1. 目覚めた無能
中央城塞都市ヴェルブルグと小規模商業都市ナルディアの間には休息の町ラクンドシャがある。
他国から最も近いせいか、ヴェルブルグへの足がかりとして多種多様の人種や服飾を見ることができ、多くの人々で賑わうため町全体が活気付いている。
遠出の際に使用する最もポピュラーな物として、木を中心とした素材で組み上げた大きな箱を四つの車輪で固定し、大型鳥類カヴァロに繋いで運ばせる『ベンハー』なども数多くの形や装飾が見受けられる。
ちなみにカヴァロとは大陸全土に生息する民間に馴染み深い飛べない鳥である。胴体は幅広く首はぬっと長い、大きな顔に縦に広いクチバシと長い鶏冠があり。走る時は長い鉤爪で大地を蹴り先端の突起物が目立つ長い尾を左右に振りバランスをとるのだ。そして最も特徴的なのは全体に露出した骨で、足や羽根はもちろん顔なんかはその殆んどが骨で出来ている。草食で人懐っこく草原や樹海に行けば数多く発見できるため、その足の速さ同様人々に早く浸透したのだ。
付け加える事として、多くの人々で賑わうこの町は、セフィリルの中で比較的冒険者に優しい場所だ。ただ優しいと言っても詐欺じみた金額を要求されたり、そもそも利用できないという事ではないというだけでまだまだ冒険者に厳しい面もある。
それでも人の波が絶えないのは、ケフェウス荒野から採れる鉱石や魔水が他より簡単に安く購入できるからだ。
それに特産物で作られる魔術道具なんかも魅力的で、特に『ホルクアティ』の名が彫り込まれた一品は他とは比べ物にならないほど良質で、高値で売買されるものの求める声は後を絶たない。
そんな腕の良い魔導技術者がここラクンドシャに腰を下ろしていると聞いては、旅先として話題に事欠かない。
こうして人の流れが止まらないラクンドシャの一角に構える冒険者の宿『カメリアの休日』は今日も快調だ。
その一室で、少女がベッドの上で大きく腕を持ち上げ大きな欠伸を一つした。
肩で切り揃えられた赤髪は艶やかで光の輪を作り出している。活気そうな瞳は透き通るような金色で、その顔は可愛いというより綺麗といった感じだ。おそらく道を歩けばすべての人が振り返るだろう容姿は、今元気な笑顔でいっぱいだ。
布団を取り払うと慎重に足を動かし、床につける。するとひんやりとした感触が伝わり思わず声を上げた。だが表情は玩具を与えられた子供のようで、嫌な表情一つしていない。
次はそっと床に足を運び、じんわりと広がる冷たさを堪能するように立ち上がる。だが立ち上がることが久しぶりなのか、少しふらついたが自らの力で踏み止まった。やり遂げた表情を見せるとベッド上に取り付けられている窓へ顔をやった。
そこには小鳥達が羽を休めている様子が見え少女は軽く手を振った。するとそれに反応するように羽を数度はためかせるので少女はたまらず笑みを浮かべた。
ベッド横に立つタンスの上には小さなグローブトロッターが置いてある。開いてみると中には一つのタオルがあるのみ、手に取ると温かく少し湿っている。それで顔を拭くと眠気が覚めて気分が高揚してくる。終わると中に戻しトロッターを閉めた。
笑みを絶やさないまま部屋の中央に置いてあるテーブルへと向かう。その上には細工が凝った四角柱の箱が乗っていた。それを開けると、中には折り畳まれた布製品と綺麗な革靴が区切られてしまわれており、さらにそれらは人肌に温められていた。発達した魔術道具のなせる業である。
取り出し袖を通してみると、クリンゲル製羅紗の袖の長い白のワンピースで金糸の刺繍が散りばめられている。もう一つは、ギャラック大陸のヤヌイヌ地方の雪山に生息するカリシアと呼ぶヤギのような生物から取れる希少な毛で作られたマント。革靴はシンプルだが緻密な繊維で出来た硬い組織で、均一の光沢を放っている。靴下の上から履いてみるとまるで自分の為だけに作られたようなピッタリ感だ。
