聖夜
クリスマス特別編が書きたくて思い立った。
後悔はしていない。(12月7日時点)
めっきりと寒くなってきた、今日この頃。
ボクは何時もの様に、常の如く、自由気儘に歩いている。
数日前から都市部の方に入ったみたいで、ずっと荒廃しきったコンクリートジャングルの中にいる。
倒壊しているビル群に、散乱するガラス片や小物類、時たま小物。
地面には好き勝手に雑草が生えていて、前は整備されていたんだろう街路樹は、我が物顔で四方八方にその根を這わせている。
それは冬の色彩と相まって、廃都という単語がふさわしい様相を呈している。
ボクは冬がキライだ。
寒い冬がキライだ。
つめたさを感じさせる冬がキライだ。
否が応にも終わりを感じさせる冬がキライだ。
…死を連想させる冬がキライだ。
この時期はどうしても憂鬱になる。
世界は灰色に染まっていて、このまま朽ちていくだけと、連想させられる。
いつか訪れるであろう、終焉を予感させられる。
もぞもぞと、なにかが懐でうごめく。
ボクに刺激を与えるその存在を認識して、我に帰る。
ボクの懐から顔を出して、こっちを見つめる二つの瞳。
ボクに着いてきている黒い子猫。
その体温を、存在を確かめて、認識したら、少し気持ちが上向きになった。
ボクは唇の端を自然と上げながら、その艶やかな黒い頭を撫でさする。
気持ち良さそうに、目を細める黒猫。
その様子が可愛くて、ふふふ、なんて。
そんな声が思わず漏れた。
ーーさて、もう少しで日が暮れそうだ。
さっさと寝床の確保をしないと。
ボクはそうやって気持ちを切り替えて、今夜の拠点の確保に動いた。
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ふぅ。
今夜の寝床と定めた比較的痛みが少ない建物で、ボクは満腹感を知らせる少しだけ膨らんだお腹を撫でながら、ひとつ息を吐く。
相棒の黒猫は既に専用の寝床(毛布を丸めた簡単なもの)で、丸くなっている。
時たま、ぴゅるるる…なんて鼻笛を吹かせながら、それは気持ち良さそうに寝ている。
そんな和む物体を眺めながら、ボクは偶然拾った、使えそうなキャンドルに火をつける。
ぽう、と。
辺りが、優しい光に包まれる。
ゆらゆらと揺れながら、灯る火。
ボクはなんとなしにその光を見つめる。
ふわり、と。
そのキャンドルから花の香りがした。
それは安心する香りで。
とても心地よく、安らぐ香りで。
ボクはいつの間にか、目蓋の帳を降ろして、夢幻の世界へと旅立っていた。
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ーーーーー…。
ーー…。
ーーがやがや、と。
雑多な音が聞こえる。
雑踏の音、お店の客寄せの呼び声、大量の車が行き交う音、そして人々の笑い声。
ああ、夢だ。
これは、夢だ。
このもう終わってしまった、悲しくて寂しい世界ではあり得ない音なんだから。
すぐにでも覚めてしまうかもしれない、そんな危うい夢。
脆くも儚い、暖かくて幸せな夢。
でも。
それでも。
それでも今だけは。
今だけは、この幸せな夢幻の中に包まれていたい。
ボクはそっと目を開けた。
まず目に飛び込んだのは光。
昼間なんじゃないかと、錯覚してしまうくらい明るく、色とりどりの光。
それはビルの光だったり、綺麗に整備された道路の街灯だったり、人々の持っている携帯等の電子機器の光だったり。
でも、一番目をひいたのは。
街路樹を飾る光だった。
赤、青、オレンジに黄色。
他にも様々な色が木々を彩っている。
それはとても幸せな光で。
それはとても楽しそうな光で。
それは、とても美しい光だった。
ボクは相棒の黒猫と共に、馬鹿みたいに突っ立ってそれを見ていた。
周りの行き交う人々は誰もが笑顔で、幸せそうで。
友達同士で大騒ぎしている人々が居れば、少しくたびれた顔で、でも嬉しそうにケーキの箱と思われる物を持って、家族が待ってるんだろう家へと急ぐ男性。
もちろん、手を繋いだ親しげな男女も居る。
みんな揃って明るい顔で。
見てるこっちも、自然と幸せな気分になれた。
ふと、とあるイルミネーションで、浮かび上がっている文字に目が行く。
メリークリスマス!
