載せた、短絡的青年の過去編です!

注)読む人を選ぶほどの狂気に満ち溢れています!

苦手な方はブラウザバック(どんな操作かわからないけど)推奨です!



その少年は、一見歪んでいるようには見えなかった。

しかしながら、その少年は短絡的であった。

短絡的な思考で周りを振り回し、なぜかうまく事態が解決してしまう。それが彼であった。

そして彼は、今日も短絡的な思考で周りを振り回すーーー。




「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!なんでここにバナナの皮が!」


バナナの皮を踏んで男は滑った。

それはもう思いっきり滑った。

男は、天と地が逆転するぐらい滑った。

周りにいた目撃者たちは、その滑稽なシーンに心を奪われていた。……呆れて放心していたとも言い換えられる。


頭を打って気絶した男に、少年がこうピシッと指を男の方に指して、叫んだ。


「もういじめるのはやめろ!さもないとこんなことが毎日起こるぞー!」


と、日中、公共の場で、正々堂々と、それはもう大きな声で、脅迫していた。


(((((おい、それ脅迫だろ!?)))))


周りの心の声が珍しくぴったりと一致した瞬間だった。




その男は、子供のころから一緒だった幼馴染が居た。

その幼馴染は、気弱で自分の意見を周りに押し通すことができなかった。

それを気の毒に思った男は、彼の心の声を代弁することにしたのだ。

このころは、子供ながらの助け合い精神で、うまくいっていたのだ。


やがて、男と幼馴染が成長して、中学、高校と進んでいくにつれて、ふたりの関係に変化が生じてきた。

幼馴染が感謝の品を贈るようになったのだ。

幼馴染は不安だった。

男が離れて行ってしまうかもしれないという不安に苛まれていた。

男が離れて行ってしまえば、僕は周りに何も言えなくなってしまう。

何か失言をしてしまって、周りから冷たい目線を向けられてしまうのではないかーーー。もしそうなったとしたら、周りからいじめられるかもしれないーーー。

内向的な幼馴染は、男がずっと一緒にいてくれるようにと心の中で願って、贈り物を贈るようになっていた。


しかし、人生とはわからないもので、その関係は最悪の変化を遂げた。

段々と、求められる贈り物の質が上がっていったのだ。

非常に当たり前のことであるが、元々人は、とても利己的なものなのだ。

男が幼馴染の声を代弁するようになったのも、周りから褒められるのでは?

そんな感情が、わずかにあったのかもしれない。

何しろ子供なのだから、そんな汚い感情の存在を認識していなかったのだ。

だから、その行為が、純粋に思いやりだったのか、褒められたかったからなのかは、誰にもわからない。

そして、人とは欲望深いものなのだ。

欲望とは際限なく膨らんでいくものなのである。

男を取り巻く状況が悪化したのもある。

もともと、優秀であることを求められてきた男は、段々と成長するにつれて、無理がある要求をされるようになり、やがてストレスを抱えて、壊れ始めた。

そのストレスのはけ口になったのが、近くにいた幼馴染である。


幼馴染はカツアゲされるようになり、やがて暴力もふるわれるようになった。

それでも、幼馴染は男が手放せなかったのだ。

そんないびつな関係でも、離されることを当事者は望まなかったのだ。

その光景を痛ましく思った善意の第三者が何人か出てきて、事態の解決に臨んだがうまくはいかなかった。

一度引き離すことができても、しばらくしたらまた元通り。

男が、幼馴染が、男の家族が変わらない限り、いびつな関係は続いていくことになるだろう。


しかし、その状況を覆す短絡的な大馬鹿が現れた。


そう、その少年は、あまりに短絡的で大馬鹿なのだ。


その少年は17歳。

普通の高校生2年生(と自分で思いこんでいる。)である。

朝起きて、歯磨きをして、顔を洗って、パンをくわえながらバナナを持って、家を出て、学校に行く。

それがその少年の日常であった。

しかし、その日はわずかに学校の様子が違った。

男が、誰かを暴行していたのである。

普段は体育館の裏で暴行していたのであるが、その朝は、家族といろいろあって、男の機嫌が急落して歯止めが利かなくなっていたのである。

それで、つい目立つ公共の場で、堂々と暴行してしまったのである。

周りの生徒は、男が普段から幼馴染をいじめているのを風の噂で知っていたが、日本人ならでの何もしなければ自分は大丈夫という思考で、そのことをなかったことにしていた。

学校のほとんどの生徒・先生が、そのことを知っていながら無視していた。


一部の生徒(笑)は、そのことを全く知らなかったが……。

まあ、一言言わせてもらうと、「類は友を集める」である。


それはともかく、一部の生徒(笑)に属する少年は、それを目撃してしまった。

そして、その正義感(笑)が目覚めた。


ああ、いじめは許せない!


NOいじめ! NO非行!


そんな心の声で、実に短絡的に動いてしまったのである。

改めて言うが、少年は短絡的な大馬鹿である。

そんな馬鹿が普通の行動をすると思うか!?


その少年は、その光景を見た瞬間、手に持ったバナナの皮を投げつけた。(バナナは食べ終わっています。食べ物は粗末にしていません。)

投げつけて、それがダメージになるとはだれも思っていなかった。少年すらも思っていなかった。なにしろ短絡的なアホであるから、手に持ったものをとっさに投げつけてしまったのである。

むしろ、周りは、行動をおこした少年を嘲笑していた。

実に嘆かれるべき心理である。

周りと同じ行動をしないものを見下す。そんな心理がある人類は、神に嫌われているのであろうか?