箱の奥を覗いてみると、見たこともない美しい宝石が鎮座していた。取って見てみると、エメラルドが光を受け中で何重にも反射しサファイアにも見える。ファイアが強く傷一つないそれは持つ手がほんのりと温かく、透かして見てみると反射しているにも関わらず荒れ狂う風の嵐が覗く。
そんな不思議な宝石は繊細で複雑な金細工に覆われ、チェーンでくくられペンダントになっていた。躊躇なく首にかけると、胸元で輝き少女を引き立たせる魅力の一つへと変貌した。
部屋の片隅にある本来宿には置いていない姿見で一回りして確認してみる。するとワンピースがふわりと膨らんで生足が覗き、マントが音を立てて舞う。新品の革靴が心地良い音を立てエメラルドの首飾りが輝いた。
元からあった輝きが装いにより更に輝きを増し、貴族のような育ちの良い娘に見える。少女が冒険者などとは、誰も信じないだろう。
そこに部屋唯一の扉が数度ノックされた。
「カノン、そろそろいいかな?」
扉越しの声にカノンの顔がこれ以上ないくらいの笑顔に変わる。その声は、目が覚めてから今日までの数日聞かなかった時の方が少ないくらい馴染みの声だ。
駆け足で扉へ向かうと、勢いよく開け放った。
「おはようユウト!」
屈託ない笑顔を向けられたのは、鼻の上に乗った装飾品が煌めく顔が非常に整った背の高い青年だ。
ユウトと呼ばれた青年は戸惑いながら後頭部を掻くと、カノンに負けないくらいの笑顔を返す。
「おう、おはよう」
返事を聞くと、顔が火照り鼓動が少しだけ早くなる。
なにかに気付いたのか、ユウトはポケットに手を突っ込み一つの装身具を取り出した。
「これは君の物だ。大事な物だから絶対に失くさないようにね。もう首飾りはしてるし、手首に巻き付けとけば良いんじゃないかな」
そう言って見せてきたのは、長円形の金属板をチェーンで繋げた物で到底少女が持つような代物ではない。
それでもユウトが首飾りの用途で服の下から似たような物を取り出すと、文句一つ言わず手首に巻いた。その様子を見てユウトは一つ咳払いをした。
「それじゃあ改めて……カノン、復帰おめでとう」
祝いの言葉を聞いて歓喜余ったのか、カノンはユウトの腕にしがみついた。そのまましがみついた方の手で一回り大きくゴツゴツした手を握る。
これに驚いたユウトがなにか抗議しているが聞こえない様子で「えへへ」とだけ漏らした。それに溜息を吐いたユウトは文句を言うのをやめ、代わりに繫がれた手を強く握り返す。
「じゃあ行くか」
「はい!」
元気な返事と共に二人は腕を組み手を握りしめたまま歩き出す。初めてのことだというのにカノンの歩調がまったく崩れないのは、カノンの動きに合わせて小さく動作を変えていくユウトのおかげだろうか。そのまま二人で廊下を越え一つ目の階段を降りきった所で、ユウトには見知った女性が道を遮った。
女性はユウトより一回り小さく幼ささえ感じるが、タンクトップを持ち上げる自己主張の激しい二つの山が外見通りの歳ではないのを思わせる。露出度の高い服は肉付きの良い四肢が丸見えで男達の目を掴んで離さないだろう。それでも目立つのは、ふわふわの髪をかき分け側頭から生えるアモン角だ。
こういった動物の一部を受け継ぐ者達を『獣人族』と呼ぶ。彼らは神がヒトの次に作り出した種族で、変わった耳や角に尻尾といったヒトには見られない物を生まれ持っている。そしてその動物の特徴を少しばかり受け継ぐためヒトより遥かに高い運動能力を有しているのだ。
そんな彼女はカノン達が来るのを待っていたようで、こちらに顔を向けて、にっと笑う。人懐こい印象の笑顔にカノンの眉間が寄り、繋ぐ手に力が入る。カノンをそうさせたのは、彼女にない二つの山と心を許す人に対して行う笑顔。なにより先程までユウトとお揃いだと思っていた金属板を獣人族の女も首から下げていたからだ。こちらは紫色だ。