それにはそう書いてあって。
ああ、今日は聖夜なのか、道理でみんな顔が明るい。
そう納得をした。
もしかしたら、ボクが今見ている夢は、サンタクロースからのクリスマスプレゼントなのかもしれない。
ボクだけしか居ない、あの世界にまだサンタクロースが居るとは思えないけれど。
あの暦もはっきりとしない世界で、今日がクリスマスなのかも分からないけれど。
そんな幻想を抱くのもいいかもしれない。
…だって、今日はクリスマスらしいのだから。
そんな、誰に対して言ってるのかも分からない、照れ隠しのようなものを考えていると。
突然、周囲からどよめきが上がる。
なんだろう、どうしたのだろうと思って、周りを見渡すとみんな揃って上を見上げている。
ボクも釣られて空を仰ぎ見ると。
ーー白が目に飛び込んできた。
ひらひらと、はらはらと。
ゆっくりと、舞うように地上に降りてきたのはーー雪だ。
ホワイトクリスマス、そんな小さな声が聞こえた。
雪は優しく降り積もる。
暗い空からゆっくりと舞い降りる。
なんとも出来すぎた夢だな、いや、夢だからかな?
なんて、そんなどこかひねくれた事を考えながら、ボクは雪を見続ける。
幸せそうな、楽しそうな声を聞きながら。
しばらく見続けて、この光景を心に刻み込むように、そっと目を閉じる。
そして再び目を開くとーー。
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ボクの目に映ったのは、よく眠る相棒の姿と、幾ばくか小さくなったキャンドル、それと黒に沈んだ世界だった。
はぁ。
ため息をひとつ。
幸せな世界は、あっさりとその姿を消した。
覚めるものとは分かっていても、もう少し幸せな空間に浸っていたかった。
特に今日は寒いから、尚更なのかもしれない。
寒いから無意識に、他の体温を求めているのかな?
なんて、がらでもないことをつらつらと考える。
いけない、弱気になってしまっている。
幸せな夢を見た後で、この世界の実情を認識してしまってナーバスになってるのかも。
気分を変える為に少し外に出ることにした。
冬の冷たい風に当たれば、この寝とぼけた頭も少しはハッキリするだろう。
そうすればきっと、いつものボクに戻れるはずだ。
ボクは相棒を起こさないように静かに起きて、新しいキャンドルに火をつけた。
ゆらゆらと踊る少し頼りない火で、足元を照らす。
転がっている瓦礫に躓かない様に、気を付けながら歩く。
階段を降りて、壊れかけた扉を開けて目を閉じて深呼吸。
なんとなく空を仰ぎ見ながら目を開けた。
そして息を飲んだ。
しんしんと、はらはらと。
外ではあの世界と同じように、雪が舞っていた。
かつてのこの世界と同じように、雪が舞っていた。
白い雪は分け隔てなく、この悲しくも美しい世界に降り積もっていく。
ああ、繋がっているんだな、なんて思って。
そんなことに、何故か胸が熱くなって。
少しだけ、本当に少しだけ目の前が滲んだ。
今日だけ、今日だけだから。
きっと明日にはいつものボクだから。
…今だけはこの感情に浸りたい。
ーーーりんりんりんりんりんーーー
何処か遠くで、そんな鈴の音が聞こえたような気がした。
読んで頂きありがとうございました。
良いクリスマスを(作者は仕事ですけどね←)