それはともかく、少年はバナナの皮を投げつけた。

その皮は、ドロップキックをしようと(威力の高い攻撃をしようとするあたりに男の不機嫌さがうかがえる。)、距離をとって助走をつけて今にも走りださんとしていた男の足元にするりと滑り込んだ。

そして、男はそれを思いっきり踏んで転んだのである。

それはもう、天地逆転する勢いで。

まるで漫画のように、頭と足を反転させた状態で、頭を地面に打ち付けたのである。

男にとって幸いだったのは、そこがコンクリートではなく、土の地面であったことか。

それはともかく、男は気絶した。


適当に投げつけたバナナの皮がたまたま・・・・助走をつけて走ろうとしていた男の足元に入り、そして勢いよく男を滑らせた。

これは、少年のチートじみた運の良さのおかげであろう。

その少年はいつも運がよかった。

マークシート形式テストでは、わからない問題は、鉛筆を転がすだけで全問正解し、(勉学で有名ではない理由は、自分で解こうとした問題をごとくごとく間違えているからである。実に短絡的で馬鹿である。)すごろくをやれば、いつも良いマスに止まってる。

そんな神がかった運の良さに少年はいつも気づかない。自分のことをごく普通の人間だと思っているのである。

わたくしも嫉妬で舌を噛み切ってしまいそう。


周りの人々は呆然としていた。

コメディーな光景を現実に見せつけられた常識人は、しばらく身動きが取れないであろう。常識が異常を受け入れるのを邪魔する。その思考処理に時間がかかってしまうのである。

幼馴染も普段ではあり得ない光景に、思考がフリーズしていた。復帰には時間がかかるであろう。

当事者の少年も動かなかったーーーということはなく、男を足蹴にしていた。


「何やってんだ!?」


幼馴染、緊急思考復帰ーーー多少の混乱は残るが、緊急事態のため、復帰プロセスを飛ばして思考を戻したのである。

普段は口数が少ないが、男の危機とあっては、叫ばずにはいられなかった。

少年の行動に突っ込まずにいられなかったのもあるが。

それはともかく、幼馴染は少年に、そう叫んだのである。

これに対し少年は、不思議がった。

なぜ被害者に止められるのだろうか。

そんなことを本気で考えていた。


「いや、いじめっ子は徹底的に調教しないと、いじめをいつまでたってもやめないでしょー?」


少年は、小説を読んでいた。

最近の愛読書は、スマホだった。

つまり最近愛読しているのはWEB小説である。

WEB小説では、物語はいじめから始まることが多い。

そして、大概のいじめっ子は、周りから制止されようと、いじめをやめないのである。

少年は思った。

徹底的に調教(少年はその意味をよくわかっていない。これはあくまでもRー18ではないのである。)してやれば、事態はあっさり解決するのではないだろうか。

そう思った少年は、次にいじめを見たときは、いじめっ子に徹底的に攻撃しようと思ったのである。


「いや、調教ってなに!そこまでする必要はないだろ!?」


幼馴染がそう頭を抱えながら叫ぶが、少年は足蹴にするのを止めない。

いじめの被害者なのに、無視されるこの現状なに。

幼馴染は、胃が痛くなってきた。


しばらく男を足蹴にする少年。

周りは、それを止めることが出来なかった。

常識から外れようとしている自分たちを必死に押しとめるのに精一杯なのである。

唯一止めようとした幼馴染も、少年のあまりの話の聞かなさに、何をすればいいのかわからなくなった。

そんな中状況は変わろうとしていた。

変わらない状況はない。それは世界の定理である。

気絶していた男が目を覚ましたのである。


「痛えよ!この野郎!」


男は目覚めると同時に少年に殴りかかった。

何発もパンチやキックを繰り出すが、少年はそのすべてを避けていた。

変態じみた身体機動で。


(((なんだあの動きは!?)))


周りの目撃者たちは同じことを思った。

よくわからないと。

確かに、アメリカ映画のアクションのように、相手の攻撃すべての軌道が分かっているかの様には動いている。

しかし、|なにかが致命的に間違っている(・・・・・・・・・・・・・・)。

一応、そのすべての動きはすべての攻撃を合理的にかわしているように見える。

しかし、そのすべてがグダグダである。

まるで素人がアクション映画の登場人物の真似をしようとして、失敗したかのような動きであった。

そう、少年はあろうかろうにもまた馬鹿をやらかしたのである!


少年は短絡的にも思ってしまったのである。

この攻撃を、アメリカ映画のアクション並みにカッコよく避けきろうと思ってしまったのである。

しかし、少年は一般人(笑)。

今まで戦闘技術もろくに鍛えていなかったのに(戦闘経験がなかったとはあえて書かない)、果たしてアメリカ映画並みにカッコいい動きができるだろうか?

いや、それはいくら何でも不可能である。

確かに少年は運が良い。

今までになかった動きを再現してしまうぐらいはお茶の子さいさいである。

しかし、身体上不可能なことは、さすがに体が壊れるので、運の神様もさせようとはしないだろう。

イナバウアーとか、変態機動とか、関節外しとか。

結果として、攻撃を避けきるという運は発動し、アクション映画並みの動きをしてしまうという運は発動しなかったのである。


男は泣いていい。

一見、素人の変な動きのように見えて、その実はまるでひらひらと舞う蝶のようにすべてのパンチやキックを躱されてしまうのだから。

男のプライドが崩壊寸前である。

それでも男はあきらめない。

「コイツになんとしても攻撃を当ててやる!」と変な方向に少年に執着し始めていた。


「ちょっと待った!」


その膠着状態は(少年が飽きるまで)続こうとしていた。

しかし、それは唐突にある人物によって止められることになる。

その人物は勇者であった。

まさしく勇者であった。

白銀の鎧、光り輝く剣、赤いマント、そしてそのイケメンフェイス。


(((ちょっと待った。その恰好ナニ?)))