彼女の前まで来るとあろう事か、彼女は腕を腰に持って行き前屈みになったのだ。
「ユウトちっすちっす。おっ、カノンちゃん起きたんだ」
言ってジロジロと値踏みするように頭から足の先まで見てくる。視線から居心地の悪さを感じたが、目の前には信じられない信じたくない光景が広がっているだろうと思うと目を頑なに瞑り、逞しい腕に更にしがみ付いた。
「……リュリュシータ、初対面の人をジロジロ見る癖どうにかならんのか。お前のせいでこっちは腕が折れそうだ」
「あっ、あー……ごめんねカノンちゃん。別に悪気があったわけじゃ」
ユウトの声にリュリュシータが申し訳なさそうに謝罪するが、カノンは一向にリュリュシータを見ようとはしない。その態度に気を触ったのはユウトの方だった。
「ほらカノン、リュリュシータが謝っているんだから君もずっと目を閉じてないで、しっかり相手を見てあげないと……ていうかマジで腕折れそうなんで迅速に早急に本気で目を開けて腕離してくださいお願いします。すでに俺の脳内メモリーではカノンに肋骨を折られた光景がフラッシュバックして精神的にも折れそうです」
言葉は早口であったが特に後半が一言一言に重みがあり、心の底から望んでいることが分かる。そこまで言われればさすがのカノンも目を閉じ続けることはできない。
だが、腕を離す気はなかった。
それは嫌がらせだとか、このまま腕の一本くらい折ってみようかなどと考えての行動ではない。目を開ければ恐らくあるであろう悪夢への対策だ。
一つ頷くと意を決したようにゆっくりと瞼を開いた。
「……………………………………………」
そこには二つの山があった。谷があった。しかも肌は美しく荒れなど一つもない。
たしかにカノンにも胸はある。だがそれは谷ができるような大層なものでもないし指が沈むなんて以ての外だ。自分の貧相なものとは明らかに質も量も違う立派なものが目の前に現れ、カノンは頭の警報を高らかに鳴らした。
警報は自分とリュリュシータの胸の優劣についてではない。今横に立つユウトが胸の大きなリュリュシータに取られるのではないか、というものだ。
大きく目と口を開け驚愕して固まっているカノンを見たリュリュシータは、カノンが考えていた事に気付いたのか口元を緩ませ両肩に手を置く。
「大丈夫! ユウトはおっぱいが大きい人よりカノンちゃんくらいの小さなミニマムサイズか好きだから。需要はあるよ、お姉さんが保障しよう!」
それでも信じられないようで、カノンはユウトを見上げた。
「ばっ、バカか! というかなんで人の性癖知ってんだよ!」
「おやあ? もすかすてもすかすてユウトきゅんは本当に貧乳好きですかあ? チッパイ大好き人間なんですかあ?」
「ちっ!」
顔を赤らめ大きく舌打ちをして居心地悪そうにする。そんなユウトをカノンは輝いた目で仰ぎ見ていた。
そんな二人をニヤニヤと見ていたリュリュシータだったが、ふとレッグポーチから何か取り出すとカノンに放る。放物線を描き接近する物体に気づいたカノンは絡ませた腕を離してそれを見事受け止めた。
「……これは、なんですか?」
手に収まったそれは手のひらサイズの金で出来たリングだ。光の加減で虹色に輝き通常の物とは違うと強く確信できる。
「つい最近、禁忌思想が11層まで突破できたんだけど、そこの階層守護者が守ってた宝の一つ。ティムさんに聞いてみたら虚構幻惑っていう魔導具らしいよ」
「禁忌思想って……お前そんなとこに行ってきたのか! それに前は9層って言ってたじゃないか」
「うん。だけどちょっと前に11層までクリアできたんだ。で、その時に私も参加してたから宝の一つを貰ったってわけ」
