夜闇の中で
ーーホゥホゥーー
どこからかフクロウの鳴き声が聞こえる。
今の時刻は丑三つ時、といったところだろうか。
草木も眠る丑三つ時とはよく言ったもので、時たまフクロウなんかの鳴き声が聞こえるだけで、周りはしんと静まりかえっていて。
一部の生物以外は、その存在を無くしているみたいで。
耳鳴りがしそうなくらい、静かだった。
ボクは厚い雲に覆われて、星達が見えないことを残念に思いながら、おもむろにそっと目蓋を閉じる。
静寂と暗闇。
生物としての本能に訴えかけてくる一つの感情。
この中で目を閉じていると、この暗い空間に溶けてしまうのではないか、そんな有り得ない事に対する恐怖心すら浮かんでくる。
ふと、脳裏に夕方に見た朽ちていくヒトガタがよぎる。
目を開けたら、ボクもあんな風に朽ちていっているのではないか、そんな嫌な想像すら浮かんでくる。
この、ボク以外に誰もいない世界で。
誰にも認識されることなく、朽ちていくヒトガタの仲間入りをするのではないかと。
何かの仮説だったかな?
学論だったのかもしれないけれど。
『認識されることでこの世界は存在する』
かなり原文とは違う気がするけれど、確かそんな感じの意味だったと思う。
他者から見られて、認識されて、初めてその存在が確立されるのなら。
ーーーーーこの世界に独りのボクは、ボクという存在を確立できているのだろうか?
ーーホゥホゥーー
はっ、と。
遠くから聞こえた来たフクロウの鳴き声で、我に帰る。
…今、ボクは何を考えたいた?
自分で自分の存在を否定するなんて、自殺行為に等しい事。
アイデンティティーの否定。
それは自己がある、知性のある人間としては致命的な禁忌。
それをしかけるなんて…。
あぁ、なんか落ち込んできた。
はぁ、と一つ溜め息。
ーーホゥホゥーー
ボクを責めてるような、慰めてるような、そんなフクロウの鳴き声が聞こえる。
ボクは頭を振りながら、目を開ける。
いつの間にかに寝転がっていたボクの目に映ったのは。
ーー満天の星空だった。
どれくらいの時間を、自問自答に費やしていたのかは分からないけれど。
決して短くない時間は、ボクの気持ちとは真逆に空を晴らしていて。
その、儚くも力強い耀きにボクは目を奪われた。
今ではボクしか認識しない星空。
昼の間は存在していない星空。
けれどもその存在は、雄大で。
そこでずっと、気の遠くなるような悠久の時間の中で、自己の存在を叫んでいて。
そのことに考えが至った時、鉛をのみ込んだ様に重くなっていた胸がスーっと軽くなった。
そうだ、自分以外に誰も居ないから、ボクが他者から認識されていないから。
そんなことはどうでもいいじゃないか。
『我思う。故に、我有り』
昔どこかで見たこの言葉。
あの時は全くといって良いほど、意味がわからなかったけれど。
その意味が少しわかった気がした。
もう一度、星空を見上げる。
いつの間にか、視界が少し滲んでいたけれど。
それを乱暴に拭って、強く、耀いている星達を見る。
それらは少し瞬いていて。
それになにか、励まされたような、応援されたような気がした。
あの星空は何万年も何億年も前の光らしいけれど。
なら、ボクもあの星達に負けないように。
あの星達に届くように。
この悲しくも美しい世界で精一杯生きていこう。
その誓いを認めたかのように、星空を一筋の光が流れた。
あれ?なんか最終回みたいになった?
でも、多分まだ終わりません。