いかにもな格好の勇者の登場に周りの人々は軽く引いた。(一応ここは現代社会の学校である。決してファンタジーなどではない。)

さらに次の勇者の発言に周りもさらにドン引きした。


「皆の者落ち着き給え。この私がここに来たからには、すべてのもめごとはこの手で治めてみよう。」


まるで、王子様のような発言に少年や一部の女子以外はもれなくドン引きである。

一応改めて言うが、ここは現代社会である。けっしてファンタジーではないのである。

当然、騎士泰然とした格好の人なんか存在しなかったし、王子のような身分の人も存在しないのである。

必然、このような格好の人が登場しても、それはコスプレか厨二病としか思われないのである。

なのに、ありえないはずの人物が登場してしまった。登場してしまったのである。

この舞台、なかなかカオスってきた。


「【勇者】様!どうしたのですか?」


場の空気が固まった。

一瞬幻聴が聞こえたかと周りは思った。

まさか、あの傍若無人な少年は、あのような勇者のようなコスプレをした人と知り合いなのか?


(((……ああ、納得。)))


よく考えたら、変人同士が知り合いなのは、当たり前だよな。

周りの人々は、そう無理やりな理論で自分を納得させて、現実逃避に走ることにしたのである。

実に賢明な判断である……と言いたいところであるが、ここで無理やり少年たちを止めてしまった方が、精神衛生上よかったのであったのである。

まあ、未来など誰にもわからなかったのであるから、仕方ないことなのではある……と言いたいところであるが、実はこの時全員が無意識にあることを思っていたのである。誰も向き合おうとはしなかったのであるが。怖くて。

(((絶対、もっとカオスる。)))と。




さらなる変人の登場に周りが呆然となっているこの状況の中、最初に言葉を発したのは勇者様であった。


「さて、少年。この状況を私に説明してくれないだろうか?」


「はい、わかりました。この状況、短くまとめて一言一句余さず説明して見せます!」


傍若無人なように見える少年にも、頭の上がらない人物はいるのである。

むしろ、勇者様だけではなく、変人連合(少年や勇者様以外にも変人は、この学校に存在する。)の全員に、少年は頭が上がらないのである。

この少年はむしろ素直なのである。

自分の気持ちに素直だからこそ、自分の怒りをこらえようとはしないのである。

だから、短絡的な行動を起こすのである。

そう、この少年は素直で、そして子供っぽいのである。

いままで、何をやってもうまくいってきたから、周りも怒れなかったのである。

当然、自分の考えが間違っているとは微塵にも思わないのである。

さて、話は変わるが、そんな少年は、素直だからこそ、なぜか変人を尊敬してしまうのである。

少年は、尊敬する人々には丁寧に対応する。

そして、尊敬する人々の言葉はよく聞く。

特に【勇者】は少年にとっては崇拝するほどの存在である。

少年は勇者にとても盲目的なほどの信頼を置いていた。


……嫌な予感しかしない。


「この男が、(幼馴染を指さして)彼をいじめていたので、もういじめを起こさないように徹底的に調教していました!」


少年が短くまとめて一言一句漏らさず、この状況を勇者様に説明すると、勇者様は何かを憂慮するかのような顔つきになった。

そのイケメンフェイスに暗い影が差すのも、また一部の女子にはカッコよく見えたが、周りには正直嫌な予感しかしなかった。

変人が考え事をしているだけで、皆の危機感知センサーがガンガンと鳴リ響いていた。

その予感に違わず、次の勇者様の発言によってさらに状況はカオスが加速する。


「ふむ、しかし少年、いじめとはいじめっ子の家庭にさらに原因があることも多いのだよ。……よし、私は提案する!この男の家族も調教しに行こう!」


嫌な予感は見事に的中した。

変人が変人と組むだけで、カオスは5倍にも10倍にもなる。その真理がよくわかった瞬間だった。

こうして、男と幼馴染は縄に引きずられながら連行され、舞台は男の実家へと移る。

そして、残された観衆は、非常識たちが立ち去ったことで、安心のため息をついたのであった。




その少年は短絡的で大馬鹿である。

しかし、上には上がいる。これは、まさに至言。


短絡的な大馬鹿の学園編。

そこには更なる大馬鹿がいたのであった。


その名は【勇者】。

本名は誰も覚えていない。

本人がごねた結果、出席でも勇者と呼ばれるようになったのである。

よって、インパクトが薄い本名など、徐々に忘れ去られて行って、勇者という通り名が定着したのであった。


その者は、いたって平凡な父親と母親の間に産まれた。

しかし、平凡だったはずの両親の子は、なぜか非凡な能力を持っていた。

恵まれたフェイス。恵まれた身体能力。そして恵まれた頭脳。

こいつ本当に人間なのかと周りが思ってしまうほどの、優秀さのオンパレードであった。

そしてなぜかその者は産まれつき「厨二病」であった。

幼児のころから自分を【勇者】と出張していた彼の「修行」は激しいものであった。

学校にきちんと通いつつ、空いた時間に、とにかく強くなるためのトレーニングメニューをこなしたり、対人戦ということで道場破りをしたり、時には町のチンピラ狩りもしたりしていた。