「……で、その宝ってのがこれか」
二人の視線がカノンの手に乗るリングへと向けられる。たしかに、リングの側面には古代語で虚構幻惑と彫られているのが確認できた。
ただその価値がわからないカノンだけが一人首を傾げていた。
『禁忌思想』はスパーク諸島に存在する古代迷宮の一つだ。
英雄時代より以前の太古の昔、大魔導士パンネーラ・アズモダス・エイジングケアと技術者マンロック・サーティファイ等によって作られた前代未踏の巨大迷宮で最深部まで潜った者は未だかつて一人としていない。
迷宮とは主に地下へ階層毎に区切られながら伸びる洞窟のことを指す。迷宮には不浄のマナが溜まりやすい傾向にあり、そのせいで『魔物』と呼ばれる人類の天敵が発生あるいは生息するようになる。そして階層の最深部には必ずといっていいほど『階層守護者』と呼ばれる強大なチカラを持つ魔物が行く手を遮るのだ。
そんな危険が潜む迷宮に人々が挑み続けるのは、未開の地を自らの手で切り拓く探求心とそこで手に入る素材の豊かさからだ。素材は魔物を倒した際まれに手に入る物でその殆んどが高値で売買される。危険はあれど、危険を冒した分の報酬は付いてくるので下手に農民生活を送り領主に税を納め続ける毎日を送るより、と数多くの人が迷宮探索へとかって出るのだ。
迷宮は自然的か人為的かで名前は変わるものの、殆んどが一貫して『迷宮』とだけ呼ばれる。自然発生物としてはナザリアのオレゴヴィナ迷宮が有名だ。そして人為的迷宮として今現在有名なのが先の禁忌思想だ。
人為的迷宮の厄介なこととしては作った者が人間なだけに姑息な罠や、より迷いやすく作られた通路に嫌味のように長い階段など数え上げたらキリがないほど、入るなと言わんばかりの心身的に疲れる場所だ。もとより迷宮の限られた空間の中で歩き回るという精神的にも疲れやすい空間で罠の確認をしながら慎重に進まなければならないのだから、姑息な嫌がらせを加えてくる人為的迷宮など人気がないものだが、禁忌思想だけは違う。それは特別階層と呼ばれる物の所為だ。
特別階層は岩肌が露出するだけの他階層と違い、草花が広がるのどかな草原であったり透き通る水がせせらぐ湖だったりと、地下とは思えない空間が広がるのだ。そしてそこから採れる素材は良質で、しかも危険も少ないため場合によっては拠点として活用されていたりもする。だがその分、通常の階層は危険に満ち溢れ死者も後を絶たない。
そして危険に満ち溢れながらも人々の探求心と金銭欲を満たしてくれる禁忌思想がリュリュシータ含む50名ものパーティで、やっとのこと11層を突破したのだ。しかも誰も踏み入れたことがない階層の階層守護者が守っていた宝となれば、その価値は計り知れない。
しかし記憶がないカノンにはそんなこと梅雨知れずといった感じで、手に余るリングを片手で遊んでいる。
「まあ禁忌思想なら魔導具で間違いないんだろうけど……で、どんな能力なんだ?」
「さあ?」
「さあ……って」
無責任な声にユウトは怪訝な顔をした。
それも当然であろう。魔導具は魔術道具と違い古代や英雄時代からの由緒ある贈り物なのだ。場合によってはこれ一つで国を滅せる物から街全体を潤す事もできるのだから、重要度としては計り知れず発見された物の殆んどが国へ献上され厳重に保管される代物なのだ。
だがユウトが仕方ないと肩を落としたのもまた当然のことだ。魔導具は誰にでも扱える魔術道具と違い、適性というものがある。たとえ強力な魔導具でも使用者が見つからなければ飾り物にしかならない。だからこそ国で管理し、毎年使用できる者がいないか国単位で調べているのだ。そして魔導具を持つことを許された者も国で管理される。