やがてその者は世界トップレベルの実力者ですら勝てないほどの強さを得たのであった。

そしてその者はその過程である傲慢な思想を持つようになったのである。

「自分こそ人類をきちんと導く救世主である。」と。

そして今、彼は学園に通いつつ、愚かな老害たちから、世界の主権を奪うための計画を立てているのである。


一見、この者は勇者らしくないように見える。

しかし、こんな決断をできる者が世界中に何人もいるだろうか。

彼は、勇者を元々独善的なものと考えている。

「勝てば官軍」といわれているが、勇者にもこれが当てはまるのだろう。

勝った方から認められれば、たとえ100万人殺していても、歴史書には「大きな悪を打ち滅ぼした。」と載るだけである。

人々とは無常で、利益を得られる方に飛びつくのである。

それがどんな悪でも、自分に危害が及ばないのなら、「あいつらは狂信者だった。」のようにこじつけて、自分は正しいと思い込むのである。

人々にとっては、自分たちに利益を与えるものが正義に見えてしまうのは仕方ない条理なのであろう。

彼は【勇者】と名乗っているのに、それに似つかない独善的な性格を直さないのはそのことからくるのかもしれない。


さて、そんな勇者様が出したいじめの対処法は、「いじめっ子の周囲を調教する。」である。

男よ、安心してはいけない。この言葉には、言外に「いじめっ子も調教する。」といった意味も含まれている。

勇者様はそうするべきだと、「腐ったリンゴを切り捨てるときはその周りにあったリンゴも切り捨てる」のと同じように、いじめっ子の環境も整備するべきだと考えたのである。

道徳的にはどうかと思うが、実は、今回の対処法としては、これが一番グッドな方法であったのである。

男の家族は、世でいう「隠れ外道」である。「隠れオタク」ではない。

周囲には良識的な資産家で通っているが、そのじつ毎日、呼吸するかのように詐欺を働いて、それから救うふりをして悪銭を得るわ、邪魔者を排除したりするわ、非合法な奴隷を作ったりで、そこらのテロリストなんかより害悪な存在なのである。

しかし、それを公表しようとしても、上層部と太いパイプを持っているのか、国家から圧力がかかって潰されてしまうのである。国家よ、ここに害悪が居るのに庇って後で困るのはあんたらである。

というわけで、また男も、天使のような優しさという素質を持っていたのに、こんな家族と接していくうちに、段々と悪事に傾倒するように洗脳されていったのである。

つまり男の家族こそがいじめの根源だったのである。


さて、そんな事情も知らないのに、【勇者】と少年は「男の家族を調教する。」という正答に辿り着いてしまった。

そして、今まで国家ですら必死に隠し通してきた資産家の悪しき正体が、こんな小さないじめ事件をきっかけに暴かれることになろうとは、誰も思っていなかった。

彼らは泣いていい。と言いたいところではあるが、やはり自業自得。因果応報の時が来たのであろうと思う。


改めて言うが、勇者と少年は、方向性は違えど大馬鹿である。

東京スカイツリーに上ってみようと思えば、節約のために外壁をロッククライミングのようによじ登っていってしまうぐらいには、常識のない大馬鹿なのである。(このときは少年の運ステルスが働き、誰にも見られることはなかった。もちろん登頂できた。)

そんな彼らが果たして、常識的な訪問の仕方をとるだろうか?

結果から言わせてもらうと、現在、赤い絨毯の上に数十人の簀巻きが転がっていた。


それはまさしく急襲であった。

軍隊のような速くかつ静かな急襲によって、屋敷の主人を筆頭に、その奥方、執事達、全裸の使用人達・・・・・・・など、屋敷の住人たちが漏れなく捕縛されたのである。


今、全国の男どもがガタッと突然立ち上がった音が聞こえてきたような気がする。

そうか、全裸と聞いて欲情する童貞野郎どもの叫びなんだな?

くっ、お前ら頬を紅潮させて欲情すんじゃねぇ。男の恥じらった姿なんて誰得だ。

本当に本当に残念なことではあるが、その使用人は全員10代から20代の女性である。

「やったぞぉぉぉ。」って叫ぶな、このファッキン!

文庫化されたら、このシーンをイラストにしてほしいだと?そんなふざけた願い却下だ、却下だ!

お前ら、彼女たちの背景を知っても、まだ欲情できるのか?下腹部に熱が集まってくんのか?イラスト欲しいって言えんのか?

説明してやっから、絶対萎えろ。


彼女たちは、屋敷の主人に人間扱いされていなかった。

詳しい描写はR18に突入する可能性があるため省くが、彼女たちは実にペットのようだった。

人権上ありえない扱いではあるが、無理やり奴隷にされたようなものである彼女たちには、それ以外の道は残されていなかった。

誘拐された、家族に売られた、無理やり冤罪で訴えられて刑務所から連れ出された、さらには無理やりな形で奴隷商人に売られてしまったものもいる。

平和な日本の社会では絶対感じられないはずの絶望を味わった彼女たちは、初めは抵抗こそしたものの、やがてあきらめてしまった。

生きていられるなら、ペットのような扱いだっていい。死ぬことすら許されない環境の中、そう思い至ってしまっても無理はない。

脱がされてペットのように四つばいになりながら、屋敷の主人のその全身を舐めるような差別的なまなざしで、眺められることは純粋に気持ちが悪かった。

さらには、主人や奥方や執事にはいつも言葉で傷つけられた。思い出のものを取り上げられて捨てられるなど日常茶飯事、ひどいときは暴行されて処女を失うことだってあった。


その屋敷の息子はそれを知っててなお、見ぬふりをしてきた。

外見はダンディであるが、内面は醜悪な豚のような主人の所業を、いかにも貴婦人といったいでたちをしているが、そのやることなすことが鬼畜な鬼婆である奥方のそれを、逃げるように目を閉じて、耳をふさいで、部屋に閉じこもって見ぬふりをしてきた。

人々はそれを逃げと言う。しかし、そんな支配的な誘惑に染まらなかった息子はやはり、もともとは素晴らしい天使のような優しさを持っているのだろう。

それも、徐々に堕ちていっているのではあるが。

産まれて以来、暗黒の地獄のような環境で過ごしてきたせいか、徐々に道徳のボーダーラインが下がってきていた。

それは、言葉責めから始まり、やがて暴力を振るうようになってきた。いや、そう作り換えられてしまった。

その息子は、やがて大人になることには、完全に堕ちきっていたであろう。

短絡的で、大馬鹿で、お節介な奴らが居なければ……。


人数差は、何十倍もあった。実力もそこそこはあった。

屋敷の主人や奥方は、理想的な体型を維持するためにスポーツジムに通っていたし、執事たちは一流とは言えないが、それでもそこそこの武術家ではあった。使用人の少女たちは、捨て身の攻撃を躊躇なく放てるように調教されてきたはずだった。

それでも勝利することはできなかった。

戦いの時間は約10分だけであった。それで彼らの築き上げてきたものすべてが終わった。


倒れ伏す人々を、幼馴染と男は、全く理解することができないことに遭遇したかのような虚ろな目で、眺めていた。

それが屋敷の主人には我慢がならなかった。

なぜだ、なぜこの私が見下されている。この神のごとき美貌と頭脳を持ち合わせている私が!

しかし、体はズタボロで全く言うことを聞かなかった。腕を動かそうとしようも、微動だにしなかった。

今ここにはいない彼らを憎く思おうも、体はピクリとも動かなかった。

今までに感じたこともないほどの悔しさに身を震わせていると、どこかに行っていた彼らが帰ってきた。

その腕には大量の縄が抱えられていた。それもポリエチレンで作ったような肌触りの良い縄ではなく、乾燥した野草で手編みしたかのようなざらざらとした表面の、茶色い縄。

調教用に激しい痛みを感じさせる、大量の縄を用意したことが完全に仇となった形だ。

やがて、彼らはその縄で全身を縛られ、簀巻きとなった。


赤い絨毯が広がる、大きな玄関において行われたその戦闘シーンは、実に単純なものであった。

少年は、急所を狙おうと思いながら無軌道に拳を振るい、【勇者】はその卓越した剣術を発揮した。

それだけのことであった。

少年が振るった拳は、なぜかごとくごとく相手の急所に当たり、執事たちの攻撃や、少女たちの捨て身の攻撃はわけのわからない動きでよけられた。

まさに神がかった運。この大馬鹿に勝てる奴はいるのか。

一方【勇者】はまだ理知的な戦いをしているとも……いえない。

なぜなら、剣を振るうたびに、必ず聞こえてくる声があるのだ。


光り輝く剣シャイニングソード光り輝く剣シャイニングソード!」


彼は技名を馬鹿正直に叫びながら戦っているのである。

実に大馬鹿の所業である。

攻撃の前に必ず技名を叫ぶと言うことは、自分の位置を相手に知らせるとともに、どんな技かを予想させてしまうことにもつながるのだ。

ましてや、彼の技名はまったくそのまんま。剣を光り輝かせて(光り輝くシステムは知り合いの科学者が構築した。)、ただ剣を振るうだけである。

ただし、勇者は腐っても勇者。その卓越した身体能力と剣術と頭脳は、実に理不尽。

相手の隙はいくらでも視える。ただ、勇者の身体能力からくる速さで、その隙に斬りかかればいいのである。

ほとんどの敵が一撃で意識を刈り取られ、それを何とかしのいだ者も二撃は持たなかった。死角からの攻撃にも、後ろに目がついているのかと言わんばかりのカウンターを放っていた。

【勇者】は本当に理不尽。理不尽。……一応峰打ちである。片刃剣だし。

ともかく、戦闘は【勇者】の一方的な理不尽の暴風で、終わった。


裏口から逃げようとしたが、なぜか鍵がかかっていてしかもそれを解錠しても、突然建て付けが悪くなったかのように開かなくなった扉に阻まれた執事がいた。

それは、追撃してきた【勇者】にあっさりと気絶させられたが、一番遠くで倒されたため、最後の簀巻きとなった。抵抗は決して無駄ではなかった。わーいパチパチと拍手。

執事を引きずりながらの帰り道。【勇者】と少年は気が抜けるような会話をしていた。後ろから、食い込む縄が地味に痛いのか唸り声をあげる悪徳執事は無視されている。少年は本当にその唸り声には気づいていない。突かれたら痛いところを本当の意味で無視できるのも運チートである。じつにうらやましいものである。


「これから、彼らを善人になるまで調教するんだよねー?」


「ああ、これが彼らにとって一番幸せとなれる一番の道なのだ。苦しいであろうが私たちがやらねばならないことなのだ。」


無邪気で盲目的な少年に、【勇者】は息苦しそうにそんなことをつぶやく。

この【勇者】は本気で彼らにとってそれが一番良い方法だとを考えているのである。人類を導くならば、このぐらいのことは出来ねばならないと本気で思っているのである。そして同時に、このような方法を取らざるを得ない自分に苦悩しているのである。

実に大馬鹿である。

しかし、それはまさしく、大きな目標に苦悩する英雄のような姿でもあった。たぶんこの姿を見ればどんな女性でもあっさりと堕ちてしまうであろう。その実態は真の英雄とは程遠いものではあったが。


彼らは、廊下を歩きながら調教のプランについて話し合っていた。【勇者】の卓越した頭脳から導き出されたそのプランは実にえぐいものであった。その方法をとられればどんな悪人でも改心してしまうほどには。