これには英雄時代に起こり世界終焉が危ぶまれた『ヘイリキカイト姫の魔導事件』が背景にある。その事件以降、魔導具の扱いには慎重になりつつある。そのおかげで第五第六の英雄が魔法を簡略化しそれを誰にでも使用できるようにした魔術道具が生まれたのだから、皮肉といえばそうである。
難しい会話は嫌いなのかリングで遊んでいたカノンは目敏くそれを発見した。
「ユウト……その指輪。なに?」
「ん? ああ、これか」
そう言ってユウトが見せたのは左薬指にはめられた金色に輝く指輪だ。世間一般的に心臓からより近い左手の薬指に指輪をはめるのは結婚済みの意を示し、そこに指輪をはめるユウトはつまりそういうことで、すでに。
次第に怒りを露わにするカノンに気付かないユウトへ溜息ひとつすると、リュリュシータが遮ってカノンを諭す。
「カノンちゃんカノンちゃん、あの指輪は婚約とか結婚の意味じゃなくて、ただの魔導具。あのユウトに相手がいるわけないじゃん」
「え?……魔、導具?」
「そう、魔導具」
言われて見てみれば、指輪の側面には見たことない幾何学模様が何重にも刻まれ一種の模様になっている。確認のためユウトを見上げてみると、手をプラプラとさせながら何でもなさそうな表情をしている。
「これは身体強化の魔導具だよ。こんなん付けないと、貧弱な俺じゃまともに外も歩けねえや」
「そう言っても、それ使ってるところまともに見たことないのだけど?」
「うっせ」とだけ言うとユウトはそっぽを向き、リュリュシータが肩を竦めた。
そんな遣り取りを見て、カノンはリングが左薬指に入らないかと挑戦しだした。ユウトと同じものがしたいという理由だけだったが、リングは大きすぎて薬指どころか腕輪の様になってしまう。
(薬指に入れば、ユウトと同じになるのに……)
薬指に入らないかと幾度も挑戦するが、その理不尽さに胸の内で愚痴を言っていた。するとーー
「入った!」
歓喜の声に話し込んでいたユウトとリュリュシータが振り返った。見てみると、カノンの手には先ほどのリングはなく、代わりに左薬指にはまった金色の指輪だけが輝いていた。この事態にユウトは驚いたが、リュリュシータは口角を歪ませ笑っていた。
まるでこの結果が分かっていたかのように。
「ねえユウト、これでお揃いだね!」
「あ、あぁ……」
戸惑うユウトとは違いカノンは大はしゃぎしていた。ユウトと共通するものができて本当に嬉しいのか、両手を合わせて天を仰いでいる。それもユウトが戸惑う要因で、記憶を失う以前を知るユウトとしてはその行動自体も理解不能で、人は記憶一つでここまで変わるものなのかと信じられないものを見る目でその光景を眺めていた。
リングの形が変わる。それは魔導具の起動を意味する。強制で変えたというのは考えられない。鍛冶屋が数人がかりで3ヶ月もの間休まず打ち続ける事で、やっと曲がるという強固な魔導具がこんな短時間で指輪サイズに収まるはずがない。この結果は間違いなく起動を確信するだろう。
それでもユウトが信じられなかったのは、以前のカノンを知っているからだ。
カノンはもとより魔力の操作がかなり下手な部類だった。そのせいで殆んどの魔術道具が使えず、シンドルといった最低限の物しか触れず苛立っていたのを覚えている。その際、怒りの捌け口として折られた肋骨は現在元通りの姿になっている。だからこそ、剣の才能があるカノンがいつまでも普通の剣を握る違和感に納得できていたのだが
「………これは」
少し、面白くなった。
自分の口角が緩むのを知りながらも、ユウトはこの結果が起きた原因を調べようと考えた。それが『アジェンタ』とカノンの記憶に繋がるならば、たとえ繊細で細い糸だろうが掴んでみせる。
対するカノンは心配する視線を受けながらも、左指にはめられた金色の指輪をひたすら眺め続けるのであった。
おっぱいマウスパッドが欲しい
こっちから不定期更新