引きずられながら、それを耳にしてしまった執事は顔面を蒼白にさせているが、これは実は【勇者】の調教の一部でもあった。


しかし、状況とは常に千変万化するものである。

古きは、新しきに押し流され、全く同じ状況は二度と訪れない。


このまま調教エンドというハッピーエンド(笑)を迎えようとしていたが、激高している者はそれを許さなかったのである。

彼らの終わりなき悪意は、すでに他者の怒りを買ってしまっていたのである。


耳がつんざくような悲鳴が聞こえてきた。

一つ……二つ……三つ……まだまだ続く悲鳴。何十ものの耳障りな悲鳴がいくらでも聞こえてきた。

それと同時に、何かを貫くかのような何百ものの音が聞こえてきた。

そのつんざく悲鳴を聞いた【勇者】と少年は走り出す。

縄に引きずられる勢いが増して、激痛を感じた執事も小さな悲鳴を上げたが、それは都合よく無視された。




玄関に到着した彼らは見た。

首を掻き切られた執事だった亡骸が描く、血しぶきが壁にまで飛び散っている地獄のような玄関。

幸い、全裸の使用人たちに被害は出ていないようである。

そして、男とその幼馴染は、この景色に耐えられなかったのか、気絶していた。

そして、さっきまでは閉じられていた、表口である大きな扉が開いていた。

その向こう側に茂る森がさらられている中、そこに土の地面に突き刺さる二つの異物があった。

それと似たようなものは、美術館の広告などでたまに見かける程度ではあるが、一旦目に入れば、永遠に忘れられないほどのインパクトを有する。

その絵とは、処刑されたキリストを描いたものである。

その処刑方法は「磔刑・・」である。

そして今、まさにそれと同じような……いやそれよりも非道で残虐な処刑が行われていた。


屋敷の主人と奥方。すべての元凶であるこの二人が、全身を十字架に据え付けられたいくつかの鋭い突起に貫かれながら、磔にされていた。

全身を針に貫かれるアイアンメイデンと、見世物にされジワリと圧迫感を感じながらゆっくりと殺されていく磔刑、それらを併せたかのような残虐な処刑が目の前で展開されていた。


幸い、まだ彼らは息があった。

いや、それはきっと不幸なことであったのだ。

なぜなら、その一撃だけでは終わらせてくれなかったのだから。


「痛いッ!待て、待ってくれ!グァッ!痛いッ!痛いッ!グアァァァァァァァァァ!」


「……ち、ちょっと、もうそれは勘弁してぇえぇえぇぇ!痛いッ痛いイイイイイイイッ!」


彼らはもうすでに狂気的な激痛を感じている。その証に目を閉じたり、息を震わせたり、悲鳴を上げたりして。所在なさげにも痛みをこらえようとしている。

そんな彼らをさらになぶるかのように、ナイフをグリグリと傷口に擦り付けている仮面の人が居た。時折、ナイフを無造作に突き刺してもいる。

その男か女かわからない、中性的ないでたちをしているその黒髪の仮面は、彼らをなぶりながらも、しきりにこちらを気にしていた。

いや、正確には仮面とこちらの中間のところにある、大きな扉の間に置かれたカメラだろうか。

カメラをしきりに気にしながら、向こうの人にアピールするかのように、大きなリアクションで、彼らに悲鳴を上げさせ続けていた。

その光景は、まさに死神の裁きのようであった。


それをみた彼らはすぐに駆け寄ろうとした。状況にはついていけなかったものの、何が起きているかは把握したかったのであろう。無意識に体が動いてしまっていた。

しかし、その歩みは玄関のところで強制的に止められた。身がすくむほどの殺気が襲い掛かってきたのである。

それは、人を殺したことのない人間には、決して放てない殺気であった。

そして、足を止めた彼らに、その仮面は話しかけてきた。


『外部の人間が来たため、いったん処刑は中断します。』


まるでボイスレコーダーから聞こえてくるかのような無機質な声は、間違いなくカメラの向こうの人物に向けられていた。

すると、カメラに付属されたスピーカーからも声が聞こえてきた。


『どうする?私としてはどちら・・・でもいいのよ?彼らはターゲットではないし。』


まるで何かの選択を迫るかのように死神に問いかける声。

しかし、何かが具体的に語られなくとも、それが何の選択肢かは、彼らにはわかってしまった。

見逃すのか、それとも口封じするのか。そのどちらかを声は選択を迫っているのだと。

そして死神は選んだ。


『見逃すつもりです。』


苦難が降りかかる可能性のある道を選んだ。それは誇り。人殺しと化しても決して捨てなかった誇り。

ターゲット以外は決して殺さない。

それが今まで死神が守ってきた誇りである。

そして、隠してはいるがもう一つ、ある理由・・・・もあった。


『わかったわ。彼らは、もう放置しておいても、死ぬほど苦しむでしょうから、あなたが話し合いをしている間、私は彼らの苦しむ様子を眺めているわね。』


『わかりました。』


そして、仮面は真の意味でこっちに目線を向けた。


『さてお前ら、ここから早く立ち去らないと、首が血を吹くことになるぞ。』


死神は、警告を放った。同時に殺気も放った。

死神は、その誇りによって彼らを殺すことはできない。

だが、いくらでも手段はある。気絶させるなり、拘束するなり、死神にはどうにでもできる自信があった。

たとえ、彼らが、自分と同じく普通の人類を超越した存在であると知っていようと・・・・・・・死神は自信があった。

急展開過ぎて、まだ状況をよくわかっていない少年なら気絶させられる。

【勇者】と戦うことになろうと、拘束させられる自信はあった。

だが、戦わないのが得策である。逃げた彼らが警察に連絡しようと、警察が来るには5分はかかる。

その間に任務は完遂しているだろうという読みである。


だが、【勇者】の返答は、死神にとっては予想外であった。


「いや、そんな演技をしなくとも、お前の正体はわかっているぞ。相変わらず貧乳なのだな。」


【勇者】はそのたぐいまれなる頭脳で、死神の正体を見破っていたのだ。

たとえ、仮面で顔は隠されていても、体型、輪郭、髪質、手の形、動作、科学捜査でも使われるそれらの要素から見破ることはできるのだ。

まあ、死神が勇者の知り合いであったというだけのことでもあるが。

変人の周りには変人が集まるという一例でもある。類は友を呼ぶとも言う。

それはともかく、正体とコンプレックスという両方の地雷をぶち抜かれた死神は激怒していた。

仮面で隠されていてわからないが、顔は真っ赤になっていることであろう。


『もう、お前ッ相変わらず、憎ったらしいぐらいの頭脳だな!そして、貧乳で悪かったな!いいさ、貧乳の方が動きやすいんだから、暗殺者としてはむしろ勝ち組だよッ!』


正体がばれたと見るや、演技をかなぐり捨てて、声を偽造しているのには変わりはないが、普段の口調で【勇者】をなじる死神、それでいいのか。


「いや、いつも巨乳を憎しみを込めた視線で見ているような気がするのだが。」


さらに剣をぶっ刺すぐらいの勢いで、コンプレックスを傷つけまくる【勇者】。知り合い相手に容赦なさすぎ。

なんとなく【勇者】の口調もいつもの気取ったものから、身内・・向けの口調に変わっていた。

そして、少年はまったくその会話についていけてない。

え?勇者様の知り合いなの?ということぐらいしかわかっていなかった。

哀れな死神は、わたわたと怒りを発露するかのように暴れていた。


『ばれていたッ!もう恥ずかしくって死にそうになりたくなる気分だよ!くっ、見抜かれたのはやはりこの体型のせいかっ!』


「そんな特徴的な貧乳、私の知り合いではお前ぐらいしかいないのだ。」


『わかっていたこととは言えど、これはひどいッ!』


死神が、目を抑えて泣きじゃくるふりをし始めた。

まあ、【勇者】と死神(推定)の間ではこんな会話が日常的である。

さて、それはさておき、実はこの会話の間に、死神の攻撃はすでに始まっていた。


ゴン!と乾いた音が鳴り響いた。

それと同時に突然前に倒れる少年。

彼は戦闘に入る前に、死神の一撃によってあっという間に気絶させられたのである。

それは誰にも見えなかった不意打ちの一撃。

それをなしたのは、極限に細いワイヤーと、透明な鈍器。

と言っても、完全な透明ではなく、よく目を凝らしてみれば、周囲の空間がわずかに歪んでいることがわかるのではあるが、視力が高くないとそのわずかな歪みでも見えることはない。

ともかく、少年は死神が暴れるジェスチャーをした時に放ったそれに気絶させられたのである。


死神が死神である所以。

それは、死神の奇襲は必ず成功するということ。

相手を初見で確殺する必殺技であること。

死神は今まで一度も奇襲で失敗したことはない。

今回は依頼人の意向で、苦しめてからの殺害であったが、本来なら死神の姿を見る前に終わってしまうのである。


奇襲のスペシャリストである死神(仮称)は知っていた。

それは、少年は見えない攻撃には決して対処できないという弱点があることである。

だから死神は、少年を確実に気絶させられる自信があった。

【勇者】が正体を看破してくることなど予想済み。【勇者】のたぐいまれなる頭脳のことは知っていた。

そのあとの会話も予想済み。これは悔しいことではあるが、出会うたびに貧乳をからかわれている。

貧乳は正義なのだ!

巨乳なぞ弱者の証ッ!……いや、知り合いにはとんでもない方向で別の強さをもつ巨乳もいるけど。それは間違いなく例外なのだッ!絶対に巨乳は、貧乳より弱いのは間違いないんだッ!

話はそれたが、死神はこの会話の流れを予想していたのである。

それどころが、逆にその流れを利用して、自然に疑われることなく、悔しみながら暴れるジェスチャーを演じてみせたのである。

すべては、ただ一つの奇襲のために。


暗殺者として必要な力は、決して強さではない。

ただ一つの奇襲で必ず仕留める力、そして完璧に逃走しきる力である。

暗殺者は仕留め損ねてはいけない。

決して捕まってはならない。

それを遂行するには、戦いという手段は実に不適当。

戦闘狂は、いくら強くても、決して本当の意味での暗殺者にはなれない。


そういうことで、少年は気絶させられた。

しかし、死神の目論見が成功したかというと、またそれも違うわけで。


不可視のインビジブル居合イアイ


『予想していたとは言えど、特注のワイヤーを斬られるとはッ!』


【勇者】は少年が奇襲・・・・・を受けてから・・・・・・、きちんと対応してきた。

鈍器を引っ込めようとした一瞬で、【勇者】は超高速の居合でワイヤーをしっかりと斬ってきた。厨二病じみた技名も同時に叫んでいたようであるが。

少年とは、剣が届かない距離まで離れていたというのに、運動エネルギーが伝わりきって、わずかな弾性で逆方向に引っ張られ始めるまでの一瞬で斬られた。

あと一瞬あれば、透明な鈍器は勇者の頭部に届いていたというのに、この【勇者】の理不尽さ。(死神も大概であるが。)

死神は、やはり身体能力では【勇者】にわずかに及ばないと確信した。


だが、もうすでに戦いは終わっている。


「おい貧乳、少年が気絶した時点で殺気も解いていたのであるのに、なぜ攻撃してきたのだろうか?」


と【勇者】は、さっきまでのにらみ合いがなかったかのような口調で死神に話しかけた。

すると、返ってきたのは、苦無であった。

軍人にも簡単に対処できないような軌道であったが、【勇者】はそれをいとも簡単に弾いた。


「なにをするのだろうか、貧乳。」


『うっさいッ!貧乳、貧乳連発したバチが当たったんじゃないのッ!?』


「さて、そんなことはないと思うが、貧乳。」


『むうーーー、この馬鹿勇者!絶対わざとでしょッ!』


「まあ、私の慈善活動を邪魔された報復も、このぐらいにしようか。」


『ふんだ!どうせロクな慈善活動ではないんでしょッ!」


「私はいじめの根源である彼らを調教して、きちんとした家庭に戻してやろうとしたのだぞ。それを邪魔しおって。」


『予想どうり全くロクでもなかったよ!?』


こういう言い合いが彼らの日常であった。

内容から目をそむければ、気が合った男女の言い合いである。

純粋に言わせてもらおう。爆発しろこの馬鹿勇者。


こうした罵り合いをすること数分。


『まあ、もう邪魔をする気はないんだよね?』


少年が気絶している傍で罵り合っていた彼らの会話も本題に入ってきた。


「ああ、もうその気はない。」


【勇者】は、あっさりとそう答えた。


『ふーん。でもなぜかな?邪魔をしない理由を聞かないかぎり、あたしの警戒も解けないんだけど。』


死神は殺気こそは放っていないものの、警戒を解いていないようで、そう疑問をぶつけてきた。


お前ならわか・・・・・・るのではないか・・・・・・・?」


『まあね……。それぐらいは想像できるよッ。なら、この想像で・・・・・いいんだよね・・・・・・。』


「ああ、それから、本来の口調を依頼人に聞かれても大丈夫だったのか?」


『まあ、たとえ私の正体に辿りつかれても大丈夫でしょ。私達に絶対に手は・・・・・出せないから・・・・・・。』


死神はそう言うと、獣じみた邪悪な笑みを浮かべた。




少年が気絶している間に事態はすべて収まっていた。

存分に痛めつけて依頼人が満足した後、屋敷の主人とその奥方は喉を切り裂かれて殺された。

男は、ターゲットではなかったため、手を出されることはなかった。

そして、死神はそのまま機材などを持ち去っていった。


起き上がった男は、状況を理解すると、憑き物が取れたかのようなそれでいて微妙そうな顔で「命を奪うことまではないじゃないですか……。」とつぶやいた。

それに対して、【勇者】は、「まあ、報いを受ける時がきたんだろうな。」と微妙そうな顔で返答した。

二人の結論は、天災だったということになった。

天災だったからしょうがなかった。

理不尽を与えれば、いつか報いとなって返ってくる。

そういうことに収まった。


【勇者】は男と打ち合わせて、強盗団が入ってきたということにした。


そして、男を縛り付けて、幼馴染と少年を抱えて、裏の森の枝から枝へと飛び移りながら屋敷を脱出した。

幸い、監視カメラは地上に注目していて、枝を飛び移る人などは写りもしなかった。


幼馴染を公園のブランコに放置したころにはとっくに夕方になっていた。

子供たちも帰っていったようで、狭い公園には人影はなかった。

そこから、少年をお姫さま抱っこしながら帰路につく【勇者】であったが、その途中少年の目が覚めた。


「う~ん。あれ、勇者様、ここはどこでしょうか?」


少年は目をこすりながらそう質問した。


「私たちは今は、帰途についているのだ。まったく大変だったんだぞ。一緒に登校していたら、少年がいきなり眠ってしまって、私は起きるまでそれに付き合ったんだ。まったく大変だったんだぞ。寝る場所とか毛布とかを用意させられた私の身にもなってくれ。おかげで学校をさぼることになってしまった。」


【勇者】はそう嘘をついた。


「でも、さっきまで殺し合いをしていたではないですか。あれは夢だったのでしょうか?」


少年は、さすがにあのことは覚えていたようである。というかこんな嘘で、夢だと騙されるアホはいるのか。


「ああ、ひどい夢を見たようだな。よほど疲れがたまっていたのか。」


「そうなんですか。勇者様のいうことだから間違いはないですよねっ!」


マジで信じてしまうアホがここにいた。

間違いない。少年は前代未聞なぐらいのアホである。


まあ、今回は勇者様のことを盲信してしまっているのも原因でもあるが。

それにしたって、夢オチとそんな簡単に信じてしまうのは……。


「それに、もしも実際にあんなことをしていたとしたら、私たちは犯罪者になってしまうのだがな。」


「え、本当ですか?だったらばれないようにしないとですよねっ!」


いやいや、なんで夢の内容を知っているのかとか、そういう疑問は出てこないんですか?

改めて言うが、少年は本当に本当に短絡的で大馬鹿である。

それは世界の真理!

間違いなし!


「夢だったからよかったではないか。では帰るぞ。」


「はい!勇者様。」


こうして彼らのおかしな一日は終わり、再びおかしな日々が始まるだろう。

全部が全部おかしいのであるが。


その後、屋敷には警察の手が入ったが、なぜか惨殺事件はどこの新聞にもテレビにも果てはネットニュースにも報道されなかった。




その深夜、ある場所にて。


「まーったく、これじゃ手が出せないわね。」


赤いメイド服を着た中年の貴婦人がコンピューターの前で頭を抱えていた。

彼女は今回の暗殺の依頼人で、日本では非合法とされている奴隷を扱っている商人でもある。

権力によって無理やり連れていかれるような形で売った娘がまともな扱いをされていないと判明し、契約違反(非合法とは言えど、奴隷にはきちんとした最低限の人権を保障している。特に彼女の商店の場合は厳しく取り締まっている。)のためケジメを付けたのである。

ひどい扱いをされていた娘たちを回収するなど、後片付けを済ませて、念のために、暗殺を依頼した者の弱みを握るために、あの時顔を出していた彼女の知り合いである【勇者】と少年の身元を探っていたのであるが、手を出せないという結論になってしまった。


「ま、いいや、あの身体能力だったら絶対に捕まらないし、口も堅いと聞いているから大丈夫でしょ。」


彼女はそうつぶやいて、食事のために部屋をでた。しかしコンピューターを消すのを忘れているとは、抜けているのか、それともそれほどのショックを受けていたのか。




消すのを忘れていたコンピューターの画面の一部にはこう書かれていた。


【天災たち】と……




早く完結させようと、最後の方が駆け足になってしまいました。

一応きちんとプロットは考えてあったんですが、いろいろ変更があったので(【勇者】と死神の戦闘シーンを簡潔に終わらせたなど)辻褄は必死に合わせたのですが、どうしても違和感が残ると思います。

あとで修正するかもしれません。

一番違和感を感じるのがインビジブル イアイ!のところかなーと。

でも、合っているんですよね。

英語でも居合はイアイって読むらしいです。

驚きました。


投稿から約一時間後)最初と最後のシーンの少年の口調が不自然でしたので修正しました。


いろいろごめんなさい!

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